11話 クリスマス実行委員会
浮いている。
どっからどう見ても浮いている。
誘われた日の放課後、朝日川に引っ張られて連れてこられた教室は恐ろしく賑やかだった。
黒板に書いてある「クリスマス会実行委員会」という文字を、俺は虚ろな目で眺めているところだ。
(今日からなら今日からって、誘うときに言っとけよな)
でも確認しなかったのは俺だ。
やり場のないモヤモヤを朝日川にぶつけるわけにはいかない。
やることのない俺は、各学年から集まった優等生寄りの陽キャ集団の声に耳を傾けることにする。
「実行委員は当日、サンタの服着ようぜ」
「サンタ服は去年先生たちに着てもらったのがあるから、数を確認しようか」
「巨大ケーキを段ボールで作って飾るのはどう?」
「みんなでクイズ大会もいいな」
「ステージでやるバンドとか募集しよ」
教室の前の方に居るやる気満々の方々が、きっと全てを決めてくれる。
そう確信して、俺は教室の廊下側一番後ろで空気に徹していた。
誰も俺に意見を求めてくれるなよ、と念じているのに隣には朝日川が座っている。
「......朝日川。俺に構わず、前の方行ってこいよ」
「それじゃ朔弥を誘った意味ないだろ?」
お前がそこにいたら話しかけられちまうだろ。
頼むから俺から離れてくれ。
想像通りの陽キャの集まりで、俺は想像以上に疲弊していた。空気がダメだ。和を乱す人間は居ちゃいけない空気がある。
朝日川はこの空気にびくともしていない。常にこの空気の中にいるんだから当然か。
ダルすぎて頬杖をついている俺の隣で、朝日川はゆるく微笑む。
「俺たち一年だし、先輩たちの話には口を出さない方がいいだろ? 決まったことの手伝いしよ」
「それもそうか」
一理あるな、と納得した矢先のことだった。
実行委員の副委員長をすると挨拶していた女の先輩が、俺たちの方に歩いてきてしまったのは。
朝日川の机に手をついた副委員長は、可愛らしく小首をかしげる。
「アサくんたちはどう? やりたいこととかある?」
先輩から親しげにアサくん呼びされた朝日川は、顎に手を当てた。
「俺たちですか? うーん......」
朝日川はさっきまで「決まったことをやればいいや」とか言ってたくせに、考える素振りを見せている。変わり身が早い。これが処世術ってやつなのか。
俺が当たり前に何も考えず何も答えずにいる間に、朝日川は閃いたようだ。副委員長に真面目な目線を向けた。
「ツリーを囲んでマイムマイム」
「クリスマス関係ねぇだろ」
朝日川が出した斜め上の案に、俺は思わずつっこんでしまった。まさか本気じゃないだろうけど、ツッコまずにはいられなかった。
すると朝日川は、人差し指を立てて次の案を出してくる。
「王道にプレゼント交換とかどうですか。全学年で」
「全学年は規模デカすぎ。せめてクラス単位」
「クリスマスか......クリスマス......告白大会?」
「クリスマスに致命傷を負うやつが出るぞ」
朝日川の案はどうもパッとしない。
全く意見を出していないくせに、俺はバッサバッサと却下した。
心が広い朝日川は嫌な顔ひとつせずに、ぽんぽんと案を投げてくる。
「雪を降らせる!」
「人智を越えるんじゃねぇ。............いや。いけるか」
「え、いけるのか?」
自分で案を出しておいて、朝日川はきょとんとした。
俺は頬杖をついたまま頷き、頭に浮かんだことを説明する。
「片付けは大変だけど、本物でなければできるだろ。綿とか発泡スチロールとかを2階から降らせれば雪っぽくなるんじゃねぇか?」
「それ、いいな。副委員長、俺たちからの案は『会場に雪を降らせる』でお願いします!」
「ふふふ」
後輩感溢れる朗らかな笑顔の朝日川に対し、副委員長が笑みをこぼした。
朝日川はそんな副委員長を不思議そうに見る。天然なんだろうけど、首をかしげる仕草が妙にあざとい。
「どうしたんですか?」
「アサくんと斉藤くんの会話、なんだか面白くて! ありがとうね? 二人の案、受け取ったわ!」
副委員長は小走りで黒板まで移動していった。
様々な案が書かれている黒板に、「雪を降らせる」が追加される。
その様子を横目で見ながら、朝日川はニヤリと笑みを浮かべた。
「会話、面白いってさ」
確かに副委員長の言い方だと、俺も笑顔を向けられる対象だったみたいだ。変なこと言ってねぇのに解せねぇ。
「なんなんだ? 陽キャには俺が珍獣に見えるようになってんのか?」
「そんなマイナスに考えるなよ~。俺たちの息がぴったりってことだろ? ステージのバンド立候補する?」
こいつはまた、その場のノリで適当なこと言いやがって。
俺は肩をすくめて、唇の片端を上げた。
「お前となら楽しそうだな」
「え?」
「バンドか......俺、歌はあんまりだけどギターはできる」
「ギター!? い、意外すぎる......」
想像通り、朝日川の目がまん丸になった。
いつも振り回されてるから、一矢報いたみたいで気分がいい。
「......できるわけねぇだろ」
「なんだぁ......本気で練習しないといけないかもって焦っただろ」
朝日川は机にペタンと突っ伏す。
そのままこっちに顔を向けて、へらっと口元をほころばせた。
「やっぱり朔弥と喋るの、面白いなぁ」
俺だけにしか見えないその笑い方が、いつもの爽やかさとは違って。
(......ゆりかごコールの時の声だ......)
ここは教室で、陽キャの皆さんの熱気に溢れた場所なのに。
こいつは夜にこんな顔で話してるのかな、なんて頭をよぎる。
喉とか、胸とか、腹とか、なんだかどこかわからない場所がムズムズした。
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