22話 癖になった
「さぁ、いよいよ明日が本番だ!」
クリスマス会実行委員長の気合の入った声が体育館に響き渡る。
それを合図に、皆が持ち場についた。
十二月に入り、期末テストが終わった翌日。
開放感でいっぱいの気持ちで、俺たちはクリスマス会の準備を始めた。
テスト前から準備していた飾りで、体育館を彩っていく。
俺はまず、ダンボールで作ったプレゼントのオブジェを運ぶ。
紙で作った雪の結晶を壁に貼り付けている朝日川の横を通って、飾りつける予定地に置いた。
その時、ポンポンと肩を叩かれた。
「サクちゃんサクちゃん!」
「どうしました?」
いつの間にか呼ばれるようになった愛称にも慣れてしまった。最初は違和感しかなかったのに、人間って不思議だ。
振り返ると、副委員長が長い黒髪を揺らして見上げてきていた。
「そのプレゼント、ツリーの下に飾るの。だから先にツリーをお願い!」
「わかりました。ツリーはどこにあるんですか?」
「二階の物置みたいになってるとこにあるみたい! 一人じゃ無理だと思うから誰か誘って~」
「はい。わかりました」
副委員長は体育館のステージの方を指差す。ステージ横に二階へ上がる階段があるんだろう。
頷いた俺は、雪の結晶を持って近くの壁まで移動してきていた朝日川の背中に呼びかけた。
「朝日川ー」
「なにー?ちょっと待ってなーすぐ行くから」
「……っ」
透明なテープをちぎりつつ、朝日川は片目を瞑って見せてきた。
こんなにナチュラルにウインクして許されるヤツ、なかなかいない。
思わず言葉に詰まった俺を見て、副委員長が軽やかに手を叩いた。
「あはは! サクちゃん、迷いなくアサのこと呼んじゃうんだ」
「サクー! 俺のが近くにいたんだからこっちも頼れよなー」
どこからともなく、二年生の中井先輩もやってきて俺の肩に腕をかける。
耳元で豪快な笑い声を聞きながら、俺はハッとした。
確かに、別のことしてる朝日川にわざわざ声をかける必要はない。
何も考えず、当たり前のように呼んでしまった。
「あー......なんか癖? になってて」
俺はもごもご言って、額を押さえる。
恥ずかしすぎて俯いていると、足元に見える白い上履きが増えた。
わざわざ作業を中断してくれた朝日川が来てくれたんだ。
「なに? 朔弥、何が癖になってた?」
「なんでもねぇよ」
もう話を掘り下げないでほしい。
だから適当に流そうとしたのに、副委員長はそれを許してくれなかった。
「サクちゃんね~『誰か誘って』って言われたら、まずアサくんに声かけちゃうのが癖になっちゃったって!」
「わざわざ本人に言わないでください」
「なんだサク、照れてんのかよー」
中井先輩はニマニマしながら、頬を突いてくる。俺は逃げることもできずにされるがままだ。
くっそ、面白がりやがって。
せめてもの抵抗に、俺は肩にある中井先輩の腕を「重いです」とどけた。
羞恥心でどうにかなりそうだ。顔が上げられない。
俺は上履きの『朝日川 宝』の名前に向かって話しかけた。
「朝日川、悪い。他のことやってたのに……」
「......」
返事はない。おかしいな、聞こえなかったのか?
「朝日川、ごめん忙しかったのに呼んじまって」
どうしてもまっすぐ顔を見られない俺は、ほとんど俯いたまま目線だけ朝日川に向ける。
朝日川はハッとしたように口を動かし始めた。
「あ! だ、大丈夫大丈夫! やること終わらせてきたから! 何するか教えて」
妙に声が大きくて、焦ってるのがわかる。
隣で俺たちを面白そうに見ていた中井先輩が、目を瞬かせた。
「なんかアサ、一瞬珍しい顔になったな」
「珍しい顔......?」
朝日川はいつも通りの顔に見えたけど。
首を傾げていると、朝日川もきょとんとしている。
腑に落ちない俺たちに対し、副委員長だけは中井先輩に同意した。
「ぽやっとしちゃって、今日のアサくんかわいい! でも、疲れてたら少し休憩してね」
「えっ! ぜーんぜん疲れてないです!」
勢いよく頭を左右に振った朝日川は、改めて俺に向き直った。
「朔弥、何すんだっけ?」
「に、二階の物置にツリー取りにいく」
「行こう!」
言うや否や、朝日川は俺の手をギュッと握った。
驚く間も照れる間もツッコむ間もなく、力強く引っ張られる。
後ろから「仲いいねー」なんて言われても、俺は大混乱で何も反応できない。
ただ、「朝日川と手をつないでる」ってことに意識が全部持ってかれてる。
心臓がこれまでの人生で一番速く動き、大きな音を立てていた。
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