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生活魔法って便利ですね!  作者: K
第2章 リリアガルド編

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第5話 出会いはスライム、服は生贄

お読みいただきありがとうございます!

第5話では、この世界の「ルール」が少しずつ明らかになります。

ステータスプレートに浮かび上がる謎の加護、そして新たな出会い……。

しかし、その出会いが「圭」にとって最大の試練(?)を招くことになるとは、この時の彼はまだ知る由もありませんでした。



 黄金色に輝く平原(へいげん)を、爽やかな風が吹き抜けていく。

 かつて中学校の教室で教壇に立っていた白石結(しらいし ゆい)は、今、十七歳の瑞々しい肉体となって異世界の地に立っていた。


 その隣には、八歳の幼子(おさなご)へと若返ったかつての教え子、佐藤圭(さとう けい)


 結は、短くなった麻のシャツの裾を気にしながら、前を行く少年へと声をかけた。


「……圭、いつまでそれを見ているの? さあ、早く行くわよ。日が暮れる前に少しでも距離を稼いでおかないと」


 凛とした声で促すが、圭の視線は手元の半透明な板――状態板(ステータスプレート)に釘付けだった。

 現代日本で高校生を謳歌していた彼にとって、まるでスマートフォンのようなその魔法の道具は、知的好奇心を大いに刺激するものだった。


「あ、ごめん結姉ぇ。でもこれ、さっきから妙な項目が出てて……。これ、なんだろう」


「何かって……どれ?」


 結が少し呆れたように息を吐き、圭の横からプレートを覗き込む。

 二人の距離が近づき、結の柔らかな髪の香りが圭の鼻腔をくすぐった。


 八歳の子供の姿とはいえ、中身は十七歳の男子だ。圭は一瞬ドギマギとしたが、それ以上にプレートに浮かぶ文字が二人の意識を奪った。


精霊(せいれい)コハクの|加護《かご】


「コハクの……加護?」


 二人が首を傾げた瞬間、プレートに新たな文字列がさらさらと書き込まれていく。


[ヘルプ:精霊コハクの加護]

取得経験値が通常の三倍となります。

本効果は、圭様、春様、雛様、結様の全員に付与されています。

経験値倍率の恩恵は冒険者集団(パーティー)メンバー全員に共有されます。

尚、同一の加護が重複して付与されることはありません。


「三倍……。ゲームだったらバランス崩壊ものね」


 結は冷静に分析しつつも、その恩恵の大きさに眉を動かした。

 今頃、別の場所で途方に暮れているであろう(はる)(ひな)にもこの力が及んでいるのなら、少しは安心できる。


 剣道全国優勝者の春ならまだしも、雛は学年一位の頭脳の代わりに運動神経が壊滅している。

 あのおっちょこちょいな妹分が、無事に生き延びるためには少しでも早くレベルを上げられるこの恩恵は不可欠だ。


元教師としての(さが)か、結はこの便利な道具を徹底的に使い倒して情報を引き出すことに決めた。


「ちょっと、ステータスプレート。今『パーティーメンバー』って言ったけれど、その定義を教えなさい」



 結がプレートに問いかけると、淀みなく文字が躍る。



[解説:パーティー]

パーティーを組むことで、魔物討伐時の経験値を公平に分配可能です。

また、特殊機能『思念通話(パーティーチャット)』が開放されます。

パーティーメンバー間であれば、発声せずとも念じるだけで会話が可能です。

※有効範囲は対象との直線距離三十メートル以内に限ります。


「テレパシーみたいなものか……。声を出せない状況では重宝しそうね」


 さらに、圭が気になったことをプレートに問いかける。


「あの、経験値ってどうやって手に入れるの?」


[回答]

経験値は魔物を倒すことで取得でき、積み重ねることでレベルが上がります。

尚、個体のレベル上限は『年齢×2』となっております。


「年齢の二倍……?」


 結が指を折って計算を始める。


「……つまり、圭はレベル十六、私はレベル三十四が当面の天井ってことね。強くなるためには、物理的な成長も必要というわけかしら」


 次に確認すべきは、この世界の「格付け」だ。


「次は才能(ギフト)についてよ。わかっていることを教えなさい」


[ギフトランク概要]

D級:不遇。本来備わる能力が極めて低く、このランクを授かる者自体が稀。

C級:平均的。冒険者のボリューム層。

B級:優秀。街の精鋭レベル。

A級:天才。一国に数人の逸材。

S級:伝説。歴史に名を刻む英雄。


※レベル上昇に伴い、各ギフトに応じたスキル・魔法を習得します。

※圭様達は精霊コハクの加護により、ギフトの『隠蔽(いんぺい)』が可能です。


「D級って、最初からハズレ枠として決まってるようなものなのね……」


 そんなシビアな評価を目にしながらも、結は隠蔽機能に目をつけた。

 自分のギフトが『S級』であることを隠せるのは、平穏を望む彼女にとって幸いだった。


「目立ちすぎるのは今の私たちには毒だわ。さて、最後はお金についてよ」


[アステリア通貨一覧]

単位:アデナ(あでな)

木貨(もっか):1アデナ

石貨(せっか):10アデナ

銅貨(どうか):100アデナ

銀貨(ぎんか):1,000アデナ

金貨(きんか):10,000アデナ

白金貨(はくきんか):10,000,000アデナ

※1アデナ=1円程度の価値となります。


「白金貨なんて、1千万円相当じゃない……。分かりやすいけれど、今の私たちは一文無し。とにかくどこかで稼ぐ必要はあるわね」


 結は腕を組み、ふと先ほどの説明を思い出した。


「そういえば、さっき『経験値がパーティーメンバー全員に公平に分配される』と言っていたけれど、どうやってパーティーを組めばいいの?」


 問いかけに呼応するように、プレートに文字が浮かぶ。


[パーティーの結成方法]

対象者と手を繋ぎ、誘う側が『パーティー結成』と強く念じてください。

承認されることで、各種機能が開放されます。


「……だそうよ。圭、手を貸して」


「あ、うん。……こう?」


 小さな圭の手が、十七歳の結の手の中に収まる。

 若返ったとはいえ、結の手の温もりはかつての担任教師のままで、圭の胸はトクンと跳ねた。


 結は目を閉じ、意識を集中させた。


(パーティー、結成――!)


 その瞬間、圭の脳内に、自分の意志とは無関係な無機質な声が響いた。


『白石 結 より、パーティー結成の申請が届きました。承認しますか? [はい / いいえ]』


(承認……! もちろん承認だよ!)


 圭が心の中で叫ぶと同時に、二人のプレートが淡く発光し、互いの名前がメンバー欄に刻まれた。


『……聞こえる? 圭』


 圭の脳裏に、結の凛とした声が直接響く。

 圭は驚いて目を見開いた。


『すごい、本当に頭の中に結姉ぇの声が……。えっと、僕の声も聞こえてる?』


『ええ、バッチリよ。これなら隠密行動中も連携が取れるわね』


 結は少しだけ満足そうに微笑むと、繋いでいた手を優しく離した。

 その手にかかる重みがなくなったことに、圭はほんの少しだけ寂しさを覚えた。


 もし今、ここに雛がいれば「ずるーい! 私も結姉ぇと繋ぐー!」と騒ぎ立てていただろう。

 そんな光景を想像し、圭はふと表情を緩める。


「よし、それじゃあ行こう、結姉ぇ! あの街まで!」


「ええ。遅れないようについてきなさい」


 十七歳の少女と八歳の少年。

 歪な関係の二人の影が、黄金色に輝く平原に長く伸びていく。


 過酷な運命への第一歩は、驚くほど静かで、それでいて確かな絆と共に踏み出された。


ーーーーーーーーーー


 どこまでも続く平原の中を、一本の(わだち)が貫いている。

 舗装こそされていないが、多くの馬車が通り抜けたであろうその道は、目指すべき「街」へと二人を導いていた。


 道の至るところには、時折ぽつりぽつりと木々が立ち並び、その木陰にはドロドロとした軟体生物――粘液生物(スライム)らしき魔物がうごめいている。


「……気持ち悪いわね。あれがこの世界の魔物なの?」


 結が嫌悪感を隠さずに眉をひそめる。

 幸い、その魔物の動きは鈍く、こちらから近づかなければ害はなさそうだった。二人はそれを無視して先を急ぐ。


 しばらく歩き、遠くに城壁のシルエットがはっきりと見え始めた頃だった。

 馬車道から少し外れた草むらで、激しい金属音が響いた。


「てやぁっ!……あ、あれ!?」


 そこには、一人の少女がいた。

 年齢は圭と同じくらい。健康的な褐色の肌に、ぴょこんと跳ねたおさげ髪が特徴的な、どこか愛嬌のある容姿をした少女だ。


 彼女は自分の体格には不釣り合いなほど巨大な大剣(おおつるぎ)を抱え、必死にスライムへと振り下ろしていた。

 だが、その一撃はすべて空を切り、地面を叩くばかり。


 対するスライムが、不気味な音を立てて粘液を吐き出した。


「きゃっ!? ……う、うわわ、服が!」


 粘液が少女の衣類(ふく)に触れた瞬間、ジュウという音と共に布地が溶け落ちていく。

 見る間に少女の(はだ)が露出していき、事態は風雲急を告げていた。


「いけない! 圭、助けに行くわよ!」


 結が駆けだそうとしたその時、小さな手が彼女のシャツを強く引いた。


「待って、結姉ぇ! 今はダメだ!」


「何を言っているの!? 早くしないと彼女が……」


「……『横殴り』になるかもしれないんだ」


 足を止めた結が、不思議そうに圭を振り返る。

 圭の瞳は、現代日本で夢中になっていたMMORPGの画面を見る時のように、冷徹に状況を分析していた。


[解説:横殴り]

他人が戦っている魔物を、横から手を出して横取りする行為。

多くの世界において、経験値や戦利品の権利を侵害するマナー違反として忌み嫌われる。


「横殴り……? でも、彼女はピンチなのよ?」


「見て。あの魔物は動きが遅い。本当に危なければ、彼女ならいつでも逃げられるはずだ。でも、彼女は逃げずに戦ってる。……それって、自力で倒したい理由があるんじゃないかな」


 圭の言葉に、結は言葉を詰まらせた。

 確かに、少女の瞳にはまだ戦意が宿っている。見ず知らずの他人が突然介入し、獲物を奪ってしまうことが、この世界のルールにおいて失礼に当たる可能性は否定できない。


「……わかったわ。少しだけ、様子を見ましょう」


 だが、事態は残酷だった。

 少女の剣は一向に当たらず、逆にスライムの粘液攻撃を何度も被弾してしまう。


 ついに布地の大半を失い、ほぼ全裸に近い状態となった少女は、足をもつれさせてその場に倒れ込んでしまった。

 重い大剣が、少女の手から離れて地面に転がる。


「……もう、限界よ!」


 結は圭の制止を待たず、弾かれたように飛び出した。

 水泳で鍛え上げた十七歳の肉体は、驚くほど軽く、速い。


 転がった大剣をすかさず拾い上げると、結はその重さを利用するように回転し、スライムの核へと鋭い一撃を叩き込んだ。


 グシャリ、という生々しい手応え。

 ドロドロの塊だったスライムは、結の一撃によってあっけなく霧散していった。


『経験値を取得しました。レベルが上がりました』


 頭の中に、無機質な案内(ガイダンス)が流れる。

 結と圭の状態板(ステータスプレート)に刻まれた数字が「2」へと書き換わったが、今の結にそれを喜んでいる余裕はなかった。


「大丈夫!? 今、助けるわ!」


 結は大剣を傍らに置き、震える少女のもとへと駆け寄った。


 結が慌てて駆け寄ると、倒れていた少女――コレットは、羞恥に震えている……。

 かと思いきや、弾かれたように飛び起きて、結の胸ぐら(といっても麻のシャツだが)を掴まんばかりの勢いで吠えた。


「ちょっと! 何ぼーっと見てたのよ! あたしがピンチだったの、見ればわかるでしょ! もっと早く助けなさいよ!」


 そのあまりの剣幕に、結は思わず呆然とした。

 服が溶かされ、ほぼ一糸纏(いっしまと)わぬ姿であることなど、今の彼女には些細な問題であるらしい。


「ご、ごめんなさい。自力で倒したい理由があるんじゃないかと思って、見守っていたのだけれど……」


「……はっ」


 結の優しく、どこか慈愛(じあい)に満ちた声に、少女は毒気を抜かれたように動きを止めた。

 バツが悪そうに視線を逸らし、おさげ髪を弄りながら口を尖らせる。


「……ま、まあ、助けてくれたことにはお礼を言っておくわ。ありがとう……」


 消え入りそうな声で感謝を口にする彼女に、遅れて追いついた圭が尋ねた。


「え、えっと。君はなんでこんなところで魔物と戦っていたの?」


 目の前には、裸同然の幼い少女。

 だが、精神年齢が十七歳の圭にとって、八歳の肉体を持つ彼女を「異性」として意識するのは難しかった。

 むしろ、その勇ましさに感心すら覚えている。


「冒険者協会のクエストで魔石(ませき)を集めてたのよ。このあたりで一番弱い魔物は、さっきのスライムだからね」


 コレットは思い出したように、結が倒したスライムの残骸から小さな魔石を拾い上げた。


「これはあたしが最初に戦ってたんだから、もらっていいわよね?」


 こちらの返事も待たず、彼女は魔石を隠そうとして――ふと、自分にそれをしまう「懐」がないことに気づいて硬直した。


「……えっと。あんたたち、リリアガルド(城郭都市)に向かってるの?」


「リリアガルド?」


「あそこに見えてる街よ」


 コレットが指差したのは、先ほど二人が目指していた大きな城壁だ。

 どうやらあの街の名前は、リリアガルドというらしい。


「ええ、そのつもりよ」


「じゃあ、これ預かっといて。街に着いたら返してよね」


 コレットは魔石を結に手渡した。結はそれを頷いて受け取り、短パンのポケットへと滑り込ませる。


「あたしはコレット。みんなはココって呼んでるから、よろしくね」


 ココは得意げに、自分の状態板(ステータスプレート)を提示した。

 そこには【衝撃騎士(ショック・シュバリエ)】という才能(ギフト)と、C級という階級(ランク)が記されていた。


 アステリアでは、自己紹介の際にプレートを見せ合うのが通例なのだろう。

 結と圭もそれに倣い、自分たちのプレートを彼女に見せた。


「私は白石結。こっちは佐藤圭。よろしくね、ココ」


「シライシ? サトウ……? えっと、名前はユイとケイ、だよね? 苗字? 貴族なの? でもどこにも書いてないし……」


 ココが不思議そうに首を傾げる。

 結は違和感を覚え、少し距離を置いてからプレートに念じた。

(どういうこと? なぜ私たちのフルネームが通じないの?)


[回答:アステリアには貴族以外に苗字を持つ習慣がありません。コレット様には、プレートの文字が『ケイ』『ユイ』という名のみで翻訳されて表示されています]


 なるほど、ここでも翻訳機能が働いているらしい。

 結が納得していると、ココが二人のプレートを二度見して驚愕の声を上げた。


「ちょっと! ユイもケイも、まだギフトが開花してないじゃない! そんな状態で外を歩いてたの!?」


「ええ……実は、私たち二人とも記憶が曖昧で。よければ、色々と教えてもらえないかしら?」


 結が殊更にしおらしく頼み込むと、ココは頬を赤らめ、鼻の下を擦った。


「し、仕方ないわね! あたしが居ないと、あんたたちすぐに魔物に食べられちゃうだろうし! 少しの間だけよ!」


 絵に描いたようなツンデレぶりに、結は心の中で苦笑した。

 ともあれ、これでガイド役の確保には成功だ。


「じゃあとりあえずリリアガルドに帰りましょうか。……って、あ」


 意気揚々と歩き出そうとしたココだったが、自分の無残な姿を思い出して動きを止めた。

 さすがに全裸で城門を潜る度胸は、彼女にもなかったらしい。


「……服が、溶けちゃって……どうしよう……」


 困り果てた様子の彼女を見て、結は冷徹な判断を下した。


「圭。服をココに貸してあげなさい」


「え? そ、そうしたら僕はどうなるの!?」


「仕方ないでしょ。女の子をこのまま歩かせるわけにはいかないわ。元教師として、そんな不純な真似は許しません」


「いや、僕も恥ずかしいんだけど!?」


 抵抗を試みる圭だったが、結の目は本気だった。

 彼女は容赦なく圭のシャツと短パンに手をかける。


「問答無用! はい、脱いで!」


「ひどいよ結姉ぇーーーっ!!」


 平原に圭の悲痛な叫びが響き渡る。

 数分後。そこには、圭の服を身に纏い、裾を捲り上げたココと――。

 完全に生まれたままの姿にされた、八歳の少年が立っていた。


「圭は男の子なんだからいいでしょ。コハクの加護で、日焼けもしないはずよ。さあ、行くわよ!」


「……もう、どうにでもなれだ」


 ヤケクソになった圭が、股間を隠しながらトボトボと歩き出す。


 一行は奇妙な連れ立ちで、夕暮れのリリアガルドを目指すのだった。


第5話、いかがでしたでしょうか?

「精霊コハクの加護」による経験値3倍というチート級の恩恵を手にした二人でしたが、それ以上に衝撃的なのはラストシーン……。

女の子を助けるために、実質「生贄」として服を剥ぎ取られてしまった8歳の圭。

全裸で城郭都市リリアガルドを目指す彼の明日はどっちだ!?


新キャラクター、おさげ髪の少女「ココ」も加わり、物語はさらに賑やかになっていきます。

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