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【BL】ゆりかご・コール〜寝坊遅刻魔の俺、クラスの人気者に見つかりました〜  作者: 虎ノ威きよひ


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24/40

24話 ハプニング

 飾り付けが進む体育館のステージ下にツリーを置く。

 箱にぎゅうぎゅうに詰めるために閉じていた枝を開けば、空間全体のクリスマス感が一気に増した。


 俺と朝日川は、ツリーを飾りつけ始める。

 こんなことするのはいつぶりだろう。

 ツリーの飾り付けが久々なのは朝日川も同じだったようで、子供の頃のクリスマストークが盛り上がる。


 隣で喋る朝日川は、傘の柄みたいな形のオーナメントを軽く振った。赤と白の縞々が目の端でチラチラする。


「でさ、この飾りが飴の形だって知って。本物だと勘違いした幼稚園児の俺は、どーしても食べたくてさ。ハサミで切っちゃったんだ」

「叱られただろ」

「ううん、母さん爆笑」

「お前の母さんって感じだな」


 にこにこして穏やかそうな女の人を想像して、口元が緩んだ。

 そんな他愛もない話をしてるうちに、ツリーは賑やかになっていく。


 俺はオーナメントの箱の中で一番大きい、金色の星を手にとった。


「一番上に飾るやつだよな」

「そうだな。届くかなー......っ」


 何も持たずに背伸びをした朝日川は、腕を目いっぱい伸ばす。足がプルプルするまで頑張っている。

 けど、ツリーのてっぺんには届かなかった。

 朝日川はハーッと息を吐いて大袈裟に肩を落とす。


「ギリ無理だー」

「お前が無理なら俺は論外だな」


 俺は自分よりも目線が高い朝日川を見て、それからもっと高いツリーのてっぺんを見上げる。

 腕を組んで唸った朝日川は、すぐにピンと人差し指を立てる。


「肩車しようか」

「なんでだよ。踏み台持ってきたらいいだろ」


 肩車なんてしたら安定しなくてツリーごと転けるのがオチだ。

 だいたい、朝日川に肩車されるなんて絶対落ち着かないしな。


 俺たちがごちゃごちゃ話していると、実行委員長が声をかけてくれた。


「ほら、これを使ってくれ。肩車は危ないからやめるんだぞ」


 いつから聞いていたのか、実行委員長は踏み台をツリーの前に置いてくれる。

 なんてできる人なんだ。


 朝日川が明るく礼を言ってる横で、俺はポカンとしてしまった。


「朔弥、星つけるからちょうだい」


 自然に台の上に乗った朝日川が手を差し出してくる。俺はずっと持っていた星を見下ろした。


 見ているだけでワクワクするような金の星と、朝日川を見比べる。


「あのさ......一番上の星、俺やっていいか?」

「もちろん! 意外だな、朔弥ってこういうのやりたい方なんだ」

「今までならどうでもいいって思ってた。クリスマスそのものも、もう興味ないっていうか……でも」


 俺は体育館を見回した。


 ダンボールで作ったプレゼントオブジェやケーキ、雪に見立てた綿、色紙をラミネート加工した雪の結晶、赤と緑のリボン......とにかく手作り感満載のクリスマス会会場。


 みんなでどうしたらクリスマスっぽくなるか話し合ったり、会議のはずがどんどん話が脱線したりしたのを思い出す。

 あんまり意見は出せなかったけど。


 ずっと朝日川の横にいる俺に、みんなが当たり前に声をかけてくれた。


 台から降りた朝日川と入れ替わりで台に登って、俺はクリスマスツリーのてっぺんに手を伸ばす。


「意外と楽しかった。クリスマス会の準備」


 手にカサカサとツリーの葉っぱの感触を覚えつつ、星を飾った。

 星は照明を反射して煌めいて、少し眩しい。


「お前のおかげだよ。……誘ってくれてありがとな、アサ」

「朔弥……」


 台から降りようとツリーに背を向けると、星より光り輝く瞳と目が合った。


 眩しいどころじゃない。

 こんな宝物みたいなやつと、みんなみたいに対等になれたら。

 俺ももう少し、自分から人と関われるようになる気がする。


 ああ、でも......


(ちょっと、物足りないような)


 高揚感の中にあるちょっとの隙間。

 でもそれには気がつかないふりをした。


 初めて呼んだ愛称(アサ)が、口の中で飴玉みたいにコロコロ残っている。

 黙っていた朝日川(アサ)が一歩近づいてきた。


 一点の曇りもない晴れやかな笑顔が、俺を呼ぶ。


「朔弥。良かったー」


 このくらい、迷いのない笑顔を浮かべられるようになりたいな。

 羨ましく思いながら、俺は足を床に下ろそうとした。


「うわっ! ごめん、当たった!」


 誰かの謝罪の言葉が体育館に響くのとほぼ同時に、目の前のアサの顔に影ができた。

 俺も影に覆われる。

 背後のツリーが倒れてきたのだ。


「……!?」


 ゾワっと背中に悪寒が走る。


「朔弥!」


 脚立から降りかけていた俺は、上手くバランスが取れなかった。

 アサが俺の体を支えようと手を伸ばす。

 でもツリーに押されるまま、俺はアサの方へ傾いた。


 膝に衝撃が走る。

 俺を支えきれなかったアサと一緒に、ツリーの下敷きになってしまった。


 一瞬、体育館のざわめきが遠のいた。


「ったた……朔弥、大丈夫?」


 俺の下から、アサの声がする。

 膝以外は痛みはない。

 ツリーがぶつかったはずの後頭部も、アサが手を添えて守ってくれていたからだ。


 体もアサの上に落ちたおかげで無事だった。

 ツリーの下で、俺は顔を動かす。


「あ、ああ。でも、お前の方が……っ」


 アサの様子を確認しようとした、その瞬間。

 唇に柔らかいものが触れた。


「……!?」


 世界が止まる。


「え……」


 目に映るのは、至近距離にあるアサの驚いた顔だけ。


 真っ白な思考の中でも、俺はすぐに理解した。

 さっきの柔らかいものはアサの唇だ。


 俺たちはツリーの下で見つめ合った。

 ほとんど全身が触れ合っているから、朝日川の体温がはっきり伝わってくる。


 呼吸も触れてる。鼓動も感じる。

 数秒間が、永遠に感じた。


「アサ! サク! 大丈夫か!!」

「ぶつかってごめん!!」


 二人して動けないでいる内に、誰かがツリーを退けてくれた。

 視界が晴れ、世界がまた動き出した。


 俺と朝日川は慌てて立ち上がる。

 早くみんなに大丈夫だって言わないといけない。

 それなのに、ツリーから助けてくれたのが誰かすら確認する余裕がない。


(キスしたのか? アサと? キス?)


 頭の中が「アサとキス」でいっぱいで、心臓が口から飛び出そうだ。

 みんなを安心させないといけないとわかっていても口が開けない。


(アサ、は……)


 隣を見ると、アサが唇を抑えて立ち尽くしていた。


「口、ぶつけちゃった? 血とか出てない?」


 副委員長が心配そうに覗き込んでも、ゆるゆると首を振るだけで何も答えない。

 表情は見えないけど、動揺してるみたいだ。


 不意にアサの視線が動いた。

 ばっちりと目が合ってしまって、俺は固まることしかできない。


 アサは手を口から離し、それから。

 困っているような笑っているような、なんとも言えない表情になって――俺から顔を背けてしまった。


 あれ?

 俺は一体、どんな顔をしているんだろう。




お読みいただきありがとうございます!

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