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【BL】ゆりかご・コール〜寝坊遅刻魔の俺、クラスの人気者に見つかりました〜  作者: 虎ノ威きよひ


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37/40

37話 優しさ

 アサは俺の方に体を傾けて手を振っているだけなのに、びっくりするくらい絵になる。


 チェーン店のハンバーガー屋なのに、アサの周りだけオシャレな空間になったみたいだ。

 明るい灰色のパーカーなんか新品みたいにパキッとしてる。


 おかしいぞ。

 俺も灰色のパーカーを着てきたけど全然違う。

 去年から着まくっててヨレヨレのせいか?

 それともアサは無地だけど俺は謎の英文字が入ってるせいか?


 そもそもジーンズだって、なんの変哲もないジーンズのはずなのにおしゃれに見える。

 足か? 足の長さか。スタイルと顔のせいか。


 並んで座るのがなんかちょっと申し訳ねぇなって思いつつ、俺はちゃっかりアサの隣に座った。

 そのままストローの袋を開けていると、アサは首を傾げてくる。


「朔弥、ダウン脱がないのか? 暑くない?」

「平気」


 俺は黒いダウンジャケットのジッパーの位置を確認する。

 大丈夫だな、ちゃんと隠れてるな。


 謎の英文字が入ってるヨレヨレパーカーは、ラーメン屋でリンクコーデ確認の時にだけ見せよう。

 店員さんが俺とアサがリンクしてるって認めてくれるか不安だが仕方がない。


 俺は服装から気を逸らしたくて、アサのトレイを見た。

 飲み物と、フライドチキンが乗っている。


「今から唐揚げ食うのにフライドチキン食うのかよ」

「全然違うだろ~」

「まぁそうだけど」


 ポテトをつまんで頷きつつ、俺はどうも落ち着かない。

 チラリとアサの顔を見てから、次はストローの刺さったカップに目線をやった。


「何飲んでんだ」

「カルピス」

「定番だな」

「朔弥のは?」

「コーラ」

「炭酸派かー」

「苦手か?」

「飲めなくないんだけどなー。小さい時に鼻がジーンてして泣いてからあんまり飲んでない」


 可愛らしいエピソードを披露するアサは、ポンっとチキンを頬張った。

 動く口元とか、カップに添えられてる長い指とか、いつもと雰囲気が違って見える顔とか。

 不躾なくらい俺は観察してしまう。


 アサは嫌な顔ひとつしないけど、流石にツッコんできた。


「朔弥、今日はいつも以上に見てくれるけどどうしたんだ?」


 いつも以上にって言われちまった。

 こいつのこと、俺は普段からそんなに見てんのか。


 俺はストローを摘み、カップの中を意味もなくかき混ぜる。細かい氷がジャラジャラと音を鳴らした。


「......学校となんか違うからつい。耳のとか」

「カフス?」


 アサの耳を飾る鈍い金色の輪っかに、長い指が触れる。

 ピアスは校則違反になるから、穴を開けなくてもできるものをつけてるんだって教えてくれた。


「カフスつけてるだけで、なんか違うな......うまく言えねぇけど。私服だからかな」

「髪とかも朝から気合い入れたんだよ。朔弥に会うからさ」

「......お前またそういうこと言う......」

「そういうことって?」


 俺を必要以上に喜ばせることだよ!!!!!

 と思ったけど言えなかった。


 そして言われてみれば、確かに学校と髪型が違う。サイドを上げて、スッキリと耳元が見えるようになってる。

 鈍くて申し訳ない限りだ。


(俺ももう少し頑張ればよかった......のか?)


 前村に「ぐちゃぐちゃすぎる」と言われた髪に触る。ちゃんと櫛で整えてきたから、クリスマス会の朝よりはマシだとは思うけど......いや。いやいや。


 俺が自分で髪をセットしても、悲惨な結果になるだけだ。髪をとかしてきただけましなんだ。


 でももし告白して気まずくならない関係になれたら、髪のセットも練習してみよう。

 できそうもない目標を立てていると、不意にアサが手を伸ばしてきた。


「嫌じゃなければ、朔弥の髪......ちょっといじってもいい?」

「え......っ」


 スルリと耳元の髪を撫でられて、俺の体は緊張する。アサは目を細めて、指先で髪をといてきた。


「前村がやってたからさ、俺も触ってみたかったんだよな」

「へぇ......まぁ、別にいいぞ」


 なんて、気のない返事をしたけども。

 俺の心臓は超高速で全身に血を送っていた。

 前村のときより、アサの指先の温もりも動きも鮮明に感じてしまう。


「朔弥の髪、触ってて気持ちいいな。長さもちょうどいいからやりがいがある」


 ボサボサとも邪魔とも言わないところに、アサの気遣いを感じる。


 ドキドキしているうちに、俺はまた髪型だけイケメンっぽくなった。

 魔法か? イケメンって器用なんだな。


 しばらく時間を潰した俺たちは、丁度いい頃合いでハンバーガーショップを出る。


 そしてラーメン屋に着いてリンクコーデの確認をされたとき。

 ダウンジャケットを開いた俺は、謎の英字入りヨレヨレパーカーを披露することになったのだった。


 恥ずかしかったけど店員さんは認めてくれたし、アサもダサいなんて一言も言わなくて優しい世界だった。

 それどころか、


「店ではそのままいてくれよ。ちゃんとリンクしてて嬉しい」


 とか言いやがって。

 羞恥心が、好きなやつの笑顔に負けた。

 俺はダウンジャケットを脱いで店内で過ごすハメになる。


(次こそは! 次があればちゃんとした服を着る!)


 俺はそう決意する。

 服装や人の目を気にすることなんて、初めてのことだった。



お読みいただきありがとうございます!

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