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【BL】ゆりかご・コール〜寝坊遅刻魔の俺、クラスの人気者に見つかりました〜  作者: 虎ノ威きよひ


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38話 夜になったら

 それを目にした時、思わず俺は声を出した。


「でかいツリー......」


 ラーメンと唐揚げで腹をぱんぱんにした俺たちは、次はプレゼントを買おうと移動中だ。


 目的の店もラーメン屋と同じ地下街にあるんだけど、一部が工事中で行き止まりになっていた。

 一回地上に上がらなきゃいけなくなったから階段を上がったところ、巨大なツリーが目に入ったと言うわけだ。


 ツリーだけじゃない。

 駅前の広間は雪だるまや雪の結晶、トナカイやベルといったザ・クリスマスってものが飾り付けられていた。


 俺たちは自然と、ツリーの前まで足を運ぶ。

 色とりどりの球体が飾られ、よく見ればこれでもかというほど電飾がついている。

 そしてやはり、天辺には金ぴかの星。


 アサはビルの二階にまで届きそうな巨大ツリーを見上げて感嘆した。


「おっきいなー......クリスマス会のよりすごい」

「学校のがこんなにでかかったら……倒れてきてたときに潰されてたな」

「キスどころか、俺たち歯が折れてたかも」


 さらっと言われた単語に、俺は飛び上がりそうになった。


 キスしたこと思い出させんじゃねぇ!

 いや俺か! 俺が先に話題に出したのか!


 脳内でのたうち回りながらも、俺は平静を装おうと表情筋に力を込めた。


「……ぶつけたの、転んだ瞬間じゃねぇけどな」


 話題、変えられなかったな。話術よ来い。


 多分俺が焦っていることなんて、アサにはお見通しだ。

 その証拠に、俺の適当な返事に対してアサはそれ以上深くツッコんでこなかった。

 代わりに、ぐるりと広場を見渡した。


「夜になったら、広場もこのツリーも綺麗なんだって」

「イルミネーションか」


 俺も周囲に目を向けた。昼を過ぎて、だんだん人が増えてきてるな。

 クリスマスらしい飾りに光が灯る時間になったら、もっとここに人が集まるんだろう。

 冷たい風に頬を撫でられながら、ぼんやり想像する。


 すると、アサが肘でツンツンとつついてきた。


「夜になったらさ、見にこような」

「......ああ」


 爽やかな笑顔につられて、俺の口角も上がる。


 そういえば帰る時間とか決めてなかったけど、イルミネーションを一緒に見るのか。

 ということは、夜まで一緒にいられるな。


 頭で理解した瞬間、胸にじわじわ喜びが広がっていく。


 アサが再び歩き出したのについていきながら、俺は光り輝く広場にアサと二人になっているのを想像した。

 あのツリーの下で告白できたら、雰囲気に流されてオッケーしてもらえたりしないだろうか。なんてな。我ながら姑息な案を閃いてしまった。


(さすがに夢見がちだよな)


 そんな風に頭をお花畑にしていたから。

 俺は駅の改札が近くなっていることにも、その改札から人が溢れだしていることにも気が付かなかった。


「......っ」


 無警戒で人ごみにツッコんだ俺は、危うく人々の流れに飲み込まれそうになる。

 アサとはぐれそうになって焦っていると、ガシッっと手首を掴まれた。


「朔弥、もっとこっちに来て」


 という優しい声とともに、力強く腕を引かれる。

 俺はあっという間にアサのすぐそばに戻っていた。


「わ、悪い……」


 イルミネーションに浮かれてはぐれそうになるとか、子供みたいだ。


 バツが悪くて項垂れていると、アサは繋いでいるのと反対の手で頭を撫でてくれた。

 何も言われなくても、下がった目尻が「大丈夫だよ」と言ってくれている。


 アサは手を繋いだまま、改札から離れて地下への階段を下りて行った。


「えーっと、ステッカーの店はこっちだな」


 掴まれた手が、汗ばんでやしないかと気が気じゃない。

 でも温もりを離したくもなくて、カンカンと足音を響かせながらアサに声をかける。


「......あの、アサ」

「朔弥、離れないで」

「......ん」


 柔和だけれど強い響きを持った声に、俺ができたのは手を握り返すことだけだった。

 とにかくドキドキして、言葉も懸念もなにもかも飛んでいった。


 ただついていくしかなくて、無心で足を動かしているうちに目的地に着く。


お読みいただきありがとうございます!

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