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キャバリア・スラップスティック  作者: シベリウスP
暗黒領域・魔王決戦編
148/171

Tournament148 The Themofumov’s souvenir hunting:4(『テモフモフの遺産』を狩ろう!その4『PTD1学生』『PTD2戦士』)

激戦を繰り広げるジンたち『騎士団』と『テモフモフの遺産』たち。

敵の司令塔『学生』とその護衛『戦士』には、同じエランドールのウォーラとガイアが立ち向かう。

【前回のあらすじ】


『淑女』との戦闘に入ったシェリーとチャチャ。チャチャが早期に戦線離脱する中、シェリーは『淑女』と不思議な友情で結ばれる。瀕死の重傷を負ってジンジャーやテキーラに救われたシェリーだったが……。


     ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


「俺はPTD2『戦士』だっ!」

「PTD1『学生』だ。この剣を受けられるかい?」


 襲い来る『戦士』と『学生』の前に立ちはだかったのは、同じ自律的魔人形エランドールであるウォーラとガイアだった。


 ガインッ!


 ウォーラと『戦士』の大剣がかみ合い、盛大に火花を散らす。


「はっ!」

「うむっ」

 シャリーン!


 『学生』の流麗な剣を、ガイアが槍で受け流す。


 どちらのサイドも、最初の一撃で相手の力量を悟った。


「……さすがは同じ作者から生まれたエランドールですね」


「ふん、力量はほぼ同じだな」


 ウォーラと『戦士』が互いに言葉を交わせば、


「……これは驚いた。おぬしはPTDナンバーが古いので、すでに型落ちかと思ったが、そうじゃないようだな」


「見くびってもらっちゃ困るね? これでも博士はバージョンアップには余念がなかったんだよ? 新しいからって優れているとは限らないんだ」


 ガイアと『学生』もお互いに憎まれ口をたたく。


 戦いは、ガイアは『学生』のみを相手とし、ウォーラは『学生』をガイアと挟撃しつつ『戦士』からの攻撃に対応する……という『学生』を仕留めることに主眼を置いた流れになった。『学生』は他の自律的魔人形エランドールの思考回路に干渉でき、『テモフモフの遺産』たちのリーダーでもあったため、これは当然の処置だったろう。


 一方で『学生』『戦士』側も、ウォーラたちがそのような戦い方をするだろうと予想していたのだろう。『学生』は出来るだけ『戦士』の後ろに隠れるような動きを見せている。


(うむ、これはウォーラに『戦士』を抑えてもらうしかないな。後は、『学生』が我らの精神を完全にコントロールできたとどれだけ信じ込ませることができるかだ)


 ガイアは、鋭い『学生』の剣をいなしながら、そう決断する。


「ウォーラ、お前は『戦士』に全力で掛かれっ!」


 ガイアは『学生』に鋭い突きを繰り出しながら叫ぶ。以心伝心、ウォーラはそれを聞いて、姉が何を狙っているかを瞬時に理解した。


(『学生』が私たちへの精神干渉が効かずに動揺するところを狙うおつもりですね)


「承知いたしましたっ、お姉さまっ!」


 ウォーラはガイアに叫び返すと、


「えいっ!」

 ぶううんんっ!

「はっ!」


 帰りがけの駄賃とばかりに『学生』に斬撃を放ち、『戦士』に相対する。


 『戦士』は、大剣を身体の前で水平に構え、


「……ふん、俺様が片手間で倒せる相手じゃないって、やっと気づいたか。お前みたいな嬢ちゃんから馬鹿にされていると思っていたが、そうじゃないようだな?」


 ごつい顔に笑顔を浮かべて言う。


 ウォーラは、にこりと笑って答えた。


「騎士は、ウサギを狩るにも全力を尽くします。ましてやあなたは猛獣、最初から片手間でお相手しようなどと考えるほど、私も思い上がってはいないつもりです」


 そして身体中を黄金の魔力で覆って、


「ドッカーノ村騎士団、ウォーラ・ララ。参りますっ!」


 そう言ってあっという間に『戦士』との距離を詰め、それまでにない鋭い斬撃を放つ。


「おうっ!」

 ボウンンッ!


 『戦士』もそれに呼応し、魔力を全開にする。彼の魔力は『闇』のエレメントだった。


 ガウンッ、バフーンッ!


 ウォーラと『戦士』の大剣は、すごい勢いでかみ合い、強烈な爆風を生む。その瞬間、ウォーラは自分の周囲に『大地の護り(ラントケッセル)』が張り巡らされるのを感じた。


(ご主人様、強敵を相手にされているはずなのに、私たちまでお気遣いいただくなんて……)


 ウォーラは感動しながら『戦士』の大剣をぐいぐいと押しやる。『戦士』はウォーラの想像を超える機動力とパワーに、いささか狼狽気味に言った。


「……お嬢さん、やるな。俺様と押し合いでは互角ってところか。思ったよりも馬力を与えられているんだな」


「……私は自律的魔人形エランドール。私を信じてくださるご主人様を、全身全霊でお守りするのは当然の義務です。ご主人様の願いが崇高なものであればあるほど、私たちは思った以上の力を発揮できるのです」


 そう言って、ぐいっと大剣を押し込む。『戦士』は押し負けそうになりながらも、


「くっ!」


 辛くも踏みとどまる。


「あなたが奉じる『運命の背反者(エピメイア)』の願いは、ご主人様の願いと比べてどうですか? 四神は常に、摂理と共にある方に味方します!」


 ぐぐぐっ……ウォーラは魔力の開放度を上げる。さすがの『戦士』も、その場に踏みとどまれず、地面を削りながら後退していく。


「バカな!? この俺様が押し負けるだと!?」


 『戦士』は、焦りながらも状況を正確に判断した。自分もそうだが、ウォーラの大剣も魔力をまとって、その危害半径は物理的な長さをはるかに超えている。恐らく10ヤード以内のものは叩き斬るだろう。


 しかもそれは魔力に依存しているため、魔力によるシールドかガードでないと受け止めきれない。物理的攻撃のように受け流したり、弾いたりが出来ないのだ。


(……こいつの魔力が俺様を上回る可能性は高い。だが、シールドを割られても急いで離脱すれば、この手詰まり状態から解放される。やってみるか)


「むんっ!」


 『戦士』は自分の身を魔力で覆い、赤く透明なシールドを張る。それと同時に


「やっ!」


 一瞬だけ力を抜き、ウォーラの身体が前に泳いだところで大剣を押しやる。


「はっ!」


 ウォーラは、『戦士』が後ろに跳ぶことを予想していたのか、すぐに大剣を振り下ろした。


 ジャッ!


 派手な火花を散らして『戦士』のシールドが削られる。しかし『戦士』はウォーラから15ヤードほど跳び退いたところで前に跳躍し、追撃で足を踏み出していたウォーラの右足を狙って大剣を振り下ろした。


「やっ!」

 バンッ!

「うおっ!?」


 ウォーラは『戦士』の攻撃をものともせず、さらに前に踏み込んで、『戦士』の左わき腹を狙って摺り上げるように大剣を揮う。『戦士』の攻撃はウォーラのシールドに阻まれていた。


 パシンッ!


 『戦士』のシールドに早くも亀裂が入る。『戦士』は、ウォーラのシールドが自身のそれを段違いに上回る硬さを持っていることを悟った。


(これだけの性能のシールドだ。魔力の消費も大きいだろうし、割り当てる魔力量も半端ではないはず。とすると、こいつの攻撃力はこれで頭打ちだろう。

 俺様が魔力バーストを使えば、攻撃力ではこいつに勝るはずだ!)


 『戦士』の誤算は、ウォーラのシールドが彼女自身の能力ではなく、ジンに依存していることを見抜けなかったことだろう。


 そして、『戦士』が一つ不思議に思っていることがあった。

 自分や『学生』は、ウォーラとガイアを最初ぶつかった位置から50ヤードほど押し込んでいる。そして、ジンと『ドール』は2百ヤードほど前方で、スナイプと『道化』は左方斜め前百ヤードほどの所で戦っている。


(今、『学生』がPTD11と12に干渉すれば、俺様たち4人がジンを攻撃できるはずだ。なぜ、『学生』は精神干渉を発動しないんだ?)


『今だ、『学生』。今なら誰にも邪魔されずに『ドール』の加勢に駆け付けられるぞ!』


 不審に思った『戦士』が超感覚連絡装置で『学生』に呼びかけたところ、『学生』からは焦ったような返事があった。


『ダメなんだ。何度もPTD11やPTD12に指令を出しているんだが、彼女たちが思いどおりに動いてくれない。あまつさえPTD11からは攻撃を受けて、少し傷を受けてしまった。


 しかも、『淑女』の様子がおかしい。彼女は標的と戦っていない。すまないが『戦士』、一時的にPTD11の相手もお願いしていいかい? 僕は『淑女』の様子を見てくる』


 『学生』の答えは、『戦士』を驚かせるに十分だった。PTD8『執事』には効果を発揮した精神干渉が効かないとなると、作戦の土台が崩れる。


 この瞬間、『戦士』はそれまでの楽観的な見込みをかなぐり捨て、


(……これは、ジン・クロウを討ち取る頃には、俺様たちにもかなりの損害が出ていることを覚悟せねばならないだろうな)


 そんな覚悟を固めたようだった。


『分かった、行ってこい!』


 そんな返事をした『戦士』は、30ヤードほど左でガイアが、突然姿を消した『学生』の姿を探すようにキョロキョロするのを目の端で捉えた。


(さぁて、PTD11まで相手にせにゃならんとなると、戦闘アビリティの割り振りを少し防御よりにせんといかんかな)


「えーいっ!」

 ぶううんっ!

 ガシィンッ!


 『戦士』に隙があると見たウォーラは、思い切り近付いて大剣を横殴りにする。この一撃で勝負を決める、そんな気迫が籠った斬撃だった。


「ぐおおっ!?」


 『戦士』は、斬撃こそ間一髪で受け止めたが、その衝撃で数メートルほど真横に滑る。恐るべきウォーラの衝撃力だった。


「……お嬢ちゃん。失礼だが、お前はかなりの力持ちだな。俺様も驚いているぜ、なんせ俺様はテモフモフ閣下が造ったただ1体の『汎用戦闘特化型』のエランドールなんだが、非戦闘型であるお嬢ちゃんに俺様に匹敵するほどの能力を与えているなんてな」


 そう言うと、ウォーラを剣で跳ね返し、背中の盾を外して左手に持つ。


「……お前の実力を認めてやろう。俺様も全力で戦わないとな」


 『戦士』は片手で大剣に2・3回素振りをくれて肩に担ぎ、ウォーラを見て凄絶な笑いを浮かべた。


   ★ ★ ★ ★ ★


「やっ!」

 ビュンッ!


 ガイアの槍は目にも止まらなかった。『学生』はなかなか剣の間合いに入り込めず、突く、斬り下げる、薙ぎ払うといった変幻自在の動きを見せる槍に対し、まずは回避するのが精いっぱいだ。


(だいたい僕は、戦闘向きじゃないんだよなぁ)


 『学生』はため息とともにそう思い、自分にもう少し高い戦闘能力を付与しなかったテモフモフを恨んだ。


 『学生』は、テモフモフの中では『知識の貯蔵庫』や『情報分析から論理的類推』『現状認識と条件付与による未来予測』をどれだけ早く正確にできるか……という問題への習作的回答だったのだ。


 つまり、参謀特化型のエランドールであり、そもそも『浄化作戦』時には『学生』は戦略指揮官として行動し、戦闘の場に出ることは最初っから想定されていなかったのだ。


 だが、その彼も自分の能力を工夫して使用することにより、他のエランドールに負けない戦いができるようになった。


「どうした。威勢がいいのは『戦士』が側にいる時だけか!?」

 ビュンッ! ジャッ!


 ガイアの槍が『学生』の顔面を狙って繰り出され、それは髪の毛を削いだ。


「……さて、そろそろ僕も本気を出させてもらおうか」


 『学生』は自分の髪の毛が風に流れるのを見て、ニヤリと笑って剣を握り直す。そして先ほどまでの回避に徹していた態度とは打って変わって、積極的に斬って出る。


「やっ、はっ、とっ!」

 シュン、シャリン、シュバッ!

「むっ!?」


 ガイアは『学生』の急変に驚いて、思わず距離を取る。そして、『学生』が剣を弄びながら不気味に笑うのを見て、翠色の瞳を持つ目を細めた。


(……明らかに機動力が上がり、戦い方も変わった。これが『学生』の能力だろうが、一体どんな能力ちからを与えられているのだ?)


「やあっ!」


 ガイアは、隙を見つけ出そうと、槍の穂先が届かない距離から魔力を乗せて突きを放つ。


 それを易々と剣の魔力で斬り払った『学生』は、飛び込んできたガイアに、同じく魔力を乗せた斬撃を放つ。


「ふんっ!」

「むっ!?」

 ジャンッ!


 斬撃波を斬り払ったガイアの真後ろから、揶揄するような『学生の』声が聞こえた。


「なるほど、こういう使い方もあるのか」

 バンッ!

「うおっ!?」


 背中に悪寒を感じたガイアは、その直感に従って前へと跳ぶが、『学生』の突き出した剣が彼女の背中をえぐった……とはいえ、PTDシリーズでも屈指の重装甲を与えられたガイアの背面装甲板を突き破ることはできなかったが。


「チッ! 首を狙うべきだったな……」


 残念そうでもなく笑って言う『学生』に、ガイアは無言で向き直る。


「ふふん、ちょっと動揺しているね? でもその動揺もこれまでさ。

 さあ、いよいよその時が来た。PTD11、PTD12と共に僕たちと力を合わせてジン・クロウを討ち、ともに『摂理の超越者(エピメイア)』様の許で僕たちエランドールが報われる世界を創り上げようじゃないか。

 『絶対服従(キミハボクノモノ)』、発動だ!」


 『学生』の身体を赤黒い魔力が覆い、その瞳が鮮血の色に染まる。そしてガイアが視線を合わせた時、その感情制御装置と意思決定統括システムに、ザザッという雑音が入り込んできた感覚が生じる。


(……くっ! さすがに強力だな。賢者マーリン様の対精神攻撃用パッチがなければ、完全に意思決定を『学生ヤツ』に握られていたところだ……)


 そう考えながらガイアは身体の力を抜く。わざと『学生』の能力に支配されたと油断させ、その隙を突く……ガイアは当初の作戦どおり、『学生』に対する殺気を封じ込める。


 そして無言でジンが戦っている方に視線を向ける。ジンは黄金色と翠色の魔力に包まれながら、目にも止まらぬ速さで『ドール』を渡り合っていた。


 その時、『学生』は違う方角に目をやり、舌打ちをする。


「ちぇっ!『淑女』のやつ、さっきからおかしな雰囲気だと思っていたら、敵と仲良く話し合いか?」


 少し焦ったような『学生』の声に、ガイアは気付かないふりをしてジンの方へと歩き出そうとした。


「PTD11『お姉さま』、少し待て! 僕は『淑女』にちょっと戦闘指導を行ってくる。

 僕が戻るまでジンに手を出すんじゃない」


 そう言いながら『学生』はガイアに背中を向けた。


 ガイアはその瞬間を待っていた。転瞬の早業で身を翻したガイアは、20ヤードの距離を一瞬で詰め、魔力を溜めた槍を『学生』の背中から突き通した。



 バンッ! バチィィィッ!

「が!?」


 ガイアの槍は、『学生』の背中から左肩へと抜けた。異変を察知した『学生』が振り返ろうとしたため、エランドールの心臓部である動力制御装置や運動制御装置を全損させることはできなかったが、それでも彼のもう一つの能力を発揮させる魔力制御盤を補助の制御盤と共に全損させていた。


「くそっ! PTD11、暴走か!?」

 メキメキメキッ!


 『学生』は無理やりガイアの槍を引き抜くために跳躍する。嫌な音と共に、内部の機器や配線が槍によって引きずり出された。


「……暴走ではない。我は正常だ、安心するとよい」


 ガイアは槍を構え直しながら、唇を歪めて『学生』に言う。


「……そうか、賢者マーリンが何か余計なことをしたんだな?」


 そう言いながら、『学生』は配線や機器を体内に押し込むとポケットから何かを取り出し、破孔にそれを当てる。


「……君には残念なお知らせだが、これはエピメイア様の『応急テクスチャ』だ。装甲板に空いた穴くらい、簡単に塞げる。これくらいのことで僕を倒せると思うなよ?」


「もとより、今の一撃でお前を倒せるとは思っていない。だが、お前が立てた作戦は根本からひっくり返ったはずだ……」


 ガイアはそう言うと、静かに魔力の開放度を上げていく。彼女を包んだ翠色の光が、徐々に強くなっていった。


「くそっ!」


 『学生』はその場から一瞬で消える。


「待てっ! 逃げるのは戦士の恥であろう!?」


 ガイアはとっさにそう言い放ったが、すぐに『学生』の超感覚通信を傍受する。


『ダメなんだ。何度もPTD11やPTD12に指令を出しているんだが、彼女たちが思いどおりに動いてくれない。あまつさえPTD11からは攻撃を受けて、少し傷を受けてしまった。


 しかも、『淑女』の様子がおかしい。彼女は標的と戦っていない。すまないが『戦士』、一時的にPTD11の相手もお願いしていいかい? 僕は『淑女』の様子を見てくる』


(……そういうことか……)


 ガイアはそれを聞いて唇を歪め、


「……では、『学生』のお望みどおり、ウォーラと共に『戦士』と遊んでやることにするか」


 そうつぶやくと、ウォーラの横殴りを受けてすっ飛んだ『戦士』の方へと駆けていく。


 ちょうどその時『戦士』は、ウォーラを剣で跳ね返し、背中の盾を外して左手に持った。


「……お前の実力を認めてやろう。俺様も全力で戦わないとな」


 『戦士』は片手で大剣に2・3回素振りをくれて肩に担ぎ、ウォーラを見て凄絶な笑いを浮かべ、


「うおおおおっ!」


 猛烈な盾チャージをかけてくる。


「はっ!」

 ガイン、ズザザザザザアッ!


 ウォーラは『戦士』の突進を真っ向から受け止める。そのまま後ろへ50ヤードほど滑ったウォーラだったが、


「はあああっ!」

 ザンッ、ガキンッ!


 ウォーラ渾身の気迫と共に、『戦士』の突進を止める。


 ギギギギギ……


 『戦士』は渾身の力を振り絞ってウォーラを押し倒そうとする。盾で押し倒し、そのままウォーラを圧し潰そうというのだ。


 一方でウォーラも、大剣で必死に押し返す。あわよくば盾ごと『戦士』を叩き斬る!……そんな気迫に満ちていた。


「へへっ、俺様のチャージが止められたのは初めてだぜ。変な魔法での駆け引きもねえし、お嬢ちゃんは本当に俺様の最高の敵だな」


「……それはどうも……」


 ウォーラはじりじりと盾を押し返しながら返事をする。『戦士』は、まだ余裕のあるウォーラの落ち着いた対応に、怒りと、焦りと、そして何よりも恐怖を感じた。


(……底知れない能力だ。テモフモフ博士は何を考えて、PTD11やPTD12にこれほどの戦闘能力を付与したんだ?

 このお嬢ちゃんは、生かしておくとゆくゆくはエピメイア様の脅威になるに違いない。俺様の身に代えても、お嬢ちゃんはここで破壊せねばならない)


「破ッ!」

 ドウンッ!

「あっ!?」


 『戦士』は盾を少し揺らし、ウォーラに衝撃波を叩きつける。思わぬ攻撃をまともに受けたウォーラは、それで体勢を崩した。


「勝機っ!」

 ガウンッ! グワンッ!

「がっ!?」


 『戦士』はウォーラに盾ごとのしかかり、ウォーラを地面に叩きつけた。



「ウォーラっ!」


 『戦士』がウォーラを地面に組み伏せ、その赤黒い魔力がウォーラを包み込むのを見たガイアは、槍を回して斬撃波を放つ。その斬撃波は、ウォーラの頭に擬されていた『戦士』の大剣を右手ごと吹き飛ばした。


 バシュンッ!

「おおっ!?」


 『戦士』は、右手が吹き飛ばされて、ガイアの存在を思い出した。ウォーラとの勝負に必死になりすぎて、今の今まで『学生』から言われたことを忘れていたのだ。


「小癪な。むんっ!」

 バアアンッ! メキョッ!

「が!?」


 『戦士』は、盾を思い切り地面にめり込ませる。盾から頭を覗かせていたウォーラは、強力な圧力で装甲板が変形し、妙な声を上げて動かなくなった。内部の機器が故障したに違いなかった。


「我の妹に手を出すなっ!」

 シュッ! ガインッ!


 鬼の形相で突きかかって来るガイアの槍を、『戦士』は盾で受け止め、


「安心しろ、まだ止めは刺していない」


 そう言いながら、さらに加速していく槍を受け止め、受け流している。


「やっ、はっ、とおっ、やああっ!」

 シュン、シャッ、ジャンッ、ジャリーンッ!


(……いかん。ここで『学生』が戻ってきたら、ウォーラは赤子の手をひねるように破壊されてしまう)


 それを危惧したガイアは、槍を身体の後ろに回し、顔の前に手を差し出して魔法を撃った。


「風と水は草木を育み、花は大地に萌え盛る。『花萌えるうた』を唄いつつ、草木は自然を謳歌する!」


「何ッ!?」


 『戦士』にとって、ガイアの『木々の魔法』での攻撃は完全に想定外だった。それまでのウォーラ、ガイアの戦闘パターンを見ても、二人とも魔力を攻撃力と防御力の増大に割り当て、魔法攻撃を行ったことがなかったからだ。


 『戦士』は、地面から生えて来たつる草や木々に巻き付かれ、あっという間に行動の自由を奪われる。


「猪口才なっ! 破ッ!」

 ドウンッ!


 『戦士』は魔力を弾けさせて、絡みつく草木を吹き飛ばそうと試みたが、何度吹き飛ばしても、ズタズタにしても、後から後から絡みついて来る魔力の蔓に十重二十重と巻き付かれてしまう。


 ガイアは、『戦士』が『花萌える唄』に苦戦しているのを見て取ると、急いでウォーラのもとに駆け寄り、その耳元で叫ぶ。


「ウォーラ、お主のご主人はまだ戦っている。ご主人の勝敗を確認せずに落ちるなど、エランドールの恥さらしだぞ!?

 お前には緊急修復機能があるではないか、早く修理して動けるようになれ! 今なら『学生』も『戦士』も討てるぞ!」


 すると、瞬きもせず空を見ていたウォーラの目の焦点が合って来た。


「……緊急修復機能ニヨリ魔力統制装置ノ損傷復旧。姿勢制御装置破損、予備装置ニ切替終了。防御態勢から復帰……」


 ウォーラは機械的な声でそう言うと、地面にめり込んだ腕を引き抜き、次いで


「ふんっ!」

 バスンッ!


 魔力を迸らせ、身体の周囲の地面を吹き飛ばした。


「ウォーラ、復旧したか?」


 ガイアがウォーラの腕を引いて立ち上がらせると、ウォーラは大剣を取り上げて肩に担ぎ、


「はい。何とか全力発揮できるまで復旧しました。それでお姉さま、『戦士』はどこに?」


「あそこで我の『木々の魔力』に……」


 ウォーラの問いに、ガイアは視線を『戦士』に戻しながら指さす。その時、


「待たせたね、PTD11!」

 ズバンッ!

「うっ!?」


 不意に現れた『学生』の剣が、ガイアの左腕を肘から切り離した。


   ★ ★ ★ ★ ★


「くそっ! まさかPTD11が魔法を使ってくるとは。俺様一生の不覚っ!」


 『戦士』は、『花萌える唄』に捕まりつつ、何とか植物の牢獄から抜け出そうともがく。


(『木々の魔力』は『土』に依り、『水』と『火』によって力を増す。しかし『水』も『火』も、多すぎればかえって木々を損なう……ならば、やってみるか)


 『戦士』は、目を閉じて魔力の転換を行い始める。PTD1『学生』からPTD7『淑女』までに備えられていて、それ以降のPTDシリーズに実装されなかったのが魔力転換装置である。


 これは、テモフモフ博士が行った改修であり、一律に『火』への属性転換ができるものだった。

 ただし、PTD10『ドール』は直前にテモフモフ博士が『組織ウニタルム』のバーディー・パーに粛清されてしまったため、この改修を受ける機会を失っていた。


「魔力属性、『闇』カラ『火』ヘ転換終了」


 『戦士』はそうつぶやくと目を開ける。瞳の色は緋色に輝いていた。


「こんなつる草など、すべて焼き切ってやる。『煉獄の業火(ヘルファイア)』!」


 ボボウンッ!


「うおっ!?」


 『戦士』は、自分が想定したより激しく炎が噴き上がったのに驚きの声を上げる。


「うむ、火勢が強すぎる。このままでは俺様まで燃え熔けてしまうぞ」


 『戦士』とつる草を包み込んだ炎は、白熱の光を放ちながら燃え盛る。『戦士』は、つる草が燃え落ちるとすかさず『植物の牢獄』から抜け出したが、身を包んでいる木々の魔力が燃料になっているかのように、『戦士』を包む炎は勢いを増していく。


「くそっ! 炎が邪魔でPTD12が見えない」


 焦った『戦士』は、魔力の属性を『闇』に戻そうと目を閉じるが、すぐさま体幹内の機器に異常が生じていることを探知した。


「……魔力転換装置がオーバーヒートしているだと!? この周辺には水はないのか?」


 もはや『戦士』を包むマントや戦袍は焼け落ち、鋼鉄の胸当てと籠手、鎧の袖や草摺など、燃えにくい素材でできたものだけをまとった姿になっていた。


(水、水はないのか? このままでは内部機器がオーバーヒートして、俺様は動けなくなってしまう。対集団戦用エランドールたるこの俺様が、機器の故障で動けなくなって討ち取られる……そんな不名誉な最期は迎えたくない!)


「……知覚解析装置、意思決定システム、動力制御装置の温度が危険域にまで上昇。視覚装置、聴覚装置は故障回避のため一時的にシャットダウン」


 『戦士』は、不利を承知で視覚と聴覚を一時的に捨てた。その他のセンサー、魔力探知機や振動検知器など、最悪故障しても構わないと割り切った装置だけで、とりあえず炎が下火になるまで身を守ることにしたのだ。


「待たせたね、PTD11!」

 ズバンッ!

「うっ!?」


 不意に現れた『学生』が、ガイアに攻撃を当てたことを探知する。『戦士』の顔に希望の光が戻った。


「お姉さまっ!」


「くっ! ウォーラ、我に構わず『学生』を仕留めろ!」


 ガイアは左ひじを押さえながらウォーラに叫ぶ。ウォーラはその言葉を無視し、転がっているガイアの左腕を拾い上げると、ガイアに渡しながら言った。


「応急修理をいたします。お姉さま、腕をお見せください」



 『学生』は、ガイアとウォーラの混乱に付け込み、炎を上げて燃え盛っている『戦士』の側までやってくると、青い瞳を細めて


「……木々の魔力だね? それを炎で焼き切ろうとするなんて、『戦士きみ』らしいと言えば君らしいが、木々の魔力に火の魔力が反応して消えない炎になってしまうってことまで頭が回らなかったのかな?」


 『学生』は右手に魔力を集めて、『戦士』に叩きつける。『戦士』を包んでいた炎は、その魔力によって吹き消された。


 そして、転がっていた『戦士』の右手を拾い上げると、エピメイアの『応急テクスチャ』とともに渡して言う。


「早くこれで右手を修理するといい」


「……かたじけない……」


 『戦士』は低くつぶやくと、地面に大の字になって転がる。今まで灼熱の炎に焼かれていた『戦士』にとって、大地はひんやりとして気持ちよかった。


「……視覚装置、聴覚装置オン。各種装置の温度は注意域まで下降。通常行動に移行」


 『学生』は、次々と復旧をコールする『戦士』に、


「僕があの二人を抑えておこう。早く戦闘に復帰してくれよ、『戦士』」


 そう言うと、琥珀色の魔力に包まれながら駆けて来るウォーラを見て、あっという間に距離を詰めた。


「この剣は受け止められるかい!?」

「はっ!」

 シャリン、ジャッ!


 ウォーラは、『学生』があまりにも速く間合いを詰めてきたため、一瞬突進を緩める。そこに生まれた隙を、『学生』は見逃さなかった。


 『学生』は剣を斬り下げると、すぐさまウォーラの脾腹を狙って摺り上げる。摺り上げざま『学生』はとんぼ返りを打って、着地と同時に剣を突き出しながら前に跳ぶ。


「やっ!」

 パアンッ!


 ウォーラは大剣で3度の攻撃すべてを防いだが、もはや『戦士』に向けての突進はかなわなくなった。『学生』はウォーラの足止めと、『戦士』の機器温度が問題ないレベルにまで下がる時間を稼ぐことに成功した。


「お姉さまに傷を負わせたのはあなたですね!?」

 ジャランッ!


 ウォーラの大剣を受け流しざま、『学生』は間髪を入れずウォーラに突きかかる。


「やっ!」


 ウォーラは『学生』の突きを、身をよじってかわした。『学生』の横顔が恐怖に歪んだように見えた。


「これでお終いですっ!」


 ウォーラはそう叫びながら、大剣を『学生』に振り下ろした。


 ジャンッ!


「それは僕のセリフだよ?」


 ウォーラの大剣は、右の肩口から股間まで斬り下げる予定だった。ウォーラも勝ちをほぼ確信しただろう。


 しかし、驚いたことにウォーラの大剣は、魔力を表面に集めた『学生』に火花を上げて弾かれる。


(魔力による表面硬化!? お姉さまや私の能力を?)


 ウォーラが『学生』の能力を見極めたと思った時、『学生』はニヤリと笑って言った。


「君こそ、お終いにしてあげるよ」

 バガンッ!

「あっ!」


 魔力の乗った『学生』の剣は、ウォーラの胸部装甲を易々と貫いた。


(……魔力配分装置破損、緊急修理装置作動。右肩のジョイントに破損部品が食い込みました。摩耗と全損を防ぐため、可動域を制限します)


 ウォーラのダメージコントロール機構が破損の状況を把握し、緊急メンテナンス機構がそれに合わせて動き出す。PTD12『妹ちゃん』であるウォーラだけに与えられた特殊な機能だった。


「ムダだ、君のメンテナンス機構が修理を終わる前に、勝負を決めてあげるよ」


 『学生』は斬撃波を伴う攻撃を仕掛けてくる。それは正確にウォーラの装甲板の傷口を狙ってきた。


「はっ!」

 ドゴンッ!


 ウォーラは魔力が乗った大剣で斬撃波を消滅させる。魔力のぶつかり合いは爆炎と爆風を生む場合と、静かに消えるエネルギーが一時的にマイナスになる空間を作る場合とがある。この場合は前者だった。


「なかなかしぶといね? おや?」


 『学生』は、爆風を衝いてウォーラに斬りかかる。


 カーンッ!


 しかし、澄んだ音を立てて『学生』の剣を弾いたのはガイアだった。


「ほう、戦場で修理できるほどの域に達しているのかい? やはり君たちは、どんなに時間をかけてでも仲間にしておくべきだったよ」


 そううそぶく『学生』に、ガイアは翠の瞳を当てて笑った。


「貴様の評価には大いに賛成する。だが、我らと一緒に戦いたければ、ジン団長に仕えるべきだったな」



「……やっと元に戻ったか」


 大地に寝転がること数分、『戦士』の内部機構はようやく平常の温度まで下がり、『戦士』は何を気にすることもなく戦闘に集中できるようになった。


 『戦士』が立ち上がった時、20ヤードの距離でウォーラが大剣を地面に突き刺してこちらを見ていた。


「……まだ戦う気は満々のようですね? 先ほどの続きと行きませんか?」


 ウォーラが白い髪を風に揺らして訊けば、『戦士』もまた緋色の眼を細めて、莞爾として笑う。


「……お嬢さんも確かに騎士だな。俺様がまだ地面に転がっている時に勝負を仕掛けても良かったはずだが、わざわざ回復を待ってくれるとはな」


 そう笑いと共に言う『戦士』だったが、不意に真面目な表情になり、ウォーラを真っ直ぐ見て、


「……とはいえ、俺様もお嬢ちゃんの立場なら同じことをしたかもしれない。相手の弱みに付け込むのは、戦いの場では駆け引きの一つだが、誇り高い『戦士』や『騎士』が取る行動じゃない……俺様もそう思っている。


 お互い、『戦士』として、また『騎士』として恥ずかしくない戦いができそうだな。これも、お嬢ちゃんを相手にするからこそ与えられた機会なんだろう」


 そう言うと、大剣を右手で構え、左手に持った盾をずいっと前に出す。盾チャージの格好だった。


「……戦闘準備はできたぜ。お嬢ちゃんはどうだい?」


 『戦士』が訊くと、ウォーラはゆっくりと大剣を構え、


「……いつでも結構です」


 ニコッと笑って答える。


 ウォーラの笑みを見て、『戦士』も笑みを浮かべて言う。


「よし、じゃ戦闘再開だ。悪いが次の盾チャージでお嬢ちゃんをバラバラにしてやる。俺様も最大の力で突進するから、お嬢ちゃんも最大の力で迎え撃ちな」


 ウォーラは黙ってうなずく。それを合図にしたように、『戦士』は赤黒い魔力を最大限開放する。魔力は渦となって『戦士』を覆い、天に冲するほど噴出した。


「行くぜ、奥義『絶対破壊アポカリプス』!」


 『戦士』はそう叫ぶと、流星のごとくウォーラに接近する。盾の前面には分厚い魔力が揺蕩い、大剣にまとわりついた魔力は空気を切る音と共に不気味な振動を生んでいる。


 ウォーラの瞳が琥珀色に光り、その身体と大剣を黄金色の魔力が分厚く包み込む。ウォーラは大剣を前に突き出すと、こちらも全速力で『戦士』に接近を始めた。


(……俺様は必ず勝つ!)


 『戦士』はこの一撃に賭けていた。弱音を吐かない『戦士』だが、ウォーラやガイアとの戦いにおいては思わぬ苦戦を強いられ、もはやマナクリスタルには30パーセントほどのマナしか残っていなかった。


 一方、ウォーラも


(……この一撃で勝負を決めて見せます。そしてお姉さまにご加勢申し上げ、『学生』を倒したらご主人様の所に駆け付けなければ……)


 そう、強く念じていた。


 ウォーラを唯一の難敵とし、自身と引き換えにでも倒すという決心をしている『戦士』、必ずジンの許に駆け付けることを自身の使命と信じているウォーラ、二人のエランドールの軌跡は、最大限の力を振り絞って交差した。


   ★ ★ ★ ★ ★


「……君たち姉妹や『執事』、『踊り子』が仲間に加わっていれば、ジン・クロウはおろかアルケー・クロウや魔王すら僕たちの敵ではなかっただろう。返す返すも残念だ」


 『学生』はそう言いながら剣を顔の前に立てる。水色の魔力がパッと沸き立ち、『学生』を覆うと同時に、


「やあっ!」

 ヒュンッ!


 『学生』の剣が空を切る音がした。


「同じ手は食わん!」

「チッ!」

 パアアンッ!


 『学生』の機動を読んでいたガイアは、斬撃を放つ『学生』の後ろを取り、鋭い突きを放つ。


 だが、『学生』は剣が空を切る感触に、ガイアの攻撃を予期し、剣をそのまま回しながら前転を決め、襲い来る槍の穂先を跳ね上げた。


(マズい、思ったよりもマナの消費が激しい。こんなに長く戦ったことも初めてだ)


 着地した瞬間に襲いかかって来る槍を避けながら、『学生』はいつもの彼にはない焦りを感じ始めていた。マナの残量はすでに25パーセントを下回っていた。


 しかし、それはガイアの方も同じだった。特に左腕を切断され、それを復旧する際に多大なマナを消費したのが痛かった。ガイアにはPTDシリーズでただ1体だけ、マナ循環装置による自動チャージ機能が備えられているが、それでもなお残量は30パーセントにまで落ち込んでいた。


 お互い、残量が20パーセントを下回ると『節約モード』に入り、かなり戦闘力が下がる。それを避けるために『通常モード』を維持すれば、いつマナ切れになるか判らない。この状況でのマナ切れは、即、敗北を意味する。二人とも重大な岐路に立たされていた。


(マナが少なくなっている。このまま戦い続けるべきか、それとも全員に一時撤退を命令すべきか?)


 『学生』は考える。自分とガイアの戦いに限れば、ガイアは左腕を修理しながら戦っている状況で、マナの発散も激しいだろう。それは自身がガイアの槍に貫かれた時のことを思い出せば分かる。


 自身に与えられたダメージは軽微だった。確かに右肺部を突き抜けるほどの傷だったが、内部の機器には大きな故障もなく、胸背部の蓋板の破孔もエピメイアが与えた『応急テクスチャ』で塞がっていた。困ったことと言えば精神干渉が行えなくなったことくらいで、それも下がって修理をすれば復旧する。


 一方でガイアの方は、左腕切断からの復旧と、自分と同じくらいのマナを失っているはずで、しかも左腕の動きは明らかに悪くなっている。このまま押して倒せないこともないと思えるような状況だった。


(僕と『戦士』以外の相手はエランドールではない。だが、マナの残量が戦闘能力に直結するのは同じだ……このまま戦いを継続しよう)


 『学生』はそう決断し、突きかかってくるガイアの槍を外しながら反撃する。


「やっ!」

 ビュンッ!


「ふんぬっ!」

 バンッ、シュッ!


 ガイアは剣を石突で弾くと、そのまま槍を回して『学生』の頭部を狙う。


「甘い」

 ジャッ、バゴンッ!


 『学生』は振って来る槍を剣で右に払いのけ、ガイアの背部が見えた時に魔弾を叩き込んだ。


「ぐはああっ!」


 エランドールには装甲があるといっても、全身くまなく防御されているわけではない。そんなことをすれば重量が増して動きが鈍くなるし、マナの消費も激しくなる。


 ガイアは頭部や前面胸部と腹部が最も厚く、続いて脇腹、下腹となり、背面には申し訳程度の装甲が施されているに過ぎない。

 とは言っても、背面装甲が施されているのはガイアの他にはウォーラと『戦士』だけだ。


 今回の場合、背面装甲がガイアの命を救った。他のエランドールであれば至近距離からの魔弾に貫通され、重要な機器が一瞬で機能喪失するところだったのだが、ガイアの場合は装甲板の変形により右腕の可動域が狭くなった程度だった。


「くっ、君も『戦士』と同じく、背面装甲が施されていたんだね?」


 ガイアを仕留めたと思っていた『学生』は、吹き飛ばされたガイアが槍を支えに立ち上がるのを見て、悔しそうにつぶやく。


「……さっきので勝負あったと勘違いしたか?『テモフモフの遺産』たちを率いるお前にしては、おっちょこちょいが過ぎるな」


 ガイアが唇を歪めて笑う。だが、その笑顔には余裕がない……きっとマナが残り少なくなっているんだ。『学生』は一人うなずいて笑う。


「ははは、僕も今回はかなり想定外の戦いを強いられたが、それももう終わりさ。君だってマナは残り少ないだろう? お互い次の攻撃で決着を付けようじゃないか」


 それを聞いて、ガイアは翠の眼を光らせて答える。


「……我は別に勝負を急がんぞ? どうせマナが先に無くなるのはお前の方だからな。

 『待てば海路の日和あり』という。我にとっては熟柿のように転がり込んでくる勝利だ。それをフイにしかねない一撃になど興味はないな」


 ゆらゆらと翠の魔力に身を包んでガイアが言う。『学生』は少し焦りを覚えた。


(同じような損傷と復旧、同じ技、僕とPTD11の違いは装甲の厚さだけだ。装甲の厚さで言えばPTD11の方がマナの消費は激しいはずなのに、なぜあんなに泰然としていられる?)


 『学生』の焦りを見抜いたのだろう、ガイアが種明かしをするように笑いながら言う。


「不思議か? そう不思議でもないぞ。なぜなら我にはマナ循環装置と回収装置が装備されているからな。無駄に発散するはずのマナを一時的に保管し、マナクリスタルに再充填するから、100パーセントお前よりマナの残量は多いはずだ」


 それを聞いて『学生』は、


(そうだったのか! では最後の手段だ)


 そう思った瞬間、『学生』のマナ残量がついに20パーセントを下回った。


「……マナ残量が20パーセントを下回りました……」


 『学生』は一瞬、身体を硬直させて凍えた目でそうつぶやく。機械のような無機質な声だった。


 この後、すべてのエランドールは『省力モード』に移行するかそのままのモードを続行するかを、統制システムが訊いて来る。それに対してエランドール本人がどちらかを選ぶことでモードの切り替えが発動し、再び動けるようになる。


 そのことはガイアも『学生』も知っている。だからガイアは、『学生』の統制システムが注意喚起を行った瞬間、脱兎のように『学生』へと突進した。


(『学生』がモードの切り替えを終わらぬうちに、奴の統制システムを破壊する!)


 ガイアはそれを狙い、急速に『学生』に接近する。左腕を無理に動かし、魔力を最大にまで引き上げた。『学生』のどこでも、ガイアが望む場所を貫けるはずだ。


「……『省力モード』に切り替えますか?……」


 『学生』がモード切り替えの言葉を発した瞬間、


「やああっ!」

「かかったなっ!」


 『学生』はいきなり魔力を最大に引き上げるとともに、魔力をため込んだ剣をガイアに突き出す。


「くっ!」

 バシュンッ、ズガガンッ!


 『学生』の剣は、ガイアの胸部装甲を見事に貫き、主行動制御盤とマナクリスタルを破壊していた。


(……抜かった……モード変更をあらかじめ設定しておけば、モード変更確認時でも魔力の発現は可能だった……)


 ガイアは、視界に紗幕がかかってくるような感覚の中で、そのことを思い出してほぞをかんだ。『学生』がしたり顔で言う。


「思い出したみたいだね? でもこんなに簡単に君が引っ掛かるなんて意外だったよ。

 さて次は、君の妹さんだね? 彼女もすぐにスクラップにしてあげるから、楽しみにしていなよ?」


 それを聞いたガイアは、カッと目を見開き、


「ウォーラに手を出すなああっ!」

 バズンッ!

「がっ!?」


 一瞬の魔力バーストと共に、ガイアの槍は『学生』の胸部を突き刺し、同時に発射した魔弾は『学生』の頭部を爆砕した。


(……ウォーラ、短い間だったが楽しかったぞ。お前は生き延びてジン様と共に幸せな未来をつかめ……)


 ガイアはズシャリという音と共に膝をつく。もうすでに視覚装置は機能を停止し、他の機能もゆっくりと、しかし着実にシャットダウンし始めていた。


 そしてぺたりと地面に座った時、ガイアはすでに全機能を停止していたが、その顔には安らかな笑みが浮かんでいた。



(……俺様は必ず勝つ!)


 『戦士』はこの一撃に賭けていた。弱音を吐かない『戦士』だが、ウォーラやガイアとの戦いにおいては思わぬ苦戦を強いられ、もはやマナクリスタルには30パーセントほどのマナしか残っていなかった。


 一方、ウォーラも


(……この一撃で勝負を決めて見せます。そしてお姉さまにご加勢申し上げ、『学生』を倒したらご主人様の所に駆け付けなければ……)


 そう、強く念じていた。


 ウォーラを唯一の難敵とし、自身と引き換えにでも倒すという決心をしている『戦士』、必ずジンの許に駆け付けることを自身の使命と信じているウォーラ、二人のエランドールの軌跡は、最大限の力を振り絞って交差した。


「うおおおおおっ!」

「やああああっ!」

 ガキーン、グウァバンッ!


 金属を削る音と破壊音が周囲に轟く。


 交差した二人は、『戦士』は盾を前に突き出し、大剣を頭上に擬したまま、ウォーラは大剣を振り上げた姿勢のまま、しばらく動かなかった。


 やがて、


 バガンッ、キイィィンッ!


 『戦士』の盾が真っ二つに割れ、大剣が真ん中から折れる。


 と同時に、


「くっ!」

 バンッ、バチバチバチッ!


 ウォーラの胸部装甲が音を立てて外れ、大量に流れ込んだ魔力の影響で内部の機器がショートし火花が散るのが見えた。


 ズシャッ!

「はあ、はあ、はあ……」


 ウォーラは大剣を支えに立ち、肩で息をする。


「……おれ、俺様は負けない……負ける訳にはいかない……」

 ボウンッ……


 『戦士』はうつろな目でそう言うと、熾火に火を吹きかけるように残った魔力を燃え立たせる。その目に、ウォーラが大剣を支えに、苦しそうに息をしている後姿が映った。


「……倒す……俺様は敵を倒すために生まれて来たエランドールだ……」


 『戦士』は、折れた大剣を杖に、ゆっくりとウォーラににじり寄って行った。


 一方でウォーラは、外れた胸部装甲を右手で支え、左手は大剣の柄にかけて膝をついている。内部機器がショートしているとはいっても、一度に大量に襲った魔力のためで、こうやって接地面を増やせば過度の魔力は早く地面へと発散することは知っていた。


 また、胸部装甲が外れたのも、過度の魔力による機器の暴走を抑えるため、魔力が体幹内に籠らないようにするための工夫であり、ウォーラの実質的被害は軽微だったと言える。


 そしてウォーラに正常な視覚が戻って来た時、


「はっ!」


 彼女は後ろからの殺気に反応して、無意識に大剣と共に前へと跳ぶ。


 ズシャッ!


 彼女がいた場所に、『戦士』の大剣がめり込む音が聞こえた。


「……まだ動けたのですね?」


 ウォーラは左手で胸部装甲を押さえながら言う。10ヤードほど前には、頭部装甲を割られ、ふらふらと立つ『戦士』がいた。


「……俺様は……負けないんだ」


 ウォーラは、『戦士』にゆらりと陽炎のような、気味の悪い魔力がまとわりつくのを見て、


(……装甲板をはめ込んでいる時間はなさそうですね。左手を添えて重い装甲板を支えながらは、さすがに戦いにくいです)


 そう思ったウォーラは、


 ベリッ……


 思い切ってメイド服の前を破り、装甲板を外してその場に置いた。


「ご主人様が教えてくださいました。あなたみたいな方を『妄執に囚われている』と。

 勝負はもうついています。そのまま下がれば、あなただって修理してもらえるんじゃないですか?」


 ウォーラは右肩を前にして大剣を構える。最も大事な機器を守っている胸部装甲がない状態では、この構えが最も安全だと判断したのだ。


「……俺様は負けない」


 『戦士』はウォーラの声を無視してそうつぶやくと、突然走り出した。


「えっ!?」


 ウォーラは一瞬戸惑いの表情を見せる。頭部が割られているということは、内部の統制システムが入った機器に深刻なダメージを負っている可能性が高く、姿勢制御も困難になるため戦闘はおろか走ることさえできなくなる……それが常識だった。


「おうっ!」

「はっ!」


 『戦士』がものすごい勢いで大剣をぶん投げてくる。ウォーラはそれを後ろに一歩下がることで回避した。が……


 ガウンッ、バンッ!

「ああっ!」


 『戦士』の大剣は、ウォーラを狙ったものではなく、ウォーラが外した装甲板を狙っていたのだ。それは装甲板を直撃し、その勢いで跳ねた装甲板はウォーラの前面機器をえぐった。


「うおおおおっ!」


 勝ち誇った顔で突進してくる『戦士』の姿が歪んで見える。ウォーラは全機能が停止する寸前、


「ご主人様ああああっ!」

 バスンッ!!


 感情バーストを発動し、


「ええいいいっっ!」

 ギャンッ! バガンッ!

「うがああっ!」


 『戦士』の首を刎ね、その身体を縦に真っ二つにしていた。


(……悔しい……こんな油断でご主人様ともう会えなくなるなんて……)


 感情バーストの魔力に包まれたまま、ウォーラはペタリと座り込む。胸部装甲が食い込んだ体幹からは火花とオイルが漏れ出ていた。


 ウォーラは、突然、頬に熱いものが流れるのを感じる。


 これはオイルだろうか?……そう思ったウォーラは、静かに頬を撫でる。さらっとしてはいるが、何も匂いがない。オイルではないようだ。


(私は……泣いているのですか?……ご主人様を旅の最後まで見届けることが出来なくて、泣いているのですか?……)


 ウォーラはエランドールとしての『義務』を思い、そう考えたのだが、その意識がシャットダウンする瞬間、自分の気持ちに気づいた。


「……これが、『愛』という感情だったんですね……」


 そうつぶやいたウォーラは、がっくりと肩を落として意識が途切れた。漏れたオイルに火花が引火し、ウォーラの身体を燃やしだす。しかしもう、機能を停止したウォーラは動くこともなく燃え続けていた。


  (『テモフモフの遺産』を狩ろう!:5に続く)

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

遂にエランドールの二人が散りました。ウォーラもガイアも、その特性を生かして『騎士団』の役に立ってくれていただけに、衝撃は大きいものがあります。

作者としても、もはや物語の中では自分の意思を持ったように動いてくれるキャラの最期を考え、描写するのはつらいものがあります。

しかし、この後に続く『魔王』や『エピメイア』との戦いのために、ジンの周囲には最適な人物を配する必要があるのだと自分に言い聞かせています。

次回はワインVS.『ナルシスト』です。お楽しみに。

★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

【主な登場人物紹介】

■ドッカーノ村騎士団

♤ジン・ライム 18歳 ドッカーノ村騎士団の団長。典型的『鈍感系思わせぶり主人公』だったが、旅が彼を成長させている。いろんな人から好かれる『伝説の英雄』候補。

♤ワイン・レッド 18歳 ジンの幼馴染みでエルフ族。結構チャラい。水の槍使いで博学多才、智謀に長ける。お金と女性が大好きな『やるときはやる男』。

♡シェリー・シュガー 18歳 ジンの幼馴染みでシルフの短剣使い。弓も使って長距離戦も受け持つ。ジン大好きっ子で負けフラグをへし折った『幼馴染ヒロイン』。

♡ラム・レーズン 19歳 ユニコーン族の娘で『伝説の英雄』を探す旅の途中、ジンのいる村に来た。魔力も強いし長剣の名手。シェリーのライバルである『正統派ヒロイン』。現在、ジンと合流するため移動中。

♡ウォーラ・ララ 謎の組織の依頼でマッドな博士が造った自律的魔人形エランドール。ジンの魔力マナで再起動し、彼に献身的に仕える『メイドなヒロイン』。

♡チャチャ・フォーク 14歳 マーターギ村出身の凄腕狙撃手。謎の組織から母を殺され、事件に関わったジンの騎士団に入団する。シェリーが大好きな『百合っ子ヒロイン』。現在、『テモフモフの遺産』に捕まっている。

♡ジンジャー・エイル 21歳 他の騎士団に所属していたが、ジンにほれ込んで移籍してきた不思議な女性。闇魔法の使い手で、『PTD4幽霊』を倒すも、右腕を失った。

♡ガイア・ララ 謎の組織の依頼でマッドな博士が造ったエランドールでウォーラの姉。『組織』に使われていたがメロンによって捕らえられ、『騎士団』に入ることとなった。

♡エレーナ・ライム(賢者スナイプ)28歳 四方賢者として『賢者会議』の一員だった才媛。ジンの姉に当たり、四方賢者を辞して『騎士団』に加わった『禁断のヒロイン』。

♡メロン・ソーダ 年齢不詳 元は木々の精霊王マロン・デヴァステータだがその地位を剥奪された。『魔族の祖』アルケー・クロウの関係者で、彼を追っている。現在ジンたちとは別に『暗黒領域』で行動中。

♡レイラ・コパック 博識で氷魔法の使い手。スナイプのスカウトで加入した。『テモフモフの遺産』の一人、『法律家』を倒すも『道化』に止めを刺された。享年17歳。

■トナーリマーチ騎士団『ドラゴン・シン』

♤オー・ド・ヴィー・ド・ヴァン 21歳 アルクニー公国随一の騎士団『ドラゴン・シン』のギルドマスター。大商人の御曹司で、頭も切れ双剣の腕も確かだが女好き。

♤ウォッカ・イエスタデイ 21歳 ド・ヴァンのギルド副官。オーガの一族出身である。無口で生真面目。戦闘が三度の飯より好き。オーガの戦士長、スピリタスの息子。

♡マディラ・トゥデイ 20歳 ド・ヴァンのギルド事務長。金髪碧眼で美男子のような見た目の女の子。生真面目だが考えることはエグい。狙撃魔杖の2丁遣い。

♡ソルティ・ドッグ 21歳 『ドラゴン・シン』の先鋒隊長である弓使い。黒髪と黒い瞳がエキゾチックな感じを醸し出している。調査・探索が得意。

♤テキーラ・トゥモロウ 年齢不詳 謎の組織から身分を隠して『ドラゴン・シン』に入団した謎の男。いつもマントに身を包み、ペストマスクをつけている。

♤ブルー・ハワイ 25歳『ドラゴン・シン」の遊撃兼偵察隊長である槍使い。金髪碧眼で観察力と記憶力に優れる。変装に優れ、情報を分析する能力に長ける。

♡メアリー・ブラッドレイ 25歳『ドラゴン・シン』で物資調達を引き受けている槍使い。ド・ヴァンを詐欺ろうとして失敗、許されて彼に心酔し仲間になった。

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