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【BL】ゆりかご・コール〜寝坊遅刻魔の俺、クラスの人気者に見つかりました〜  作者: 虎ノ威きよひ


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13話 一緒に行こう

 女子を見ていた俺の目に、前村の中性的な顔がドアップになる。びびってのけぞっちまった。

 朝日川といい前村といい、イケメンってのはみんな顔が近いのか?


「アサの手なら、わかった?」

「わかってねぇから朝日川って言ったんだよ」

「そういえばそっか。残念だったね、アサ」

「残念だなー」


 小首を傾げる前村に、朝日川は緩く微笑む。

 フンと鼻を鳴らしつつ、俺は机に頬杖をついた。


 朝日川の顔は、残念だなんて思ってない顔だ。その場の空気に合わせて発言してるのが丸わかりだぞ。


 そう油断していると、俺の机の正面に立つ朝日川が両手をパーにした。そして、俺の顔面に突きつけてくる。


「ほら、これが俺の手だ」

「そうだな」

「覚えてくれよ」


 ペンだこのある指の長い手が、俺の左手を包んだ。手を擦り付け、ギュッと握り、指を絡めてくる。


 確かに前村とは違う気がする。

 上手く言えないけど、朝日川の手から伝わってくる体温と触れ合う肌の質感が......


(気持ちいい............いや、いやいやいやバカか!)


 自分の思考にビビった俺は、思わず手を振り払った。


「覚えられるか! 手の感触なんて誰でもそんなに変わんねぇよ!」

「えー」


 朝日川はしょぼんと眉尻を下げた。

 犬が耳をぺたんとしてるような、そんなかわいさがある気がするのは錯覚だ。


「俺は朔弥の手、わかると思う」

「......っ、言ってろ」


 こいつと会話してると、本当に調子が狂う。

 いつの間にか俺の隣の席を陣取っていた前村は、黒目がちの瞳で朝日川を見つめた。


「なんか、アサってほんとに斉藤くんに懐いてるよねぇ」


 なにやら感心しているようだが、俺は「それは違う」と言いたい。

 朝日川は気まぐれに俺にかまっているだけだ。

 なんでなのか、本当にわからないけれど。


 でも俺がそれを否定する前に、うんうんと前村は勝手に頷いている。

 かと思うと、ポンっと手を叩いた。


「そうだ。今日の放課後、唐揚げクレープを食べに行くんだ。一緒に行かない? アサと肥後も一緒だよ」

「行かない」

「即答すぎるよ!」

「朔弥だからな」


 興味がなさすぎて気持ちのままに断ると、前村は大げさな声を出した。

 朝日川は特に誘おうともしてないみたいで、サラリと流してしまった。


 そういえば。朝日川は俺に構ってくるくせに、他の友達といるところに呼ぼうとはしない。

 別に構わないけど、本当にただの暇つぶしの気まぐれなんだと再確認する。


 なんとなく、胸がスースーするような変な感じがした。


 涼しい顔をしている朝日川に視線を向けていると、隣から腕をぐいっと掴まれた。前村が腕にしがみついて頬を膨らませている。


「いこーよー! 僕も朔弥と仲良くなりたい!」


 子どもみたいなやつだな。


「あ! 前村、勝手に名前呼びしてる」


 お前もいきなり名前呼びだったろ。

 でもそんなことを知らない前村は、頬を俺の肩にくっつけたままにっこりと笑いかけてくる。


「許可制なの? 朔弥朔弥~僕も朔弥って呼んでいいよね?」

「別になんでもいい。呼ばれてることがわかれば」


 呼び方なんて、どうでも良すぎる。

 朝日川以外のやつが名前呼びしてくるのもなんだか変な感じ......と思ったけど、よく考えたら小中学生のころの友だちは名前で呼ぶやつも多い。

 久しぶりなだけだ。


 やる気のない俺の返事を聞いて、前村は笑みを深めた。


「だよね! じゃあサク、一緒にクレープ食べに行こ! リンクコーデ割っていうのがあってね、制服でもいいんだよ」

「じゃあってなんだよ。断っただろ」


 しかも呼び方が「朔弥」からさっきの今で「サク」に変わってんぞ。

 ツッコミが追いつかねぇ。


「コラ前村。無理に誘うなって」


 困り顔の朝日川が、俺の肩を持ってくれる。

 そんな朝日川の態度に、前村は怪訝そうな表情になった。


「なんで? アサだって、サクが一緒だったら嬉しいでしょ?」

「......ま、まぁ......そりゃそうだけど」


 歯切れが悪い返事をする朝日川は、どう見ても嬉しそうじゃない。

 俺の腹の中に、黒いものがポツンと芽生えた。


「やっぱ、クレープ食べに行く」


 朝日川を困らせてやろうって、意地悪な気持ちになってしまったんだ。

 煮え切らない態度だった朝日川が、目を見開いた。


「えっ」

「やったね! じゃあまた放課後!」

「ああ、わかった」


 前村は約束を勝ち取った、と言わんばかりの笑顔だ。機嫌良さそうに俺の背中を叩いたと同時に鳴ったチャイムを聞いて、自席に戻っていった。


 反対に、朝日川は前の席を動かない。

 モンスターにでも出会ったかのような顔をしていた。


「さ、朔弥。いいの?」


 そんなに俺が一緒に行くのが珍しいのかよ。

 珍しいよな、そうだよな。

 俺もそう思う。


 すでにめんどくさくなって後悔しつつ、俺はごちゃごちゃした机の中から数学の教科書を引っ張り出す。


「暇だし」

「そ、そっか......なら、いいんだ」


 曖昧に笑う朝日川の気持ちがさっぱりわからない。

 誰に対してもウェルカムなやつってイメージだったけど。


 どう見ても、放課後に俺が一緒なのは嬉しくなさそうだ。

 腹に芽生えた黒いものが、ズンッと重くなった。


お読みいただきありがとうございました!

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