第9話 真実は、逃げない
静寂だった。
会場の空気が、張りつめている。
視線が、一斉に集まる。
扉が開く。
私は、歩き出した。
「……誰だ」
ざわめき。
一歩ずつ。
逃げ場は、もうない。
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「ご無沙汰しております」
静かに、言う。
「黒崎綾音です」
その名前で。
空気が、凍る。
「……黒崎?」
「生きていたのか」
違う。
私は——戻ってきた。
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「本日は、お時間をいただきありがとうございます」
スクリーンが点灯する。
一枚目。
黒崎グループの資金移動。
二枚目。
不正な取引。
三枚目。
隠蔽された損失。
ざわめきが広がる。
「な、何だこれは……」
父の声が揺れる。
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「すべて、事実です」
淡々と、告げる。
「証拠も、揃っています」
逃げ場を塞ぐ。
■
「待ちなさい!」
父が立ち上がる。
「これは捏造だ!」
声が大きい。
でも。
震えている。
■
「では、次を」
切り替える。
映像。
結婚式の日。
美咲が——
自分で、足を引っかけて転ぶ。
完璧な角度で。
完璧なタイミングで。
悲鳴。
静寂。
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「違う……!」
美咲が叫ぶ。
「これは違うの!」
でも。
もう、誰も信じない。
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「もう一つ」
音声が流れる。
『あの人、邪魔なのよね』
『病気に見せかければ——』
空気が、完全に止まる。
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「母は——殺されました」
その一言で。
すべてが、崩れる。
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「嘘だ……」
父が後退る。
「そんなはずがない……」
現実から目を逸らす。
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「証拠はすべて提出済みです」
逃げられない。
もう、完全に。
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「私は騙されていたんだ……!」
悠真が叫ぶ。
「全部、この女が——」
「違う」
即答する。
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「あなたは“選んだ”の」
その一言で。
彼の顔が崩れる。
「信じる相手も」
「疑う相手も」
「全部、自分で選んだ」
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沈黙。
誰も、何も言えない。
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「これで、すべてです」
静かに締める。
長かった。
でも。
終わりだ。
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連行される三人。
誰も、止めない。
誰も、庇わない。
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私は、ただ見ていた。
感情は、静かだった。
怒りも、悲しみも。
もう、ない。
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ただ一つ。
はっきりしている。
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——真実は、必ず勝つ。




