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【BL】ゆりかご・コール〜寝坊遅刻魔の俺、クラスの人気者に見つかりました〜  作者: 虎ノ威きよひ


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35/40

35話 どうしよう

 また俺が返事をしない時間が長くなってきたから、アサが追撃してくる。


「ダメか?」


 かわいいの天才だ。

 なんだこの甘えたボイスは。

 落ち着いた低めの声なのに、感想がかわいい一択になってしまう。


「ダメじゃねぇ」


 頑張れ俺!

 ちゃんと気持ちを伝えるんだ。

 トキメキと緊張が詰まった喉をなんとか震わせた。


「俺も......俺も嬉しい、と、思う......」

「朔弥ってかわいいなぁ」

「おぁぁ?」


 間抜けすぎる声しか出なかった。

 昼間の爽やかさとは少し違う、とろけるようなゆったりした声で、想定外なことを言われたら仕方ない。そうなるだろ。


 かわいいのはお前だろって言い返してやろうか。キモいって思われるかな。かわいいな、はイケメンにだけ許される言葉だろうか。

 迷っているうちに、アサはもう別のことを考えていたらしい。


「どんな服なら合わせられるかな~。朔弥、どんな服が好きなんだ?」

「俺の私服なんて、パーカーとジーンズくらいしかねぇぞ」

「パーカー楽でいいよな。俺も好き」


 俺は好きっていうか、無難かなってだけなんだけど。

 しかも好きな人とクリスマスデートすんのにパーカーでいいもんなのか?

 じゃあどんな服がいいんだって言われてもわかんねぇけどさ。

 もっと早く服の話を聞いとくんだったな。


「アサは何色のパーカー持ってる?」

「んー......ホワイト、ネイビー......グレーもある」

「俺は黒、紺、灰色」


 つーかその三枚をヘビロテしてるとか知ったら、こいつはひっくり返るんじゃねぇだろうか。


「二枚被ってるな。朔弥と趣味合うかもしれない」


 嬉しそうなとこ悪いけど、三枚とも母さんに急かされて適当に選んだやつだ。

 とは言えず、俺は「そうだな」とだけ返した。


「紺か灰色か。アサはどっちがいい?」

「紺だと制服と被るし、灰色にしようか。せっかくだから雰囲気違う朔弥が見たいな」

「ん。じゃあそうする」


 ちょこちょこ入るアサの言葉に心臓が持たない。

 どうしよう。これでデートってのが勘違いだったら。さすがに詐欺罪で訴えていいんじゃなかろうか。


 俺が頷いたことで、アサの声から力が抜けた。


「決まったー……あと明日さぁ......プレゼントも買おうよ」

「プレゼント?」

「そうそう。選び合いしよ」

「プレゼントの選び合い」


 復唱しながら、頭の中で「恋人にクリスマスプレゼント渡したい!」と言っていたアサの声が響く。

 明日はイブで、プレゼントってことはクリスマスプレゼントだよな......


「……プレゼント……」

「そんな真剣に考えなくて大丈夫だよ」


 俺がフリーズして「プレゼント」botみたいになったから、アサが軽くフォローを入れてくれる。

 でも、俺の頭も心も「どうしよう」で埋め尽くされていた。


「俺、誰かへのプレゼントなんて選んだことねぇし……」

「それは何としても、俺が第一号にならないとな」


 なんだこいつは。

 これ以上俺をときめかせてどうするんだ。


 俺はベッドの上でゴロゴロ転がって、うーうーうなった。

 バサバサと羽毛布団が鳴る音が、アサにも聞こえてしまってるんじゃないだろうか。


 アサが喜ぶものなんてさっぱりわからない。


「センスねぇからな。がっかりすんなよ」

「するわけないって。そうだなぁ……プレゼントに迷うなら、ステッカーとかどう? 気負わずに買えるぞ」

「ステッカー……お前集めてんの?」

「スマホケースに挟むんだよ。朔弥のも透明のやつだっただろ?」

「おう」


 俺は答えながらスマホを裏返す。なるほど。

 そういえばこの裏側のところにステッカーとかおみくじとか紅葉とか、なんか色々挟んで賑やかにしてるの見たことあるな。


「挟んだらいつでも朔弥からのプレゼント持ち歩けるしなー」

「なる、ほど……」


 また、さらっとすごいこと言われたような。


 こいつは俺からのプレゼントを持ち歩きたいのか?

 スマホってことは本当に、ずっと、肌身離さずなんじゃねぇか?

 アサっていつもこんな感じだったっけ。こんな感じだったな。


 変わったのは俺の受け取り方だ。

 好きって自覚してから、ずっとアサに口説かれてるみたいだ。

 こいつはみんなにこうなんだ、なんてもう思いたくない。夢を見させてくれ。


 そしてアサは、俺の心臓にトドメを刺してきた。


「お互いをイメージしたステッカーを選ぼうな」


 アサが俺をイメージしてプレゼントを選んでくれるだと。

 しかもそれを俺はスマホケースに挟んで持ち歩けるのか。


「行く予定のラーメン屋、駅の地下街なんだけど。あの地下街ステッカーの店もあるんだ」


 アサが教えてくれているけど、俺はそれどころじゃない。


(アサのイメージ......)


 どんなステッカーがいいかって、頭の中はそればっかりになった。

 アサといえば、太陽だ。

 その後もアサと眠くなるまで会話したけれど、俺はスマホでずっと「ステッカー 太陽」と検索していた。


 やっぱ太陽なら色々ありそうだ。たぶんステッカー屋にもいくつかあるだろう。

 ちゃんと見つけられそうでホッとした。


 話がひと段落すると、アサはふわりと欠伸する。

 お開きの時間が来たみたいだ。


「じゃあ、明日はよろしくな。朔弥と二人、楽しみだぁ」

「ああ。……俺も楽しみにしてる」


 よし、ちゃんと素直に言えた。

 アサの深めの柔らかい笑い声が聞こえてくる。


「嬉しいよ朔弥......おやすみ」

「おやすみアサ。また明日」


 通話を切って、俺はスマホをベッドに投げ出した。

 ベッドの上に大の字になって、天井を眺める。

 誰にともなく、心の声を口から出してみた。


「明日、アサに告白とかしても......いいかな......」


 あんな人気者に対して、俺なんかがおこがましいだろうか。

 誰にでも優しい奴なんだから、勘違いだったってガッカリすることになるだろうか。


 でも俺は、アサが俺のことをどう思ってるか知りたい。


「言ってみるかぁ」


 心臓はもちろん、首も頭も耳も指先まで脈打ってる。

 そのくらいドキドキしたけど、不思議なことに俺が夢の世界に旅立つのは早かった。

 アサのゆりかごコールの効果だな。


お読みいただきありがとうございます!

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