12話 見えない
朝日川とゆりかごコールをする前まで、休み時間は俺にとって寝るための時間だった。
だけど今は、ぼーっとする時間に変わっている。
......ちゃんと変わってるんだよ。ちょっと違うんだ。教室の空気をちゃんと感じてるから。
そして意外にも、ぼっちでも起きていると声をかけられることがあるようで。
「だーれだ」
今は誰だかわからない女子に目隠しされてるところだ。
大丈夫か? 目隠し相手は俺で合ってるか?
俺の席に座ってるボサボサ頭なんて、俺しかいないから大丈夫だよな?
と、思いつつ俺は正直に答える。
「知らねぇ」
「斉藤くん冷たい! 知らなくないよークラスメイトだもん」
良かった。
このクラスに斉藤は俺しかいないから、目隠し相手は俺であっているようだ。
間違っちゃった最悪! と言われる心配はない。
見当違いの方向に安心した俺は、あからさまなため息を吐いてしまう。
「声で誰か判別できるほど親しい女子がいねぇ」
ただの事実を伝えただけなのに、背後から弾けるような笑い声が聞こえてきた。
俺を目隠ししている手も小刻みに震えている。
「あはは!」
「斉藤くん、対応が塩すぎ!」
なんか今、女子の声が二種類だった気がするぞ。
「目隠し犯と声掛け犯は別人か?」
「おお、鋭いね!」
「じゃあもういっこヒント! 目隠ししてるのは私たちじゃないよ! 男子だよー!」
誰だよ女子に目隠しされてるとか思ったやつは。
俺だよ。
でもこれで決まりだ。
男子だっていうなら、こんなことするやつで頭に浮かぶのは一人しかいない。
「朝日川か」
自信満々で答えたってのに、視界は暗いままだった。
代わりに、また笑い声というか、はしゃぎ声がした。
「残念! アサじゃありませーん」
「朝日川以外にいるかこんなことするヤツ」
「いるよー!」
「わかんねぇ」
言うまでもなく、俺はもう考えるのをやめていた。
自慢じゃねぇが男子にも友だちはいない。
休み時間はずっと寝てたんだから。
ということは、朝日川以外だっていうなら誰でも一緒だ。答えようがない。
「安東」
「違う~」
「岩倉」
「ハズレ~」
「宇野原」
「出席番号順は反則反則~!」
クラスメイトの名前を挙げていくけど、お気に召さないらしい。
鈴が転がるどころかジャランジャラン鳴ってるって感じの声で笑ってるから、女子二人は面白がっているんだろう。
目隠し犯の男子も声が漏れてる。
でもやっぱり誰だかわからない。
このまま出席番号順でいってやろうと口を開いた時、救世主がやってきた。
「何やってんだ前村たち」
爽やかな声が耳を通り抜けていく。
本当に朝日川じゃなかったんだなって、俺はようやく納得した。
「あ! アサ! ダメだろ答え言っちゃ~」
「目隠し犯、前村か」
「ほらー!バレちゃったじゃないか」
不満そうな前村の声とともに、視界が晴れる。
光の中で一番に目に飛び込んできたのは、両手を合わせている朝日川の整った顔だった。
「ごめんごめん! 何やってるかちゃんと見えてなくて」
眩しい笑顔と軽い口調で謝る朝日川は、そんなに悪いと思ってなさそうだ。
後ろを振り向けば、俺の目隠しをしていた前村が唇を尖らせていた。
「もー! まぁいいけどさ。絶対当ててもらえなさそうだったし」
「わかるわけねぇ」
肩をすくめる俺に対してひとしきり笑った後、前村に巻き込まれていた女子たちはご機嫌で離れていった。
窓際でこっちを窺っていた女子グループのところに合流したのを、目の端でなんとなく追う。
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