40話 デートじゃない
何回も何回も、隙あらばスマホを見てしまう。
画面じゃなくて、その裏側をだ。
太陽の宝箱と月のゆりかごのステッカーが並んでいて嬉しくて仕方ない。
服屋とかゲーセンとか、地下街をあてもなくアサと二人でプラプラ歩いている俺は、かつてないほど機嫌がよかった。
今ならスキップもできてしまう。
スタート地点の噴水広場まで戻って来た時、アサは足を止めた。
「地下街はだいたい回ったけど......どうしようか。駅周辺で、他に行きたいところとかある?」
「夜までまだまだあるしな......お前は普段何してるんだ?」
「ゲーセンは行ったから......カラオケとか映画とか?」
聞いといてなんだけど、カラオケは嫌だな。うまく歌えないのが目に見えている。
俺は噴水の縁に腰を下ろして、久々にスマホの画面の方を見た。
歩き回っていた足が急に疲労を訴えてきてる気がする。
「映画、今なにやってるっけな」
映画ならなにかしら両方が好きなやつがやってるだろ。最悪、俺は興味なくてもアサが好きなのが上映されてたらいい。頼む空気読んでくれ映画館。
祈りながら検索していると、アサは立ったまま覗き込んでくる。
「アクション系がいいなー」
「あー、それならなんか最近広告見たような......てか、座れば?」
外出に慣れているであろうアサは、俺よりは絶対体力があるとは思うけど。
それでも歩き回ったことには変わりない。
俺は縁が噴水の飛沫で濡れてないのを確認して、隣をポンと叩く。
アサが頷いた、その時だった。
「あれ? アサ?」
誰かが声をかけてきて、アサは振り返る。
「......前村?」
こっちを指さして瞬きを繰り返しているのは、前村だった。
アサが返事をしたのを皮切りに、他の声も聞こえてくる。
「お、ほんとだアサだ」
「偶然やなー!」
同学年の陽キャが前村の他に三人。
別のクラスだけどたまに教室に来るから見たことがある。確か横田と上木だっけ。
それと、当然のように肥後も一緒にいた。
「アサ、斉藤と一緒だったのか」
肥後はアサで丁度隠れていた俺のことも見つけたらしい。呼ばれてしまった。
アサは返事もしなかったし表情は見えなかったけど、きっと笑っているんだろう。四人は噴水に近づいてくる。
率先して走ってきた横田が親しげににアサの肩を組んだ。
「なんだお前。イブに予定あるって言うからデートかと思ったら」
「サクならデートちゃうやん。一緒に遊べばよかったのに」
上木も俺とアサを見比べて笑っているけども。
お前らが遊んでる中に、俺がいたら変だろが。
後ろからゆっくり歩いてきた肥後は、低い声で呟いた。
「デートじゃなくないんじゃねぇの」
「肥後って二人で出かけるん、全部デートっていうタイプやったっけ」
「俺らが言ってるデートって、恋人同士とかがする方のことだぞ? アサとサクがデートしてるわけねぇじゃん」
上木と横田はおかしそうにケラケラ笑ってる。
悪気はないんだろう。
ないんだろうけど、二人の軽快な笑い声は矢になって俺の心にヒビを入れた。
(デートなわけない、のか)
そりゃそうか。
だって自分勝手で遅刻魔で友達すらまともにできなかった俺が、人気者の発光男子のアサに釣り合うわけがない。
友だちとして二人でいるのだって、側から見たら変なんだろう。
アサが整えてくれた髪を、俺は無意識にいじって崩してしまっていた。
アサにべったりくっついたままの横田は、いいことを思いついたと人差し指を立てた。
「これからカラオケ行くから、合流しようぜ。女子も喜ぶし」
最悪な気持ちの上にカラオケときたか。
絶対いかねぇからな俺は。
上木がニコニコと頷いていたが、アサに声をかけて以降黙っていた前村が急にデカい声を出した。
「ダメダメダメー! アサが来たら僕が目立たないじゃん」
腕でばつ印を作って、頬を膨らませている。
いいぞ前村。もっと嫌がってくれ。
けど、上木は怪訝そうな表情になってしまった。
「なんや前村。大部屋予約できたし、あと二、三人誘おかってさっきまで話しとったやろ。ちょうどええやん」
「それはそれ。これはこれでしょ。僕よりイケメンは禁止」
前村はアサのことを自分よりイケメンだと思ってたのか。肥後はいいのかよ。わけんかんねぇな。
不自然なほど必死で止めている前村の横で、肥後がため息を吐いた。
「どうするアサ、斉藤。正直に言えよ」
「俺は行かない」
スルリと言葉が出てきて、俺はバチンと口を押さえた。
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