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生活魔法って便利ですね!  作者: K
第2章 リリアガルド編

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9/25

第9話 ステータスプレートの特別講義と、少女マスターのギルド勧誘

いつもお読みいただきありがとうございます!

前回、絶望の『Dランク』判定を受けてしまったケイ。


今回は、冒険者として生き抜くための「ステータス講習」と、新たな居場所となる「ギルド加入」の様子をお届けします。

ただのハズレ枠だと思われていた『生活魔法』に、意外な強みが……?

そして物語の後半、ケイを襲う「最悪の事故」にもご注目ください(笑)。


 石造りの廊下に、圭の力ない足音が虚しく響く。

 冒険者協会の喧騒は相変わらずだが、先ほどまでの熱狂はどこか遠い世界の出来事のように感じられた。


「……ギフトのランクなんかで人の価値が決まるわけじゃないから、落ち込むことなんてないんだよ、ケイ!」


 隣を歩くココが、これまでにないほど優しい声で圭の顔を覗き込んできた。

 ついさっきまで、お風呂の件で彼を「変態」呼ばわりして怒っていたはずの彼女だが、今はその面影すらない。むしろ、あまりの悲惨な結果に同情を禁じ得ないといった、痛々しいものを見るような眼差しだ。

 あの勝気なココがここまで気を遣う。それはとりもなおさず、『生活魔法士(せいかつまほうし)』のD級という結果が、この世界においてどれほど絶望的であるかを物語っていた。


(……やっぱり、慰められるのが一番堪えるな……)


 圭が力なく俯いた、その時だった。

 脳内に、凛とした結の念話(テレパス)が直接響き渡る。


(圭、本当のギフトは何だったの? 私にだけにこっそり教えてよ)


 結の横顔を盗み見ると、彼女は前を見据えたまま、その瞳に「隠蔽お疲れ様」と言わんばかりの称賛の色を湛えていた。

 圭は一縷の望みを賭けて、結に問いを返す。


(結姉ぇ……。ギフトを偽装する時って、どんな感じだった? 最初に本当の結果が見えて、それを確認してから偽装したの?)


(当然でしょ。私の時は『工匠(アルティザン)』のS級だったわよ。水晶に触れた瞬間、頭の中に『B級への隠蔽(いんぺい)でよろしいですか?』ってアナウンスが響いたから、私が『はい』と念じたら自動的に表示が『錬成師(アルケミスト)』に変わったわ。……圭、あなたの時は?)


 その言葉を聞いた瞬間、圭の心の中で「パリン」と何かが割れる音がした。

 淡い期待――「無意識に隠蔽してしまったのではないか」という微かな可能性が、無残にも打ち砕かれたからだ。


(……ぼ、僕の時はそんな言葉、出てこなかったんだ。最初から『生活魔法士(せいかつまほうし)』でD級だったんだよ……)


(え? ……ほ、本当にD級だったの? 隠蔽してないの?)


 結の足取りが、一瞬だけ目に見えて乱れた。

 彼女の脳内では、「実はチート能力を持っているはずの教え子」というシナリオが猛スピードで崩壊していた。しかし、彼女は元・教師だ。生徒の心の危機を察知する能力は、異世界に来ても衰えていない。


(ま、まあ! 人の価値はギフトで決まるものじゃないから、落ち込むんじゃないわよ! ゆ、結姉ぇが圭の面倒はちゃんと見てあげるから、し、心配する事は、な、ないんだからね!)


(……結姉ぇ、動揺しすぎだよ……)


 明らかに動揺し、しどろもどろな念話(テレパス)を飛ばしてくる結。

 その気遣いが痛いほどわかるからこそ、圭は余計に歯痒い思いを噛み締めるしかなかった。


 一行が案内されたのは、冒険者協会の二階にある一室だった。

 一階の喧騒とは打って変わり、そこは木製の家具で整えられた落ち着いた事務室のような場所だ。

 ギフトを開花させた以上、今後月一万アデナの納税義務(・・・・・)が発生する。そのための正式な登録手続きが必要だと、受付嬢のエミリアに説明されていたのだ。


 しばらくして、扉が開いた。

 入ってきたエミリアは、先ほどの儀式用法衣から事務員らしい制服に着替えていた。ただ、帽子はかぶっていないので、あの可愛らしい猫耳は健在だ。


「お待たせ。じゃあ、この用紙に記入してくれるかな。いい? 虚偽の情報を書いたら逮捕されるから、気をつけてね!」


 エミリアは茶目っ気たっぷりにウインクをしながら、三枚の羊皮紙を配った。

 書くべき項目は、名前、住所、年齢、生年月日、そしてギフト名とランク。

 圭がペンを握り、住所の欄をどう書くべきかココに尋ねようとした、その時。


(圭、わかってるわね? 全てカタカナかひらがなで書くのよ。あと、苗字は絶対に書いちゃダメよ)


 再び結からの念話(テレパス)が飛ぶ。

 この世界『アステリア』には漢字という概念がなく、苗字を持つのは一部の貴族のみ。かつての教師としての危機管理能力をフル回転させ、結は圭に細かな指示を出す。


(わかってるよ、結姉ぇ)


 圭、結、そして隣で緊張しながらペンを走らせるソフィ。

 三人は慎重に書類を書き終え、エミリアに手渡した。


「はい、確かに受け取ったわ。……さて! じゃあ、次はお姉さんが、開花後の状態板(ステータスプレート)の使い方を詳しく教えてあげるから、ちゃんと聞いてね!」


 エミリアがパン、と手を叩いて姿勢を正す。


「いい? 説明が終わるまでが『開花の儀』なんだから。これを使いこなせないと、せっかくのギフトも宝の持ち腐れになっちゃうわよ」


 エミリアの言葉に、圭たちは背筋を伸ばし、その言葉を一言も漏らさぬよう真剣な眼差しを向けた。

 異世界で生き抜くための、本当の「授業」が始まろうとしていた。


ーーーーーーーーーーー


「じゃあ、まずは状態板(ステータスプレート)を出してもらえるかな?」


 エミリアの明るい声が、静かな事務室に響いた。

 促されるままに、圭、結、ソフィの三人はそれぞれのプレートを出現させる。銀色に鈍く光る板が、空中に三枚浮き上がった。


「この状態板(ステータスプレート)はね、ギフトを開花させるとイメージだけで操作できるようになるの。つまり、実際に出さなくても脳内だけで確認したり操作したりできるってわけ!」


 エミリアの説明に、圭は目を見開いた。

 いちいち物理的な板を出さずに済むのなら、戦闘中や隠密行動中には格段に利便性が上がる。ただ、現在の表示項目は「名前・年齢・ギフト・ランク・加護」のみだ。身分証明以外の使い道が今のところ思い浮かばない。


「でね、そのイメージ操作のコツなんだけど……エイっ、と捻って、ドドンって置く感じかな!」


「…………え?」


 圭は思わず固まった。

 擬音だらけの感覚的な説明に、圭の脳内は疑問符で埋め尽くされた。エミリアは受付嬢としては優秀だが、講師としての才能は壊滅的(・・・・)らしい。


「あ、できた!」


 だが、隣でソフィが嬉しそうな声を上げた。

 彼女の目の前にあったプレートが、すうっと霧のように消える。どうやらあの説明で理解できてしまったらしい。


「……なるほど。構造を理解すれば、意外と簡単ね」


 さらには結までもが、知的な指先で空間をなぞるようにして、自分のプレートを脳内へと格納してみせた。さすがは元教師、飲み込みの速さが尋常ではない。

 結局、一人取り残された圭は、結から「いい、圭。体内の魔力の流れをこう、一点に集めてから……」と論理的な補習を受けることで、ようやく操作をマスターすることができた。


「じゃあ次はね、使えるスキルや魔法の確認方法! とりゃーっ、と押して、ふわふわって撫でる感じ!」


 再びの擬音攻勢(・・・・)

 もちろん圭に理解できるはずもなく、ここでも結の「講義(・・)」が入ることとなった。


 結に教わった通り、意識を深く集中させて自分の情報を「深掘り(・・・)」していく。すると、文字の羅列が脳裏に浮かんできた。


【保有スキル・魔法】

収納(ストレージ) レベル1(消費MP1)

発火(イグナイト) レベル1(威力1 / 消費MP1)

流水ウォーター・ストリーム レベル1(威力1 / 消費MP1)


 さらに強く念じると、その詳細が表示される。

 まず『収納(ストレージ)』。これは亜空間に物体を保管できる便利スキルだが、試しに使ってみると、レベル1の現在は「タバコ一箱分」程度の容積しかないようだった。財布や鍵を入れるのが精一杯だろう。


 次に『発火(イグナイト)』。

 エミリア曰く、一般的な魔法使いが使う初歩魔法『火球(ファイア)』でさえ威力は30程度あるらしい。それに対し、圭の魔法はわずかに「1」。

 試しに指先で発動させてみると、パチッという小さな音と共に、ライターの種火か、あるいは消え入りそうな(・・・・・・・)トロ火が出現した。お湯を沸かすだけでも、一苦労しそうな火力だ。


 最後の『流水ウォーター・ストリーム』も、結果は同様。

 出せるのはコップ一杯分の水。飲用には適しているようだが、砂漠で遭難でもしない限り、劇的な効果は望めそうにない。


(……やっぱり、生活魔法だ。本当に『生活にちょっと便利』なだけだ……)


 圭が肩を落とす一方で、結は鋭い観察眼で数値を比較していた。


「圭、落胆するには早いわ。見てみなさい。あなたの魔法は消費MPがわずか『1』。対して、私やソフィが使えるスキル、魔法は、最低でも『50』は消費するのよ」


 最大MP、現在のMPも強く念じると見れるらしい。見てみると、現在の最大MPはレベル2の圭と結が「210」。レベル1のソフィが「200」。

 この世界ではMPは24時間で全快する仕組みだそうだ。圭の場合、一時間に「9」程度のMPが自然回復する計算になる。


「私の錬成スキルは一回で50も使うから、一日に四回使えばおしまい。でも、あなたの魔法なら、回復分を合わせれば一日中使い続けることだって可能だわ。この『燃費の良さ』は、一つの大きな武器になり得る……かもしれないわね」


 結の言葉は、教師としての励まし半分、分析半分といったところか。

 さらにエミリアは、スキルレベルについても補足した。


「スキルレベルは使い込むことで上がるわよ。上がれば威力が上がったり、消費MPが下がったりするの。まあ、生活魔法士(せいかつまほうし)は珍しいギフトだから、上限がどこにあるかは見当もつかないけど!」


 そして最後に、重要な「パーティー共有」についての説明があった。

 パーティーを組んだ者同士ならMPの受け渡しが可能だが、渡す側は全てのMPを譲渡することになり、余剰分は消滅。さらにはその後一時間はMPの回復が止まるという、手痛い副作用(ペナルティ)があるそうだ。使い所を間違えなければ、便利なのだろう。


「説明はこんなものかな。以上で『開花の儀』は終了! 皆さん、お疲れ様でした!」


 エミリアが満面の笑みで告げ、長い儀式の幕が下りた。


ーーーーーーーーーー


 エミリアによるステータス講習が一段落し、窓の外では昼下がりの陽光が石畳を白く焼いている。

 圭たちが席を立ち、事務室を後にしようとしたその瞬間だった。


「え、えっと……ちょっといいかな?」


 振り返ると、そこにはココが立っていた。いつもの強気な彼女からは想像もつかない、震えるような声だった。

彼女は小さな手を胸元でぎゅっと握りしめ、縋るような瞳で圭と結を見つめていた。その様子を察した結は、無言で足を止める。教師として、教え子が「本当に大切なこと」を切り出そうとしている時の空気を、彼女は知っているからだ。


「ココ、どうしたの? 相談なら遠慮なく言いなさい」


 結の穏やかな微笑みに背中を押され、ココは一つ大きく息を吸い込んだ。


「……ユイとケイは、まだどこかの冒険者ギルド(・・・・・・・・)には所属してないわよね? もしよかったら……私が管理者(マスター)をしてるギルドに、入ってほしいの」


「「ええええええっ!?」」


 圭と結の驚愕の声が、静かな事務室に木霊した。

 ギルドといえば先ほど開花の儀で、圭がD級と知るや否や散々罵ってきた大人達を思い出したが、僅か八歳の少女が荒事のプロが集う組織の頂点に立っているという事実は、あまりに衝撃的だった。結はすぐに居住まいを正し、一人のリーダーとしてココに向き直った。


「詳しく話を聞かせてもらえるかしら、管理者(マスター)?」


 ココが語ったのは、『星屑の錆(エトワール・ルイーユ)』というギルドの悲劇的な過去だった。

 一年前まで、彼女の両親が運営し、多くの手練れを擁したAランクの名門ギルド。だが両親が不慮の事故で他界した直後、メンバーたちは蜘蛛の子を散らすように去り、運営資金を持ち逃げする者さえ現れたのだという。


「上納金も払えなくなって、今じゃ最低ランクのDランク。メンバーも私一人。……でも、ギルドに入れば、ユイやケイにもちゃんとメリットがあるから!」


 ココは必死に、指を折って三つのメリットを説明し始めた。


「一つ目は『公報念話(ギルド・テレパス)』よ。普通のパーティー念話は離れると切れちゃうけど、これならリリアガルドの街一つ分くらいの範囲なら、どこにいても声を出さずに会話ができるわ」


(街全域をカバーする通信網……。情報共有や緊急時の連携において、これ以上の武器はないわね)


 結は知的な瞳を細め、その戦略的価値を瞬時に見抜いた。ココは言葉を続ける。


「二つ目は『拠点(ホーム)』の提供よ。ギルドはメンバーに住む場所を保証しなきゃいけない。つまり、これからも堂々と私の家を使っていいってこと! ……それから、三つ目が一番重要なんだけど……」


 ココは一度言葉を切り、真剣な眼差しで二人を見た。


「ギルドに所属してないと、冒険者協会で『依頼(クエスト)』を受けることができないの。逆にギルドに入れば、そのランクの一つ上までの依頼を受けられるわ。まぁ、うちはDランクだから……Cランクの依頼までしか受注できないけど、ユイもケイもレベルは2だったはずだから当面はそれで大丈夫なはずよ」


(Cランクの依頼……。今の私たちにはアデナを稼ぐ術がないから、受注出来るだけでもありがたいわね)


 結は心の中で断る理由はないと判断した。そして、隣で同じようにココの話を真剣に聞いていた圭に、念話(テレパス)を送る。


(圭、いいわね? )

(……もちろん。開花の儀の時にいた信用できない大人達よりずっといいよ。)


 二人の意思は完全に一致していた。結はココの手を優しく包み込んだ。


「もちろんいいわよ、ココ。……いいえ、管理者(マスター)。私たちを、あなたの『星屑の錆(エトワール・ルイーユ)』に加えてもらえるかしら?」


「っ……! ほんとに!? ……あ、ありがとう……っ!」


 ココの顔に、今日一番の輝かしい笑みが浮かんだ。


「じゃあ、今からソフィちゃんも含めて三人のギルド加入の手続きをしようか!」


 エミリアの明るい声が、事務室に響いた。


 この冒険者協会二階の事務室で、ギルドへの正式な加入手続きも一括で行えるらしい。エミリアが手慣れた様子で魔法の道具が収められた棚へと向かう。


「じゃあ、ケイくんは一度部屋の外へ出てもらえるかな?」


 不意に促され、圭はきょとんとして首を傾げた。


「え? どうしてです?」


「えっとね、ギルド加入の手続きをするときは、服を全部脱いでもらわなきゃいけないの。……そう、一糸纏わぬ(・・・・・)姿にね。ケイくんがいたら、ソフィちゃんやユイちゃんが困っちゃうでしょ?」


「は、はい、すぐに出ます!」


 一瞬、年相応の邪念が脳裏を掠めたが、相手は恩師と幼い少女だ。そんな不敬は許されない。圭は真っ赤な顔をして、逃げるように廊下へと飛び出した。


 重厚な扉が閉まり、廊下に一人取り残される。

 中の様子を想像してはいけないと思えば思うほど、意識は扉の向こう側へと向かってしまう。


(……結姉ぇはともかく、ソフィちゃんはまだ小さいし。やっぱり、そういう神聖な儀式なんだろうな……)


 数分後。


「圭、もう入ってもいいわよ」


 結の落ち着いた声が聞こえ、圭は恐る恐る部屋に戻った。

 そこには既に服を整えた二人の姿があったが、その肌には変化があった。結の右手の手の甲、そしてソフィの左手の掌。そこにはココの家の扉に描かれていた、あの「星」の意匠が淡い光を帯びて刻まれていた。

 『星屑の錆(エトワール・ルイーユ)』の紋章(エンブレム)。それは、彼女たちが正式にこのギルドの一員となった証だった。


「じゃあ、次はケイくんの番ね。服を全部脱いでくれるかな」


 エミリアがニコニコと、底知れない笑みを浮かべて迫ってくる。


「ち、ちょっと待ってよ! みんなは部屋を出て行かないの?」


 必死の抗議。だが、結は呆れたように肩をすくめた。


「今更何言ってるのよ。私は圭の身体なんて何度も見てるし、何も思わないわよ。さあ、さっさと脱ぎなさい」


「し、仕方ないじゃない! 紋章(エンブレム)を刻むのはギルドマスターにしか出来ないんだから!」


 ココの手には、魔力を帯びた銀色の(いん)……焼きごてのような道具が握られていた。

 ソフィはといえば、顔を林檎のように真っ赤に染め、泳ぐ視線を必死に固定しようとしている。


「嫌だ! 部屋から出て行ってよ!僕も出て行ったじゃないか!」


「……問答無用ね。圭、こういうのは潔さが肝心よ」


 結の瞳に、かつての水泳部顧問としての「厳しさ」が宿った。

 圭は反射的に後退りし、逃げ出そうとしたが――相手が悪すぎた。結は十七歳の瑞々しくも強靭な肉体、そして全国レベルの身体能力を持っている。


「こら! 暴れないの! ソフィ、押さえるのを手伝って!」


「は、はい、ユイさん!」


 まさかの連携攻撃。

 結の抗いがたい力で両腕を固められ、さらにはソフィが小さな身体で懸命に圭の足を抑え込む。


「ちょ、やめ……待っ、結姉ぇ、それは――っ!」


 無慈悲な手が圭の衣服にかけられ、一瞬にして彼は生まれたまま(・・・・・・)の姿へと晒された。


「ココ、今よ!」


「う、うわああああ、もう知らないんだからっ!」


 結の叫びに合わせ、ココが目を半分閉じたまま、魔道具を突き出した。

 だが、必死に抗おうと圭が身を捩ったのが運の尽きだった。


「――っ熱っ!?」


 ジィィ、と淡い魔法の光が弾ける。

 魔道具が押し当てられたのは、手の甲でも腕でもなく。


 圭の右側、その柔らかい臀部(おしり)だった。


「……もう、ケイ! 暴れるから、そんな妙なところに刻まれることになるのよ!」


 結が呆れたように溜息を吐き、ようやく拘束を解く。

 圭は涙目で自分の右尻をさすりながら、絶望に打ちひしがれていた。


「そんな……お尻にギルドのマークなんて……」


「あら、いいじゃない。人目につかない場所だし、秘密の契約みたいで素敵よ?」


 クスクスと笑うエミリア。

 こうして、最悪の事故(アクシデント)とともに、圭のギルド加入手続きは完了した。

 

「……あ、そういえば大事なことを忘れてたわ」


 放心状態で服を整え直そうとしていた圭に、ココが冷や水を浴びせるような声を上げた。


「何……? これ以上、何かあるの?」


 圭が涙目で振り返ると、ココは気まずそうに、けれど真剣な顔で指を突きつけた。


「あのね、冒険者協会で受けた依頼(クエスト)完了報告(リポート)をするとき……その紋章(エンブレム)を契約書にかざして、本人確認をしなきゃいけないのよ」


「え……?」


 圭の動きが止まる。

 この世界の魔導契約は厳格だ。ギルドメンバーとしての証である紋章(エンブレム)を書類に直接照合させることで、初めて報酬が支払われる仕組みになっている。


「……つまり、圭は依頼をこなすたびに、受付のカウンターでお尻を出さなきゃいけないってこと?」


 結が冷静に、けれど冷酷な事実を指摘した。

 想像してみてほしい。屈強な冒険者たちが並ぶギルドのロビーで、八歳の少年がおもむろにズボン(・・・)を下ろし、お尻を突き出す光景を。それはもはや、新手の露出狂か、あるいは何かの儀式にしか見えないだろう。


「な、なな、何それ! 絶対に嫌だよ! 恥ずかしすぎるって!」


 絶叫する圭。だが、魔法的な契約の仕様はどうにもならない。

 絶望に打ちひしがれ、その場に膝をつく圭を見かねて、エミリアがクスクスと笑いながら手を差し伸べた。


「ふふ、大丈夫よケイくん。そんなに悲観しないで。ケイくんが依頼(クエスト)の報告に来る時は、特別にお姉さんが別室で対応してあげるから」


「別室……ですか?」


「ええ。人目につかない場所で、私と二人っきりなら恥ずかしくないでしょ? ……まあ、私には結局お尻を見せることになるんだけどね?」


 エミリアはいたずらっぽく、自分の猫耳をピコピコと動かした。


「うぅ……エミリアさん、ありがとうございます……でも、やっぱり恥ずかしいです……」


 結局、誰かには見せなければならないという事実に変わりはない。


 こうして、波乱(トラブル)だらけの加入手続きは幕を閉じた。

 新生『星屑の錆(エトワール・ルイーユ)』。その初陣は、すぐそこまで迫っていた。


【大切なお知らせ:カクヨム連載開始と今後の更新スケジュールについて】


いつも本作を応援していただき、本当にありがとうございます!

作者のKです。


本日より、Web小説サイト「カクヨム」でも本作の連載を開始いたしました!

それに伴い、今後の更新スケジュールについて大切なお知らせがあります。


■今後の更新について

・カクヨム版:本日より毎日18:10に「第1話」から更新します(現在、第1話公開中!)。

・なろう版:カクヨム版の更新がこの第9話に追いつくまで、一旦お休みをいただきます。


カクヨム版が追いついた後は、「なろう」と「カクヨム」の【両サイトで同時更新】を再開する予定です!


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これからも、圭と三姉妹の物語をよろしくお願いいたします!


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