20話 美点欠点
結局、朝日川には恋人なんてできないまま日は過ぎた。
おかしいな。
本気を出せばいつでも恋人ができるに違いないのに。
好きな相手が朝日川に全く靡かない変なヤツなんだろうか。
とにかく何の進展もないまま、十一月末になってしまった。
十二月の一週目は期末テストがある。だから、今日はいつもより早く下校時間がきた。
「朔弥、一緒に帰ろう」
教科書で重くなったリュックを背負った俺に、朝日川が声をかけてきた。
俺は当たり前のように隣までやってきたイケメンに首を傾げる。
「ん......? 実行委員ないのに?」
「実行委員ないと一緒に帰っちゃだめなのか?」
「そんなわけ……珍しいって思っただけだ」
テスト勉強期間中は部活も委員会活動もしてはいけない。
期間限定のクリスマス実行委員も、例外ではなかった。
実行委員の活動のあと、俺と朝日川はいつも一緒に帰っている。とはいっても、俺は自転車で朝日川は電車通学。学校の最寄り駅まで一緒に歩くだけだ。
だから朝日川は普段は電車通学の友だちと帰ってるんだけど……よくわからないな、一軍陽キャの気まぐれって。
「朔弥と一緒に帰る日がないと、俺テスト頑張れないからさー」
ヘラヘラと本人はまったりしているが、マジでわからない。
大丈夫なのかこいつ。
でも、ちょっと嬉しいと思ってしまっている自分もいて……思わず朝日川の頭を撫でてしまっていた。
朝日川は目を瞬かせる。
「さ、朔弥?」
「あ……わりぃ。行くか」
俺はすぐに手を引いて、朝日川に背を向ける。
早足になって教室を出て、追いかけてくる朝日川の足音を聞きながら廊下を歩いた。
サラリとした髪の感触がまだ指先に残ってる。
手をグッと握りしめて、俺は生徒と生徒の間を縫うようにぐんぐん進んだ。
人気者の朝日川は、すれ違う生徒に声をかけられては返事をしている。
だからなかなか追いついてこない。
そして、今はそれに助けられてる。
顔が熱くて、心臓が痛いくらい鳴っていて。
早く外に出て、冷やさないと。
その一心で歩いた俺は、思惑通り先に玄関に出た。
冷蔵庫に飛び込んだみたいに、氷のような風が襲ってくる。
早歩きで温かくなっていた手や顔の温度が、一気に下がった。
「寒いなー」
追いついてきた朝日川は、置いていった俺に文句も言わずに隣に立った。
横目で見ると、形のいい唇からふわりと白い息が舞っている。
俺はみっともない顔を見られずにすんだ安心感で、こっそりと息を吐いた。
「冬って感じに、なってきたよな」
改めて歩き始める。今度は朝日川と隣同士で歩ける速さにしようと気を付けた。
朝日川もピッタリとついてくる。下校する生徒達に紛れて自転車置き場、校門へと二人で進んだ。
自転車を引いて歩くなんて面倒なこと、きっと朝日川に構われるようにならなきゃしなかったな。
「12月になったらテストかー......朔弥、勉強できてるか?」
「ほどほど」
「ゲームばっかしてないか?」
「ほどほど」
できれば聞かないでほしいこと聞きやがって。
テスト期間中にゲームしないわけないだろ。
でも朝日川は俺の返事を聞いて、肘で突っついてくる。
「なんだよそれー。一緒に二年生になれるんだろうな」
「遅刻のせいで内申がヤバいって言われたことはあるけど、成績のことで先生に注意されたことねぇから。大丈夫だろ」
「だといいなー」
こいつ、さては信じてないな。
「俺、成績は真ん中くらいなんだよ。良くも悪くもねぇの」
「ちゃんと今回もその成績維持してくれよ?で、テストが終わったら......」
朝日川は一拍置いて、俺の方を見た。
「クリスマスだな」
溜めた割に普通のこと言ってんな。
でも、澄んだ瞳に真剣さがチラついている。
その意味にピンときて、俺はすぐに相槌を打った。
「ああ。クリスマス会、ようやく終わるな」
「へ? く、クリスマス会......? あー、うん。そうだな。テストの後はそうだよな」
妙に歯切れが悪い。
クリスマス会の準備にいつも一生懸命だから、気合い入ってるんだと思ったのに。
外したのか?と思いつつ、俺は一緒に準備した日々を頭に思い浮かべる。
実行委員中はほとんどの時間、朝日川の笑顔が近くにあった。
「準備すんの、意外と楽しかったよ。来年はやんねぇけど」
「やらないのかよ。俺が実行委員やるから一緒にやってくれって言ったら、やってくれるか?」
「その時考える」
「やらないって即答しないんだな」
口角を上げる朝日川を見て、俺はちょっとだけ反省した。
そういえば、いつもとりあえず断ってたよな。
「お前に頼まれたら押し切られる気がすんだよ。来年もやるなら、お前クリスマス会実行委員長とかしてそうだな」
「朔弥の中の俺って、優等生なんだなぁ」
爽やかで柔らかい声は、「本当は違うのに」とでも言っているようだ。
優等生だろって言ってやりたいところだが、確かにちょっと違和感がある。
俺は自転車のハンドルを握り直し、言葉を選びながら視線を動かす。
駅が近づくにつれて、学生はまばらになり色んな人々が目に入った。道を走る車も増えて、周囲が賑やかになってきている。
「優等生......優等生っていうほどお堅いイメージでもねぇけど......人気者で、いい奴代表。それで」
「それで?」
「マイペースで抜けてるとこもある。......っていう欠点がまたあざとい」
思ったことを一つずつ言っていくと、朝日川は目尻を下げた。
「欠点があざといってなんだよ。やっぱり朔弥っておもしろいなー」
「可愛くてずるいと思って」
これまで俺がイメージしてた通りの光り輝く爽やかくんだったら、きっとこんなに一緒にいられない。
たまに見せる、ホワンとした感じや意外と落ち着いてるところがいいんだと思う。
正直に全部伝えると、朝日川は口元を覆って俯いてしまった。
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