35話 どうしよう
また俺が返事をしない時間が長くなってきたから、アサが追撃してくる。
「ダメか?」
かわいいの天才だ。
なんだこの甘えたボイスは。
落ち着いた低めの声なのに、感想がかわいい一択になってしまう。
「ダメじゃねぇ」
頑張れ俺!
ちゃんと気持ちを伝えるんだ。
トキメキと緊張が詰まった喉をなんとか震わせた。
「俺も......俺も嬉しい、と、思う......」
「朔弥ってかわいいなぁ」
「おぁぁ?」
間抜けすぎる声しか出なかった。
昼間の爽やかさとは少し違う、とろけるようなゆったりした声で、想定外なことを言われたら仕方ない。そうなるだろ。
かわいいのはお前だろって言い返してやろうか。キモいって思われるかな。かわいいな、はイケメンにだけ許される言葉だろうか。
迷っているうちに、アサはもう別のことを考えていたらしい。
「どんな服なら合わせられるかな~。朔弥、どんな服が好きなんだ?」
「俺の私服なんて、パーカーとジーンズくらいしかねぇぞ」
「パーカー楽でいいよな。俺も好き」
俺は好きっていうか、無難かなってだけなんだけど。
しかも好きな人とクリスマスデートすんのにパーカーでいいもんなのか?
じゃあどんな服がいいんだって言われてもわかんねぇけどさ。
もっと早く服の話を聞いとくんだったな。
「アサは何色のパーカー持ってる?」
「んー......ホワイト、ネイビー......グレーもある」
「俺は黒、紺、灰色」
つーかその三枚をヘビロテしてるとか知ったら、こいつはひっくり返るんじゃねぇだろうか。
「二枚被ってるな。朔弥と趣味合うかもしれない」
嬉しそうなとこ悪いけど、三枚とも母さんに急かされて適当に選んだやつだ。
とは言えず、俺は「そうだな」とだけ返した。
「紺か灰色か。アサはどっちがいい?」
「紺だと制服と被るし、灰色にしようか。せっかくだから雰囲気違う朔弥が見たいな」
「ん。じゃあそうする」
ちょこちょこ入るアサの言葉に心臓が持たない。
どうしよう。これでデートってのが勘違いだったら。さすがに詐欺罪で訴えていいんじゃなかろうか。
俺が頷いたことで、アサの声から力が抜けた。
「決まったー……あと明日さぁ......プレゼントも買おうよ」
「プレゼント?」
「そうそう。選び合いしよ」
「プレゼントの選び合い」
復唱しながら、頭の中で「恋人にクリスマスプレゼント渡したい!」と言っていたアサの声が響く。
明日はイブで、プレゼントってことはクリスマスプレゼントだよな......
「……プレゼント……」
「そんな真剣に考えなくて大丈夫だよ」
俺がフリーズして「プレゼント」botみたいになったから、アサが軽くフォローを入れてくれる。
でも、俺の頭も心も「どうしよう」で埋め尽くされていた。
「俺、誰かへのプレゼントなんて選んだことねぇし……」
「それは何としても、俺が第一号にならないとな」
なんだこいつは。
これ以上俺をときめかせてどうするんだ。
俺はベッドの上でゴロゴロ転がって、うーうーうなった。
バサバサと羽毛布団が鳴る音が、アサにも聞こえてしまってるんじゃないだろうか。
アサが喜ぶものなんてさっぱりわからない。
「センスねぇからな。がっかりすんなよ」
「するわけないって。そうだなぁ……プレゼントに迷うなら、ステッカーとかどう? 気負わずに買えるぞ」
「ステッカー……お前集めてんの?」
「スマホケースに挟むんだよ。朔弥のも透明のやつだっただろ?」
「おう」
俺は答えながらスマホを裏返す。なるほど。
そういえばこの裏側のところにステッカーとかおみくじとか紅葉とか、なんか色々挟んで賑やかにしてるの見たことあるな。
「挟んだらいつでも朔弥からのプレゼント持ち歩けるしなー」
「なる、ほど……」
また、さらっとすごいこと言われたような。
こいつは俺からのプレゼントを持ち歩きたいのか?
スマホってことは本当に、ずっと、肌身離さずなんじゃねぇか?
アサっていつもこんな感じだったっけ。こんな感じだったな。
変わったのは俺の受け取り方だ。
好きって自覚してから、ずっとアサに口説かれてるみたいだ。
こいつはみんなにこうなんだ、なんてもう思いたくない。夢を見させてくれ。
そしてアサは、俺の心臓にトドメを刺してきた。
「お互いをイメージしたステッカーを選ぼうな」
アサが俺をイメージしてプレゼントを選んでくれるだと。
しかもそれを俺はスマホケースに挟んで持ち歩けるのか。
「行く予定のラーメン屋、駅の地下街なんだけど。あの地下街ステッカーの店もあるんだ」
アサが教えてくれているけど、俺はそれどころじゃない。
(アサのイメージ......)
どんなステッカーがいいかって、頭の中はそればっかりになった。
アサといえば、太陽だ。
その後もアサと眠くなるまで会話したけれど、俺はスマホでずっと「ステッカー 太陽」と検索していた。
やっぱ太陽なら色々ありそうだ。たぶんステッカー屋にもいくつかあるだろう。
ちゃんと見つけられそうでホッとした。
話がひと段落すると、アサはふわりと欠伸する。
お開きの時間が来たみたいだ。
「じゃあ、明日はよろしくな。朔弥と二人、楽しみだぁ」
「ああ。……俺も楽しみにしてる」
よし、ちゃんと素直に言えた。
アサの深めの柔らかい笑い声が聞こえてくる。
「嬉しいよ朔弥......おやすみ」
「おやすみアサ。また明日」
通話を切って、俺はスマホをベッドに投げ出した。
ベッドの上に大の字になって、天井を眺める。
誰にともなく、心の声を口から出してみた。
「明日、アサに告白とかしても......いいかな......」
あんな人気者に対して、俺なんかがおこがましいだろうか。
誰にでも優しい奴なんだから、勘違いだったってガッカリすることになるだろうか。
でも俺は、アサが俺のことをどう思ってるか知りたい。
「言ってみるかぁ」
心臓はもちろん、首も頭も耳も指先まで脈打ってる。
そのくらいドキドキしたけど、不思議なことに俺が夢の世界に旅立つのは早かった。
アサのゆりかごコールの効果だな。
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