番外編① 白石美咲——欲しかったもの
最初は、ただの憧れだった。
狭い部屋。
古い壁。
足りない食事。
母は、よく言っていた。
「いつか、きっと」
その“いつか”は、来なかった。
■
父は、外の人だった。
綺麗な服を着て。
優しい声で話す。
でも。
帰っていく。
別の場所へ。
■
ある日、聞いてしまった。
「向こうには、娘がいる」
“向こう”。
それは、知らない世界。
■
広い家。
綺麗な部屋。
困らない生活。
そして。
“お嬢様”。
■
(いいな)
最初は、それだけだった。
■
やがて。
嫉妬に変わる。
(なんで、あの子なの)
同じ父なのに。
どうして。
こんなに違うの。
■
知れば知るほど。
欲しくなる。
場所も。
名前も。
全部。
■
父は、変わっていった。
最初は、逃げ場だった。
でも。
次第に。
「こっちの方が楽だ」
そう言うようになる。
■
“あちら”が邪魔になる。
強くて。
正しくて。
完璧な存在。
■
(あの人がいなければ)
初めて思った。
その時だった。
■
「死んじゃえばいいのに」
口に出していた。
静かに。
誰にも聞こえないように。
■
方法は、難しくなかった。
“病気に見せる”
それだけ。
■
手に入れた。
家も。
立場も。
すべて。
■
でも。
満たされなかった。
■
あの人の娘が、いたから。
何もかも奪っても。
最後まで。
折れなかった。
■
(なんで)
理解できなかった。
■
最後に見た顔。
静かな目。
揺れていなかった。
■
その時、わかった。
最初から。
勝てなかった。
■
残ったのは。
何もない、自分だけ。
空っぽのまま。
——終わり。




