29話 チカチカ
クリスマス会が始まると、それはもうにぎやかだった。
全校生徒が集まってるんだから当たり前だけど。
今は先輩たちがお題を考えていたクリスマス事前アンケートの集計発表中......ではなく、アンケート案を元にした「多数決ゲーム」中だ。
「じゃあ次!『クリスマスに食べるものといえばフライドチキン? それともローストチキン?』どっちですかー! どっちも食べない人はイメージでー‼︎」
二年の中井先輩の快活な声が、マイクを通して体育館に響き渡る。
なんとも適当な二択だ。
こんな感じで、「クリスマスは家族と過ごす派か友達や恋人と過ごす派か」とか、「クリスマスケーキといえばホールケーキかブッシュドノエルか」とかのお題を実行委員が出す。
参加者は自分がこっち、と思う方の枠に移動する。マルバツゲームの派生みたいなゲームだ。
別に正解とかはないんだけど、お題のたびに友達同士で会話してるのが聞こえてきて楽しそうだ。
ちなみに俺とアサはそんな喧騒から離れて、二階にいた。
「これだな」
「デカいけど軽いな。さすが発泡スチロール」
サンタの衣装に似合うデカい袋を抱えて、俺たちはキャットウォークに出て行く。
二人っきりは気まずいんだけど、やることがあるから事務的な会話で繋げられた。
生徒たちはゲームに夢中になってて、俺たちが上にいることに気づかない。
俺たちはキャットウォークから雪を降らせる係なんだ。
反対側でも、同じ実行委員が袋を引きずっているのが見える。
二人ずつ、等間隔で5箇所に実行委員が並ぶ。
発泡スチロールを砕いた「雪」を大量に詰めた袋を一つずつ持って、俺とアサは膝をついた。隠れる必要はないけれど、なんとなくでっかい袋の後ろに身を屈める。
「ゲームが終わったら、最初は少しずつ降らせよう。で、みんなが気づき始めたら量を増やすんだ」
「ん、了解」
そこからは無言だった。
イベント中にペラペラ喋らないのは当たり前なんだけどな。今日はアサとまともに会話してないせいで落ち着かない。
すぐそこに体温を感じて、どうしても昨日のキスを思い出してしまう。
俺は袋の中の発泡スチロールを掴んでは離す、という意味のない行動を繰り返す。
独特な手触りがクセになり始めたころ、俺は横目でサンタ帽を被った端正な横顔を盗み見た。
(早くゲーム終わんねぇかな......ん?)
瞬きして、俺は目を凝らす。いつも健康的なアサの目元に、うっすらとクマがある。
改めて見てみると、疲れてるような眠そうなような表情をしている気もする。
もしかして、アサも昨日は眠れなかったんだろうか。
「なぁ、アサ......もしかして」
「よし、そろそろだな」
声量を落として話しかけたけど、アサはステージを見て立ち上がってしまった。
仕方なく口を閉じて俺も立ち上がったけれど......クラっときて手すりに捕まる。目の前がチカチカして、何度も瞬きする。
俺の様子に気づいたアサが、すぐに顔を覗き込んできた。
「朔弥、大丈夫か?」
近い近い!!
眉を下げた心配そうな顔がドアップだ。
俺は飛び跳ねるようにして、背筋を伸ばした。
「ただの立ちくらみだ。大丈夫だよ」
「無理はしないでくれよ。今日、ずっと体調悪そうだから」
ずっと見られてたのか。
恥ずかしいけど気にかけてもらえてたのが嬉しい。
怒ってるってのは勘違いだったのかもしれない。
やっぱりいつもの優しいアサだ。
ホッとしたら頭がふわふわしてきた。
今日は帰ったらゆりかごコールなしで寝るかもな。
そんなことを考えているうちに、クイズが終了した。
実行委員長の合図とともに、俺たち雪係は一握りの雪を一階に撒く。
俺の分は握りすぎてちょっと固まっちゃってるな。
でもひとまずパラパラと、静かに生徒たちの上に落ちていった。
「あれ?」
「なになに?」
「雪?」
体育館の端の方にいた生徒たちが気づいて見上げてきた。
それからはどんどん雪を掴んで撒いていく。
「雪雪雪ー!!!!!」
小学生みたいに、わざわざ雪を浴びにくるノリのいい生徒が来てくれたら一気に盛り上がった。
雪に向かって手を広げたり、掴もうとしたり、みんなが笑って俺たちを見上げている。
「べっ! 発泡スチロールかこれ!」
「なんで口に入れたの!?」
「雪降ってきたら口開けるよな」
「開ける開ける」
「開けないわよ普通」
「これ服にくっついてとれねぇ~」
ゲラゲラ笑いながら喋る声が聞こえてきて、俺もどんどん気持ちが上がってきた。
ガサガサと袋の中の発泡スチロールを両腕に抱えて、たくさん雪を降らせる。
歓声が上がるのが嬉しくて、また同じようにした。
隣を見ると、アサも白い歯を見せて目を細めている。
「なぁ朔弥! これ、俺たちが一番大変だよな!」
「確かに。サンタ服が真っ白だな......散らばった雪の片付けもヤバそうだ」
「うんうん......ほら、朔弥も雪!」
「は? うわっ!」
突然、白いものがドサっと頭に襲いかかってきた。
アサのやつ、俺に思いっきり雪をかけやがった!
「なにすんだ!」
負けじと雪をかけ返すと、アサのサンタ帽子が発泡スチロールまみれになる。
きっと俺も同じ状態なんだろう。
足元に溜まった発泡スチロールを踏みながら、俺たちは腹を抱えて笑った。
「こら実行委員ー! 下に降らせろ~」
「了解了解!」
下からの呼び声に、アサが軽快に答える。
かと思うと、雪の入った袋を抱え上げた。
アサの唇が、イタズラっぽく片方上がる。
「あー! おい! 待て待て待て!」
慌てふためく声なんてお構いなし。
まだ半分くらい雪が残っている袋を、アサは上からひっくり返した。
声をかけた生徒周辺に、雪が一気に落ちていく。
一階の一部は阿鼻叫喚だ。
「雪崩じゃん!」
「髪やばぁ!」
「こらアサー!」
本気の怒りは微塵も感じないブーイングの嵐。
アサはおかしそうに手を叩いて、俺の方を見た。
「ほら、朔弥もやっちゃえ」
「え」
「ほらほら」
前髪についた発泡スチロールを払いながら、アサが笑ってる。
照明を背景にしているアサは輝いて見えた。
(眩しい......)
いつだって、アサはキラキラしてる。
俺はアサに促されるままかがみ込んで、雪の袋を持ち上げようとした。
体を起こした瞬間、目の前がチカッと点滅する。
(あれ......?)
アサが眩しすぎたのかな?
視界が急にぐるりと回る。
「朔弥!!!!!」
隣にいるはずのアサの声が、なぜか遠くなって。
誰かに腕を掴まれて、引き寄せられた。
(あ……いい匂いする……)
そう思った瞬間、目の前が真っ白になった。
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