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【BL】ゆりかご・コール〜寝坊遅刻魔の俺、クラスの人気者に見つかりました〜  作者: 虎ノ威きよひ


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23/40

23話 期待

 気が付いた時には、俺は朝日川と二人で二階に着いていた。


 物置の名に相応しく、埃っぽい。

 大小さまざまな箱や、棚、何に使うかわからない棒なんかが雑多に置かれている狭い空間だ。


 手を離せないまま、そこに二人で立ち尽くす。

 先に口を開いたのは朝日川だった。


「なんか、まいった」

「な、なにがだ?」

「嬉しくてさ。にやけるの我慢するのに必死だよ」

「にやける? クリスマス会の準備が楽しくてか?」


 朝日川がにやける理由が全くわからなくて、俺は首を傾げるしかない。

 というか、ちゃんと普通の顔ができているのか、真っ赤になっていやしないかとずっとソワソワしてる。


 俺の言葉を聞いた朝日川は、緩く首を振った。


「違うよ。そうじゃなくて……さっきさ」

「さっきって……先輩たちと話してた時か?」

「そう。にやけるの我慢してたら表情失敗したんだ。ぽやっとしてるって言われちゃったな」


 下がった眉尻に、言葉通り緩んだ口元。耳を赤くし、はにかんでる表情が俺に向けられた。


 なんだその顔。

 なんだその顔!


 俺は舌がもつれそうになるのをなんとか耐えて、口を動かした。


「お前、ぼーっとしてること多いけどな」

「朔弥の前だけだって、いつも言ってるだろ?」

「そう、だな」


 先輩たちの反応を見るに、朝日川の言うことは嘘じゃない。本当に、俺の前でだけ無防備な表情を見せてくれるのかもしれない。

 じわじわと全身に熱いものが広がって、頭がくらくらしてくる。


 俺の顔をじっと見つめてきた朝日川は、握ってる手に力を込めた。


「朔弥さ。俺が何を嬉しかったか、さては本気でわかってないな?」

「わかるわけねぇだろ。俺はエスパーじゃねぇぞ」


 ふざけた返事をした俺に、朝日川の目が柔らかく細まる。


「朔弥が一番に俺を頼ってくれたことだよ」

「恥ずかしいから、忘れろ」

「忘れるわけないだろ」


 ダメだ。顔を見ないでほしい。

 でも、真っ直ぐな瞳から目が離せない。

 朝日川は握っている俺の手に、もう片方の手も重ねた。


「俺、今すごく嬉しいんだから」


 両手で包み込まれた手が熱すぎる。燃えそうだ。


 なんで?

 なんでそんな幸せそうな顔で笑うんだ。


 ごちゃごちゃした物置にいるのに、朝日川が輝いて見える。

 瞬きをするのも惜しい。


 こんなの、期待しちゃうだろ。


(......なにを?)


 俺は何を期待してる?


「あの、あのな朔弥。俺……」


 瞳を揺らした朝日川が、胸に俺の手を引き寄せた。

 否応なしに顔が近づいて、ふわりと爽やかな香りが鼻を通り抜けていく。


「アサー! サクー! あったかー!?」


 突然、大きな声が割り込んできた。

 俺たちは揃って大きく肩を跳ねさせた。

 その拍子に朝日川の手も離れて、俺の手は行き場をなくして宙ぶらりんになる。


 朝日川は俺の背中の方にあるドアに向かって、声を張り上げた。


「中井先輩ー! 今探し中ですー!」

「わかったー! 運ぶの二人で無理そうなら呼べよー!」

「ありがとうございまーす!」


 二人の声のぶつけあいみたいなのが終わると、朝日川は苦笑いで前髪を掻き上げた。


「あー……早くツリーもっていかないとな」

「そうだな。探すか」

「うんうん……って、探すまでもなく『ツリー』って書いてある箱発見。思ったより長細いんだなー」


 ついさっきまでの甘い空気が嘘みたいに、いつもの朝日川に戻った。


 いったい何を言おうとしたんだ、って聞きたいのに聞けない。

 なんとなく、もうそんな雰囲気じゃないって思った。


 俺も気持ちを切り替えて、壁に立てかけてある箱に近づいていく。

 長身の朝日川の頭の天辺よりも背が高い。


 箱を見上げて、俺は腰に手を当てた。


「確かに思ったよりでかいな。中井先輩、呼んでくるか?」


 階段を降りるのも骨が折れそうだな、なんて思いながら箱に触れる。

 一年に一回しか必要とされないそれは、触った部分に跡が残るくらい埃を被っていた。


 俺が無言のまま指先を払う横で、朝日川は躊躇なく箱に手をかけた。


「ん……、思ったより軽いかも」

「じゃ、いけるか」


 朝日川が箱を一人で浮かせることができたから、俺たちは二人でツリーの箱を運び出すことにした。


 箱を横向きに倒して、向かい合わせで端っこを持つ。

 軽いとはいえずっしりと腕に重みを感じた。


 足元に注意しながら、俺たちはゆっくりと歩き始める。

 後ろを確認しながら歩く朝日川の横顔が綺麗で、至近距離で感じた香りを思い出した。



お読みいただきありがとうございます!

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