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S級探索者の死因は魔物ではない ~新人事故調査官と追放エースのダンジョン検証録~  作者: sakumaaa


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9/10

死因は、記録から消せない

榊原は、ひどく静かな声で言った。


「短絡中継の導入前、救助搬送の平均待機は十一分四十秒でした。導入後は五十三秒。昨年だけで、救命可能時間内の帰還者が三十八人増えた」


「その数字に、天城さんは入っていますか」


「一人のために、三十八人を見殺しにはできない」


「だから一人を選んで殺したんですか」


「異常に気づいた彼が運用を止めれば、来年から何人が死ぬと思います」


 榊原の指が、古い認識票を強く握る。


「規則は、間に合わなかった人間を数えない」


「あなたの計算も、犠牲に選んだ人の同意を数えていません」


 管制室の扉が開いた。


 迷宮犯罪班の捜査員が三人、事故調査院の職員とともに入ってくる。


「榊原征司さん。天城晃さんの死亡事故、証拠隠滅、および転移設備の不正操作について、お話を伺います」


 榊原は抵抗しなかった。


 連れて行かれる直前、私を振り返る。


「父親と同じですよ。あなたもいつか、規則では救えない数を選ぶ」


「その時は、選んだ事実と責任者の名前を消しません」


 それが父と同じなのか、違うのか。


 まだ私には分からない。


 ただ、今回の死因は分かった。


 父の規格が天城さんを殺したのではない。


 規格が実行されなかったのでもない。


 榊原征司が、実行させなかった。


 その事実は、もう消せない。


 第三新人班が地上へ戻ったのは、二十二時八分だった。


 四人とも無事。


 魔素切れの一人は救護班に囲まれながら、迅さんへ必死に握手を求めていた。


「本当に黒瀬迅だ! あの、弟子とか募集してますか!」


「してない」


「連絡先だけでも!」


「してない」


 会話が成立していないようで、内容は完全に成立している。


 私は救護椅子に座り、右膝へ冷却材を巻かれながら、その様子を眺めた。


 迅さんが人の輪を抜け、こちらへ来る。


「骨は」


「異常なしです。打撲で二週間」


「転んだな」


「床に引き倒された記憶があります」


「命を救った」


「申請書には正確に書きます」


 私は黒箱のケースを差し出した。


「天城さんの音声も、搬送記録も、捜査資料として保全されました。二年前の処分審査も再開されます」


 迅さんはケースを受け取らなかった。


「許したわけじゃない」


「はい」


「だが、あいつが残した記録を、俺の感情で消す気もない」


「はい」


「同じ返事しかできないのか」


「記録中ですので」


「嘘つけ」


 迅さんが笑った。


 笑うと、思っていたより若く見えた。


 火曜、午前零時十六分。


 事故調査院へ戻ると、小野寺主任が二通の通知を机へ置いた。


 一通目は、黒瀬迅の処分再審査開始決定。


 二通目は、三十日間限定の現場検証員証だった。


「正式な免許回復ではない。真壁調査官の同行下で、事故現場の検証と避難補助だけを認める」


「戦闘は」


「禁止だ」


「床が襲ってきた場合は」


「報告書を書け」


 小野寺主任は淡々と答え、もう一枚の画面をこちらへ向けた。


 国内の転移設備を、SG-0で横断検索した結果だった。


 湾岸第六迷宮を含めて、同じ無効化コードを含む記録が七か所。


 どれも事故報告上は、魔物災害か探索者の操作ミスで処理されている。


「今回の事件は、これで終わりですか」


「天城晃の事件は終わらせた」


 主任は七件の一覧を指で叩く。


「仕事は増えた」


 非常に、事故調査室らしい結末だった。


 迅さんが限定証を首へ掛ける。


「次も命令を出せ、調査官」


 私は、今日だけで増えた報告書の山を見た。


 それから、彼の焦げた袖を見る。


「次は遅刻しないでください」


「努力目標にしておく」


「受理しません」


 魔物の痕跡がない死体から始まった、私の初担当は終わった。


 そして次の事故は、あと六件も待っていた。

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