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私を捨てたあなたたちへ——すべて終わりです。今さら戻れませんが、もう遅いです  作者: snow☆rabbit


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第2話 完璧な侵入者

その子は、完璧だった。

——だから、気持ち悪い。


「おはようございます、お姉様」


翌朝。


何もなかったみたいに、そこにいた。


キッチンに立つ姿。

自然な所作。

使用人との距離。


まるで——


最初からここにいた人間みたいに。


(早すぎる)


「コーヒー、どうぞ」


差し出されるカップ。


私の好きな温度。

甘さ。


「……どうして知ってるの?」


ほんの一瞬。


美咲の目が細くなる。


冷たい光。


「お父様から聞きました」


すぐに戻る、柔らかい笑顔。


(今の、何)


違和感が残る。


でも、それだけじゃない。



「気が利く子だな」


父の声が、やけに優しい。


「そんなことありません」


控えめに笑う。


完璧な距離感。


(……作ってる)


数日で、空気が変わった。


「美咲さんは本当に素晴らしい」


使用人の声が揃う。


「細やかな気遣いができる方で」


「お優しくて」


(早すぎる)


ここまで“好かれる”のは、普通じゃない。



「お姉様のこと、もっと知りたいんです」


無邪気な声。


「好きなものとか、習慣とか」


(必要?)


「家族ですから」


笑顔。


完璧な理由。


でも。


(情報を集めてる)


直感がそう告げる。



「この書類、整理しておきました」


机の上に並ぶ資料。


順番。

分類。

タグ。


すべて、私のやり方と同じ。


(……なにこれ)


「見やすい方がいいと思って」


“私のやり方”を、使って。



「お前も見習え」


父が言う。


「彼女の方が優れている」


胸の奥が冷える。


(もう?)


まだ何もしていないのに。


評価が、塗り替えられていく。



「お姉様、ごめんなさい……」


突然、泣き出す。


「私、何かしてしまいましたか……?」


何もしていない。


でも。


「綾音」


父の声。


「少しは大人になれ」


(……は?)


逆転している。



夜。


一人で考える。


偶然じゃない。

性格でもない。


“設計されてる”


好かれ方。

距離の詰め方。

情報の集め方。


全部。


(この子は——)


ゆっくりと理解する。


これは、適応じゃない。


“上書き”だ。


私という存在を、削って。


同じ形で、入り込む。



廊下ですれ違う。


「おやすみなさい、お姉様」


笑顔。


完璧な笑顔。


でも。


目だけが、笑っていない。


(……怖い)


背筋が冷える。


この子は、ただの“いい子”じゃない。



これは侵入じゃない。


もっと静かで、もっと確実なもの。


“侵食”。


気づいたときには、もう遅い。


——私の居場所は、静かに削られていく。

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