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S級探索者の死因は魔物ではない ~新人事故調査官と追放エースのダンジョン検証録~  作者: sakumaaa


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6/10

証拠は焼けても、次の四人は待っている

端末が着信を告げた。


 発信元は中央安全管理室。榊原征司。


 迅さんが私を見る。


 私は黒箱の記録状態を確認してから、通話を開いた。


『ずいぶん深いところまで行きましたね、真壁調査官』


 榊原の声は穏やかだった。


 私たちの位置を把握していることを、隠す気もない。


「証拠保全命令は共有済みのはずです」


『もちろん。協力するために連絡しました』


 端末に、一件の文書情報が送られてくる。


`事故調査資料 2033-04`


`真壁宗一`


`補遺・非公開`


 父の名前だった。


 六年前の事故で責任を問われ、その後、姿を消した父。


 私が何度開示請求をしても、存在すら回答されなかった資料。


『あなたが探しているものです』


「なぜ、あなたが」


『安全管理室には、長い記憶があります。今回の件を迷宮生物による災害として整理できれば、運営会社との調整も早い。明日には、補遺を閲覧できるよう手配しましょう』


「取引ですか」


『提案です。死者を増やさないための』


 画面の向こうで、榊原はきっと微笑んでいる。


 父が何をしたのか。何をしなかったのか。


 知りたかった。


 事故調査官になった理由の半分は、その答えを探すためだ。


 だが、残り半分は。


「お断りします」


 死んだ人が残した事実を、都合のいい原因へ書き換えさせないためだ。


「天城晃さんの装備から、搬送前経路ハッシュを回収しました。M-17の短絡中継と一致しています。榊原統括、二十三時十四分前後のSG-0使用記録と、あなたの操作承認記録を提出してください」


 沈黙は、一秒にも満たなかった。


『残念です』


 通話が切れた。


 同時に、部屋の照明が消えた。


「真壁調査官、ケースを持て」


 迅さんの呼び方が変わった。


 暗闇の中で、短絡中継の表示灯だけが赤く点滅する。


`REMOTE SANITIZE`


`00:29`


「遠隔消去です。装置を回収します」


「二十九秒で焼ける。諦めろ」


「現物がなくなれば、権限記録との接続が」


「黒箱は取った。試料も取った。今は人間を持ち帰る」


 迅さんが記憶核のケースを私の胸元へ押しつける。


「退避するぞ」


「待ってください。消去処理の開始記録だけ」


 私は端末を装置へ向けた。


 残り二十三秒。


 走査、署名、外部保全庫への転送。


 九十七パーセント。


「真壁!」


「あと二秒です!」


 転送完了。


 次の瞬間、短絡中継から白い火花が噴き出した。


 迅さんが私の安全帯をつかみ、床へ引き倒す。頭上を熱風が抜け、転移台の縁が爆ぜた。


 膝を強く打ったが、痛がるのはあとでいい。


 入口の隔壁が閉まり始めている。


 迅さんは私を立たせると、出口ではなく西側の壁へ走った。


「そっちは行き止まりです!」


「救助隊は、入口を出口に数えない」


 壁際の配管へ手を突っ込み、錆びた赤いレバーを引く。


 床板の一部が跳ね上がった。


 人ひとりがやっと通れる、保守用の退避孔が現れる。


「先に入れ」


「黒瀬さんは」


「最後に出る」


 迷う時間はなかった。


 私はケースを抱えて孔へ滑り込む。右膝が抗議したが、却下した。


 迅さんが続いた直後、背後で二度目の破裂音が響く。


 熱風が退避孔へ吹き込み、私の体が前へ飛んだ。


 安全帯のロープが張る。


 迅さんが後ろで支えていた。


「締めすぎを直しておいてよかったな」


「非常に、助かりました」


「上司への評価と同じだぞ」


「最高評価です」


 暗い退避孔を這い、旧救助導線へ戻った時、時刻は二十時五十八分になっていた。


 私は壁に背を預け、ケースの封印を確かめる。


 無傷。外部保全庫への転送も完了。


 迅さんは自分の焦げた袖より先に、私の膝を見た。


「歩けるか」


「業務災害の申請書を増やす程度には」


「歩けるんだな」


 その時、端末が新しい警告を表示した。


 短絡中継の消去前に取得した、最新の搬送待機一覧。


`21:30 第三新人班・四名`


`帰還地点 R-12 → 地上帰還門`


`経路最適化 SG-0`


 経路ハッシュは、天城さんのものと同じだった。


 M-17へつながる、偽の帰還経路。


「新人班は、いまどこです」


「地下六層の帰還待機所だ」


 迅さんが立ち上がる。


「止められるか、調査官」


 時刻は二十一時一分。


 次の搬送まで、あと二十九分だった。

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