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拝啓、あの世の私へ  作者: りんごあめ
第八章 終末編
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118話 来客

「あの時、アステリアの文句を聞いておいて正解だったわね」

 現実から少し離れた空間。

 或いは、現実に内包された空間。

 影で作られた剣を手にしたエレボスの視線の先では、血を流し壁に寄りかかるようにしてステラが地面に座っていた。

「あなたが、単身で来るのは……少し予想外、でした」

「そう? アステリアとは一時的にお互いの利害が一致しただけよ。良いように使われているのは気に入らないけど」

 剣をしまい、彼女は机へと腰掛ける。

 ステラの張った結界は晴れ、彼女は本来の調子を取り戻しつつあった。

 彗に与えられた傷の治癒も完了する一方、にステラは一向に傷の治癒が進まない。

 より正確に言うなら、治癒することが出来なかった。

「この感覚は……」

「あなたも良く味わっておきなさい。自分の力が抑えられる、その感覚を」

「はぁ、そうですね。後学の為、良く覚えておく事にします」

 何が起きているのかを理解すると、ステラはあっさりと諦めた。

 痛みは感じないし、床が血で汚れる事を除けば怪我をそのままにしておくデメリットは無い。

 ステラは話す通りに、自身にかけられた呪いに近いその力を調べ始めた。


「それにしても、本当にアステリアは見てるだけなのね」

 窓の外を眺めながら、エレボスは面白くなさそうに呟く。

 愚痴に近いその言い方に、ステラは無言のまま目を閉じて動かない。

 半ば瞑想に近い状態の彼女に、エレボスは詰まらなさそうにため息をついた。

「あなた、アステリアと気が合いそうね」

「……どういう事ですか?」

「そのままの意味よ」

 それから二人は言葉を交わすことなく、お互い自分のしたい事をする。

 時空の歪んだこの場所で、ふと、思い出したようにステラが声をかけた。

「あなたはあそこへ行かないのですか?」

「さっきも言ったでしょ? 私は良いように使われているのよ。今あそこに行ったところで、過干渉は禁止だからと追い払われるわ」

「過干渉?」

「これはアステリアの実験なの。彼女にしてみれば、この戦いの勝者は誰でも良いのよ。その過程で得たいものを得られればそれでね。私としてはそれじゃ困るから、あなたの結界を壊したのだけれど……。これが関の山でしょうね」

 その返答はステラにとって少し意外なものだった。

 てっきりお互いの目的は完全に一致しているものだと思っていたが、この二柱の関係が思っていたものと少し違うようだ。

 またも面白くなさそうに話す彼女に、ステラはある可能性を思いつく。

「アステリアと敵対するというのは考えないのですか?」

「無理ね。どんなに状況と整えようとあれには勝てないわ」

「少し以外です。神というのはみな同じ程度の力を持っているものだと思ってました」

「個体差や力の方向性の違いはあれ、基本的にはそうなっているらしいわね。ただ、私の周りには例外が多すぎるのよ。ルナもアステリアも……」

 過去に何かしらの問題が起きたのか、その言い方には含みがあるようにステラは感じた。

「例外ですか?」

「……あなたには関係の無い事よ」

 追及する姿勢のステラに対し、エレボスはこれ以上何も話さないという意思を示す。

 その様子に、地面から立ち上がるとステラは服に着いた血を綺麗にする。

「……まぁ、このあたりでしょうか」

 そう言うステラの手元に一本の槍が生成され、その矛先はエレボスの喉元へ向けられる。

 それでも彼女は驚かず、それどころか呆れた様子さえあった。

「はぁ、やっぱりこうなるのね。せっかく穏便に済ませようとしてあげたのに」

「私たちは既に多くの犠牲を払っています。今更穏便に済ませるなど、笑えない冗談です」

「あの長ミミもどきの事? あれは自爆じゃない。それに、こっちも大怪我してるのよ」

「今日だけではありません。過去も含めれば、もっと多くの人が今日の為に死にました」

「なら、その怒りはアステリアに向けなさい。私はこの世界云々には興味無いのよ。評議会さえ壊せれば、それで……」

 自分は無関係と言いたげな様子のエレボスの話し方に、ステラは我慢の限界を迎えそうだった。

 結界の無い今、力比べで勝てる相手ではない事は良く分かっていたが、勝てるかどうかは関係ない。

 喉元目掛け槍を突き刺す、その瞬間だった。

「昔に比べて口が達者になったじゃない」

 エレボスの態度を笑うような少女の声が響き、この空間に巨大な圧力がかかった。

 空間ごと押しつぶされるような感覚を覚えたステラが瞬きをすると、次の瞬間その空間は新たな客人を招く。

 机に座るエレボスの背後には、裾を引きずるのではというほど大きな白いワンピースを着た、十歳ほどに見えるブロンドヘアの少女が立っていた。

「……随分と暇なのね。仕事仕事って口癖は忙しいアピールなのかしら?」

「いつまでその強がりが続くか見ものね。この世界の力の流れに適合しきれていないあなたと、万全の状態の私の力の差がどれほどなのか、試してみる?」

 突然の登場に、ステラは話について行けずにいた。

 それでも、その少女から感じる雰囲気で只者ではないということは理解できる。

 その正体について考えていると、彼女と目が合う。

「ん? あぁ、現地民……? それにしては……」

 少女は机から飛び降りると、ステラの目を覗き込む。

 全てを見通すような少女の目を見ていると、空中に浮いているような不思議な感覚になる。

 それに何を見たのかは彼女には分からなかったが、少女の顔は一気に怒りに染まった。

「本当に、お姉様はどこまで勝手を!」

「ギャーギャー騒ぐのはやめてちょうだい。いつまでたっても成長しないと、『大好きなお姉様』に嫌われるわよ」

 笑いながらエレボスが言うと、少女の怒りのこもった視線は彼女へと向く。

 それでも少女の事を脅威と思っていないのか、エレボスは余裕を崩すことは無かった。

 その態度にこれ以上の話は時間の無駄だと判断した少女は、本題へと入る。

「まぁいいわ。神エレボス、神界評議会への反逆の疑いでその身柄を拘束する」

 少女が指を鳴らすと、エレボスを拘束しようとする鎖が現れる。

 空間を割くようにして現れたそれに対し、エレボスは面倒そうにするだけで抵抗しない。

「はぁ、まさかこんな終わり方なんてね……」

「……随分と素直じゃない。もっと暴れるかと思っていたわ」

「簡単な話よ。暴れるまでも無いって事」

 エレボスがため息をつきながら言うと、鎖は音を立てて崩れ落ちた。

「これは……世界樹の力」

「あの時、種の欠片を貰ってて助かったわ」

 流石にこれは予想外だったのか、少女は慌てて鎖の再構築を始める。

「それじゃあさようなら。またどこかで会いましょう、セレネ」

「待ちなさいっ!!」

 しかし再び鎖が捕まえるより先に、彼女は空間を渡って逃げ切った。

 追いかけようとしたが、少女は踏みとどまるとため息をつく。

「はぁ、まあいいわ。どうせ先生が張った網に引っかかるでしょうしね」

 そのやり取りを見るステラは完全に置いて行かれていて、そもそも少女が何者なのかすら性格に把握していなかった。

 それを少女自身も分かっているのか、彼女はステラの方を振り向くと名乗りを上げる。

「あなたは……」

「私は神界評議会序列第一位セレネ。けど、ルナ・ヴァレンタインの妹って言い方の方がわかりやすいかしら。この世界で起きている問題の調査と後処理をしに来たの」

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