表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
S級探索者の死因は魔物ではない ~新人事故調査官と追放エースのダンジョン検証録~  作者: sakumaaa


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/10

事故調査官は、迷宮を止める

「西側扉を、証拠保全対象者の避難経路として解錠します」


 私は管制卓から手動解錠を申請した。


 榊原の視線が、私の指先へ動く。


「黒瀬さん。扉が開いたら四人を耐魔階段へ。全員が入るまで、あなたも転移台から離れないでください」


『了解』


 時刻は二十一時十九分。


 証拠凍結の期限まで、五分。


 外部保全庫への接続が九十六パーセントで止まった。


「回線が絞られています」


 運行主任が青ざめる。


「安全管理室から帯域制限が」


「解除してください」


「私の権限では」


「解除すれば、同時運用中の救助回線が遅れます」


 榊原が静かに言った。


「たった一件の再現試験へ回線を占有して、別の迷宮で救助を待つ人間を危険にさらす。あなたのお父上も、そんな規格を望んだのでしょうか」


 父の名前を出されるたび、胸の奥に細い針が刺さる。


 六年前の事故。


 非公開の補遺。


 目の前の画面には、父が作った検査名と、それを無効にするSG-0。


 どちらが父の真実につながるのか。


『真壁調査官、三人入った』


 迅さんの声が、針を抜いた。


『魔素切れの一人が遅れてる。待つ。命令どおりだ』


「はい。待ってください」


 いま守るべきなのは、六年前の父ではない。


 R-12を歩いている四人だ。


「外部回線を救助帯域から分離。事故調査院の低速回線へ切り替えます。映像を毎秒一枚へ落とし、照合値を優先してください」


「画質が足りません」


「人の顔を撮る試験ではありません。数字が読めれば十分です」


 接続が百パーセントになる。


 二十一時二十三分五十八秒。


 凍結期限まで、二秒。


「正規経路を地上帰還門に固定。検証機六号、搬送待機」


 凍結が解除された。


 管制画面に緑色の経路が表示される。


`R-12 → 地上帰還門`


 正常だ。


 榊原が中央卓へ手を置いた。


「この経路では、地上到着まで二十二分かかります」


「待てます」


「迷宮災害では、二十二分が人を殺す」


「今回は待てます」


「あなたは四人の状態を直接見ていない」


 榊原は胸ポケットの古い認識票へ触れた。


「私は見てきた。正規経路の開通を待って、何人が手遅れになったか。短絡中継なら九秒です」


 中央卓に、橙色の警告が現れた。


`経路最適化要求`


`要求端末:安全統括卓01`


「要求を取り消してください」


「四人を帰還させます」


「その搬送対象は」


 私は言いかけて、止めた。


 ここで検証機だと明かせば、榊原は手を引く。


 手を引けば、四人は助かる。だが天城さんの死は、権限を盗まれた故障として逃げられるかもしれない。


 それでも、危険にさらされるのが人間なら、私は明かすべきだ。


 けれど今、R-12の人間は。


『四人目、入った』


 迅さんから通信が届く。


『全員、耐魔階段へ退避完了。真壁調査官、こっちは安全だ』


 私は息を吐いた。


「経路最適化要求を拒否します」


 運行主任が拒否キーを押した。


 榊原は迷わなかった。


 自分の認識票を中央卓へ当て、掌紋を重ねる。


`統括権限による強制実行`


`AUTH: SG-0 / SEIJI SAKAKIBARA`


 緑の経路が、赤く折れ曲がった。


`R-12 → M-17 → 地上帰還門`


「記録しました」


 私の声に、榊原の目が動く。


「搬送対象は、第三新人班ではありません。無人検証機六号です」


 榊原が中央卓の停止キーへ手を伸ばした。


 遅い。


 搬送光が監視画面を白く塗りつぶした。


 二十一時二十四分十一秒。


 中央台帳は、検証機が地上帰還門へ正常到着したと表示する。


 外部保全庫の位置記録は、M-17を示した。


 〇・八秒だけ、二つの場所へ同時に存在する。


 映像には赤い保守灯と、急速に迫る閉鎖隔壁。


 衝撃で画面が回転し、検証機の右車輪が警告色に変わった。


 だが通信は切れない。


 装備側の搬送前照合値と、中央台帳の到着記録。


 二つが食い違ったまま、事故調査院の保全時刻印を取得する。


「依織」


 耳元で、迅さんが一度だけ名前を呼んだ。


『読め。いま目の前にあるものを』


 父の事故ではない。


 天城さんの後悔でもない。


 目の前の事実を、私は読み上げる。


「直接原因。転移先の空間不足による座標剪断と、隔壁への衝突」


 管制室の全記録が、私の声を保存している。


「技術要因。真壁式空間容積検査の無効化」


 榊原は動かない。


「実行者。安全統括卓01、榊原征司。SG-0権限による迂回強制。天城晃さんの死亡時と同一経路、同一の〇・八秒欠損を再現しました」


 画面の端に、小野寺主任の承認通知が出る。


`湾岸第六迷宮・全転移設備 二十四時間緊急停止`


`承認者:主任調査官 小野寺真琴`


「二十一時二十四分三十八秒。湾岸第六迷宮を止めます」


 すべての転移台が、順番に赤へ変わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ