27話 視線
「......わかんねぇ。なんで朝日川があんなに怒ってるのか、わかんねぇんだ」
周りの生徒たちの話し声でかき消されそうな小声だったけど、前村はきっちり拾ってくれる。
「それは困ったねぇ......理由聞いてみた?」
「まだ......」
「わかんないなら聞くしかないよ」
「......」
前村が答えを持っているわけはなかった。
そりゃそうだ。
『聞けばわかる』なんてこと、俺にだってわかる。
わかってるけど、怖くて聞けないんだ。
俺は前村に返事ができないまま、アサの方へ目線をやる。
日光の入る窓際で肥後と楽しそうに話していた。
(眩しい......)
窓際にいるアサは、相変わらず後光を背負ってるみたいだ。
目を細めて眺めていると、肥後がアサの肩に腕をかけた。耳元で何か言ったかと思うと、アサの顔がブワッと赤くなる。
「顔真っ赤。アサ、意外と初心だよな」
「うるさいなぁ」
そんな声が聞こえてきて、俺は唇を噛んでしまう。
顔が整っていてスタイルがいい二人が並んでいるのが絵になって、モヤモヤした。
アサと肥後を睨むように見てしまいながら、ボソボソ声を出す。
「アサと肥後、近くねぇ?」
「そうかな? アサって誰とでもあんな感じじゃない?」
「............そっか」
何でもないふり、ちゃんとできたか俺。
そういえばアサと前村も、信じらんねぇくらい距離が近かったっけ。
そうだ。
よく考えたら俺なんかが特別なわけなんてなかった。アサは誰にでもそうなんだ。
でも、送らずにはいられない。
(離れろー離れろー)
なんて、醜い念を。
そんな念が届いてしまったのか、アサがこっちに気づいた。
目線が合ってしまって、俺は目をうろうろと泳がせる。
俺たちのやりとりに気付いているのかいないのか、前村は俺の頭に手を乗せた。
「仲直りのコツはとにかく早く話し合うことだよー頑張ってね」
わしゃわしゃと撫でられていると、目線の先のアサの眉間に皺が寄った気がした。
どうしたんだろうと思った時、覗き込んできた前村の顔が俺とアサを遮る。
「それにしても......サクくんの髪、ぐっちゃぐちゃ」
「悪かったな」
「気になるから直すよ」
そう言うやいなや、前村はズボンのポケットから折り畳みの櫛を取り出した。常に持ち歩いてんのかこいつ。
「......俺に拒否権ねぇのかよ」
「ないよー」
問答無用で髪を整えられて俺は虚無顔だ。
態度は横暴な前村だが、手つきは柔らかい。美容院にでもいるような気持ちでされるがままになる。
すると可愛らしい高い声が近くで聞こえてきた。
「あれ、前村くん楽しそうなことしてるー」
「でしょ。サクくんをイケメンにします」
「なにそれ最高! 手伝う!」
髪型だけでイケメンになるわけねぇだろ。
適当なことを言う前村と、面白がって近づいてきた女子に心の中でツッコミを入れる。
女子はラメ入りのポーチをどこからともなく出して、俺の机に置いた。
ポーチの中にはこれでもかというほど化粧品や髪飾りが詰め込まれている。俺にとっては異次元の代物だ。
「いっつも前髪邪魔そうだもんね。ピンいるー?」
前髪邪魔だって思われてたのか。
「別に邪魔じゃねぇし。もうちょっと伸びてから切るんだよ」
「絶対邪魔よ。目に入りそうだもの」
言い返してもあっさり正論で抑え込まれた。
というわけで、俺は完全に前村と女子に遊ばれている。
「ねぇねぇ前村くん~サンタカラーのピンしちゃお」
「サンタもいいけど......サクくん、ツリーのとどっちがいい?」
「俺はおもちゃじゃねぇぞ」
「いいじゃん、クリスマス会だからおしゃれしようよー」
ささやかな抵抗を試みるも、前村は気にせずにツリーの飾りがついたヘアピンを俺の頭に近づけてきた。
俺はできる限りのけ反って避けようとする。
「実行委員はサンタ帽子被るからピンなんて邪魔なだけ......おい」
「いいからいいから」
俺の目の前にいる二人の目は爛々としていて、決して逆らえる空気じゃなかった。
完全に諦めて遊ばれながら、俺は窓際に目線を向ける。
またアサと目が合った。
何か言いたそうな表情に話しかけたかったけど、勇気が出ない。
結局、俺たちはお互いに目を逸らす。
その後もう一回チラ見してみたけど、アサはもうこっちを見ていなかった。
ずっと肥後と仲良さげに話すアサを、俺はしばらく眺めてしまった。
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