第4話 漆黒の精霊と、選ばれし「悪」(阿久津、美佳)
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第4話は、視点を変えて「もう一方の召喚者たち」の物語です。
主人公・圭を追い詰めたあの阿久津たちが、異世界で手にしたのは「選ばれし悪」の力でした。
彼らの「洗礼」と、歪んだ野心の始まりをぜひ見届けてください。
視界を焼き尽くすような白銀の閃光が収まった時、そこには音も風もない、果てしない純白の空間が広がっていた。
瑞穂高校の屋上で、佐藤圭を蹂躙していたはずの阿久津純也は、唐突な景色の変貌に周囲を鋭く睨みつけた。
「……あ? なんだよここ。お化け屋敷の仕掛けにしちゃあ凝りすぎだろ」
阿久津は自身の学ランの襟を正しながら、ふんと鼻を鳴らした。泥のついた靴も、ポケットの中のスマートフォンも、まだそこにある。
隣では、恋人の遠藤美佳が顔を青くして彼の腕にすがりついていた。
「ねえ、阿久津くん。ここ、どこなの……? 佐藤たちが急に光りだしたと思ったら、私たちまで……」
「チッ、知るかよ。おい、誰かいねえのか!」
阿久津の怒声に応えるように、頭上から鈴の音を歪ませたような不協和音が降ってきた。
「ヒヒッ! お化け屋敷とは失礼だね。ここは精霊界。キミたちが今からいく世界の待合室さ」
二人が見上げると、そこには滞空する「何か」がいた。
背中に薄い羽を生やした、掌サイズの小さな妖精。容姿だけを見れば愛らしい少女の姿だが、その肌は不健康なまでに黒ずみ、瞳には獲物をいたぶるような嗜虐的な光が宿っている。
「なんだよ、そのふざけた格好は。特撮の小道具か?」
「ボクの名前はノロ。キミたちのガイド役さ。……ねえ、阿久津。キミ、いい魂してるね。ドロドロに濁ってて、ボクの大好物だよ」
ノロと名乗った精霊は、空中を浮遊しながら阿久津の周りを品定めするように旋回した。
阿久津は怯えるどころか、その小さな精霊を捕まえようと無造作に手を伸ばす。その傲慢な振る舞いに、ノロは恍惚とした表情で口角を吊り上げた。
「ヒヒッ! 気に入ったよ。ボクの相棒が連れていった善人共とは大違いだ。……いいかい、これからキミたちを異世界アステリアへ送ってあげる。そこは剣と魔法が支配する、弱肉強食の世界さ。あの佐藤とかいう弱虫も、アステリアに行ってるよ」
「剣と魔法……? ハッ、ゲームみたいじゃねえか。面白そうだな」
「でしょ? 特別にキミには、世界を支配することだってできるS級の恩恵を授けてあげるよ。……あ、そうそう。転送の副作用で少しだけ若返るけど、それは新しい人生を楽しむためのサービスだと思ってよ」
「世界を支配できる力、か……。最高じゃねえか」
阿久津の口元が、醜く歪んだ。
中学時代、自分より頭一つ分以上背が低く、たった百六十センチしかない小柄な体で、正義感を振りかざしていた佐藤圭。あの鼻持ちならない優等生を高校で徹底的に壊してやった時の快感が、今度は世界規模で手に入るのだ。
「ね、ねえ、阿久津くん。本当に大丈夫なの……?」
不安に震える美佳が、再び彼の名を呼ぶ。その掠れた声を聞き、阿久津は彼女の肩を乱暴に抱き寄せると、その耳元で傲慢に囁いた。
「いいか美佳。……いつまでその他人行儀な呼び方をしてやがる。これからは俺が世界の王だ。お前はその隣にいる特別な女なんだよ」
「え……?」
「特別な女が俺を呼ぶ名前は、一つだろ?」
美佳は困惑しつつも、阿久津の瞳に宿る圧倒的なまでの独占欲と、未知の世界への期待感に毒されたように、頬を赤らめて頷いた。
「……うん。わかったわ、純也」
「ハッ、それでいい。おいノロ。さっさとそのアステリアとかいう場所に送れ。佐藤の野郎も、ついでに踏み潰してやる」
「ヒヒッ、いいね! ボクも一緒にアステリアについていってあげるよ。あんな弱虫、キミの力で徹底的に絶望させてやればいいのさ」
ノロが指を鳴らすと、二人の足元に巨大な光の幾何学模様が浮かび上がった。
阿久津――純也は、自身の勝利を確信しながら、光の渦の中へと堂々と足を踏み出した。
その直後に待ち受けているのが、全ての所持品を失い、全裸で未知の地に放り出されるという屈辱の洗礼であるとも知らずに。
「ヒヒッ……! 暴れてよね、純也。ボク、とっても楽しみだよ!」
邪悪な精霊の笑い声が純白の空間に響き渡り、二人の意識は欲望と混沌が渦巻くアステリアの地へと強制的に転送されていった。
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異世界の洗礼は、あまりにも唐突で、そして無慈悲だった。
古びた丸太小屋の床に、二人の男女が横たわっている。窓から差し込む陽光は、彼らが元の世界で持っていたすべてを失ったことを無機質に告げていた。
「……っ、痛ってぇな。なんだ、ここは」
先に意識を取り戻したのは、阿久津純也だった。
背中から伝わる木の感触に不快感を示しながら、彼はゆっくりと身を起こした。その瞬間、全身を吹き抜ける冷たい風の感触に、彼は自分の異変に気づく。
「……は? なんだよこれ。服が……ねえ」
阿久津は自分の裸体を一瞥したが、驚く様子もなく鼻で笑った。
若返りの副作用により、彼の肉体は八歳ほどの子供のものへと退行している。しかし、その内面にある支配欲と傲慢さは微塵も衰えていなかった。
「……ん、……純也?」
隣でうずくまっていた遠藤美佳が、微かな声を漏らして目を覚ます。
彼女もまた、八歳児ほどの幼い肉体へと変貌を遂げていた。そして、自分の肌に布一枚触れていない事実に気づいた瞬間、彼女の顔は一気に沸騰したかのように赤く染まった。
「ひゃ、ひゃああああああッ!? な、なによこれ! なんで裸なのよ!」
美佳は慌てて自分の体を腕で隠し、膝を抱えて丸くなる。
学校では派手なメイクと強気な態度で振る舞っていた彼女だが、実は男性経験はなく、その内面は驚くほど潔癖だった。いくら恋人の前とはいえ、白昼堂々、遮るものなく身を晒すなど耐えられるはずがない。
「うるせえな、美佳。ノロが言ってた『副作用』ってやつだろ。別に減るもんじゃねえんだから、そう騒ぐな」
「騒ぐなって……純也、少しは隠してよ! 恥ずかしくないの!?」
堂々と胸を張って立ち上がる阿久津に、美佳は指の隙間から抗議の声を上げる。
彼女は、屋上で佐藤圭を辱めた際、彼の裸体を何度も目にしていた。あの時、佐藤のモノを「小学生並み」と嘲笑ったが、目の前の阿久津のそれは、同じ子供の肉体でありながら、佐藤とは明らかに異なる「威圧感」を持って彼女の目に映った。その圧倒的な雄としての格差に、美佳は羞恥とは別の、逃れられない恐怖に近い動悸を感じていた。
「ヒヒッ! ごめんごめん、ちょっと説明不足だったかな?」
天井の梁から、黒い羽を羽ばたかせてノロが降りてきた。
「なんだ、ノロ。服はどうした。お前の仕業か?」
「ボクのせいじゃないよぉ。この世界『アステリア』へ転移する時はね、生命が宿っていない物質はマナの圧力で崩壊しちゃうんだ。キミたちの着ていた服も、スマホも、全部光になって消えちゃったってわけ」
ノロは空中で一回転し、阿久津の不満げな顔を覗き込む。
「でも安心してよ、ちゃんと代わりの服は用意してあるから。……ほら、あそこのタンスを開けてごらん」
ノロが指さした先には、古びた木製のタンスがあった。
阿久津は迷うことなく歩み寄り、引き出しを乱暴に開ける。そこに入っていたのは、生成りの麻でできた、ゴワゴワとした質感のシャツと短パンだった。
「……なんだよ、このボロ布は」
「贅沢言わないでよね。この世界ではそれが一番標準的な服なんだから。あ、言っておくけど下着なんて高度なものはないよ? 布一枚の開放感を楽しんでよね!」
阿久津は舌打ちをしながら、その粗末な服を身に纏った。
美佳も、阿久津に背を向けさせるようにして、震える手で服を着る。
下着という防壁を失った肌に、麻の冷たく硬い感触が直接突き刺さる。
一歩歩くたびに、若返ったばかりの過敏な肌を布が擦り、彼女の理性は削り取られていくようだった。
「よし、着たぞ。……おいノロ、次はどうすればいい。俺を世界の王にするための力を、さっさと寄こせ」
「ヒヒッ、せっかちだなぁ! わかったよ。まずは自分たちの能力を確認することから始めようか。キミたちの前に板が出るように念じてごらん。……『ステータス』ってね!」
「……ステータス!」
純也の声に呼応し、目の前の空間が淡く波打った。現れたのは、青白く発光する半透明の板だ。
それに続いて、美佳も震える声でその単語を口にする。
「ステータス……!」
二人の前に浮かび上がったのは、この世界のシステムを司る掲示板。だが、そこに刻まれていたのは、どこか幼さを感じさせるカタカナの羅列だった。
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【ナマエ:アクツ ジュンヤ】
【ネンレイ:8】
【レベル:1】
【ギフト:――】
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「……あ? なんだこれ、カタカナだけかよ。逆に読みづらくて仕方がねえな」
純也は不機嫌そうに眉をひそめた。スマートフォンでの流れるようなフリック入力に慣れきった彼らにとって、意味の詰まっていないカタカナの羅列は、判読に余計な思考を強いる、ひどく不便な代物だった。
美佳も、自分の名前が『エンドウ ミカ』と記号のように表示されているのを見て、どこか自分自身を失ったような、奇妙な空虚さを抱いていた。
「ヒヒッ! 大丈夫だよ、すぐに案内機能が働いてくれるから。……ほら、そこに出てきた文字をタップしてごらん」
ノロが指さしたプレートの隅で、小さな光の粒子が明滅を始める。
『――翻訳機能を起動しますか? YES/NO――』
頭の中に直接響く、機械的な声。
二人が迷わず『YES』をタップした瞬間、プレート上の文字が激しく明滅し、彼らが魂の奥底で理解している「形」へと変貌を遂げた。
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【名前:阿久津 純也】
【年齢:8】
【レベル:1】
【ギフト:――】
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「……『阿久津 純也』。ハッ、やっぱりこうじゃねえとな」
漢字で刻まれた自分の名を見て、純也は満足げに唇を歪めた。
だが、ノロはその肩の上で、さらに邪悪な笑みを深めて言葉を継ぐ。
「いいかい、純也。ここからが重要だよ。このアステリアという世界にはね、漢字なんて文字は存在しないんだ」
「あ? 存在しないって……じゃあ、今見えてるこれはなんだよ」
「それはキミたちが『異邦の召喚者』だから見える、システム上の特権さ。アステリアの住人たちがこのプレートを覗き込んでも、彼らにはさっきのカタカナ表記にしか見えない。彼らにとって漢字は、ただの複雑で意味不明な記号……絶対的な『暗号』なんだよ」
ノロは美佳のプレートを指さし、楽しそうに羽を揺らす。
「つまり、キミたちが漢字でメモを残したり、作戦を立てたりしても、この世界の人間には誰一人として解読できないってことさ。……ねえ、最高だろ? キミたちだけの秘密の言語があるなんてさ」
「……なるほどな。俺たちだけが使える暗号か」
純也の瞳に、どす黒い悦びが宿る。
自分たちだけが知る特別な知識。それがあるだけで、この無知な異世界人たちを一段高い場所から見下ろしているような、歪な優越感に浸ることができた。
「だからこそ、外では絶対に漢字を使っちゃダメだよ。何かを書くときは、現地のバカ共と同じように『ひらがな』か『カタカナ』だけで書きな。正体を隠して、裏でこの世界を弄んでやればいいのさ」
「ヒヒッ、わかってるじゃねえか。……おい美佳、お前もバカみたいに漢字を書くんじゃねえぞ。これは俺たちの『特権』なんだからな」
「う、うん……わかったわ、純也。私たちだけの、秘密ね」
美佳は、麻の服の隙間から伝わる心細さを振り払うように、純也の腕に身を寄せた。
自分たちだけの秘密の言語。それは、この未知の世界で二人が「選ばれた強者」であるという、危うい連帯感の拠り所となっていた。
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「おい、ノロ、ギフトの欄が空白のままだぞ。世界を支配できる力をくれるんじゃねぇのか?」
純也は苛立ちを露わにし、浮かび上がるプレートを指先で乱暴に叩いた。そこには『ギフト:――』という、期待外れな空白が広がっている。
「ヒヒッ! せっかちだなぁ。本来ならね、街にある冒険者協会へ行って『開花の儀式』を受けないとギフトは目覚めないんだよ。でも、純也たちは特別さ。ボクが今、直々に目覚めさせてあげるよ」
ノロが空中でおどけたように指を鳴らす。
その瞬間、二人の胸の奥からドロリとした重い熱が溢れ出し、全身の血管を駆け巡った。それは不快な、けれど抗いがたい「力」の感触だった。
「さあ、もう一度ステータスプレートを見てごらんよ」
ノロに促され、純也が再びプレートを注視する。そこには、禍々しい紫色の輝きを放つ文字が刻まれていた。
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【名前:阿久津 純也】
【年齢:8】
【レベル:1】
【ギフト:深淵の暴君】
【ランク:SS】
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「……『深淵の暴君』? これが俺の力か。それに、このSSってのはなんだ?」
「ヒヒッ! 『深淵の暴君』はね、相手の能力を劇的に弱体化させるデバフが得意なギフトだよ。もちろん、レベルが上がれば超強力な攻撃魔法も放てる。純也のいた世界で言うところの『魔王』みたいなものだと思っていいよ」
魔王。その響きに、純也の脳が痺れるような快感に包まれた。
「ランクについても教えてあげる。この世界の人たちが持つギフトは、基本的にはDからSまでランク分けされているんだ。大半の人間はCかB。Cが平均的で、Bなら優等生って感じかな。Aは天才、Sは伝説級さ」
ノロは空中でニヤリと口角を吊り上げ、言葉を継いだ。
「ちなみにDランクは、戦う力すら持たない正真正銘の『ゴミ』だよ。あまりに弱すぎて、逆に持っている奴がほとんどいないくらい珍しいんだ。……でも、純也の『SS級』はそれらすべてを遥かに凌駕する、この世界のバグみたいな特権なのさ!」
「最高じゃねえか……。S級すら超えてるんだな」
純也は自身の小さな掌を握りしめ、溢れ出す万能感に酔いしれた。自分はこの世界の理の外側にいる。あんな弱虫の佐藤が、万が一にも力を授かっていたとしても、せいぜい人並みのCかBだろう。もし万に一つDランクなんて引いていたら、存在自体が冗談みたいなものだ。
「……ちょっと、ノロ! 私のはどうなってるのよ!」
傍らで美佳が不満げな声を上げた。
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【名前:遠藤 美佳】
【年齢:8】
【レベル:1】
【ギフト:盗賊】
【ランク:C】
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「『盗賊』のC級……? なんで、私だけこんなに普通なのよ! 純也はSS級なのに!」
「ごめんごめん、美佳。純也に力を分け与えすぎて、ボクの魔力もカツカツなんだ。でも、Cランクならこの世界じゃ平均的だよ。Dランクのゴミに比べれば、まだマシだと思って我慢してよ。……ま、純也に尽くしていれば、いい思いができるんじゃない?」
「そんな……!」
美佳はショックを隠しきれず、自分の貧相なステータスと、隣で傲慢に笑う純也を交互に見つめた。今の彼女には純也に縋る以外の選択肢はない。麻の服の隙間から伝わる冷たい風のように、二人の間に残酷な「格差」という溝が刻まれた瞬間だった。
「ハッ、気にすんな美佳。俺についてくれば、お前も世界の頂点から景色を見せてやるよ」
純也は美佳の肩を抱き寄せ、その目には既に、アステリアという世界を自分のおもちゃとして蹂躙する、漆黒の野心が燃え上がっていた。
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万能感に浸る純也の視界で、ステータスプレートの端に新たな項目が明滅した。
『――状態隠蔽を起動しますか? YES/NO――』
「……あ? おいノロ、隠蔽ってのはなんだ」
「ヒヒッ! それはね、自分のギフトやランクを他人から低く見えるように偽装する機能だよ。いいかい純也、今のアステリアにSS級のギフト持ちなんて一人もいない。プレートは身分証として人に見せる機会も多いんだ。そんなもんを馬鹿正直に見せびらかしたら、国中の連中に目をつけられて、自由に動けなくなっちゃうよ?」
「なるほどな。手の内を最初から晒すほど馬鹿じゃねえよ」
「でしょ? とりあえず、平均より少し上の『B級』くらいに見えるように設定しておきなよ。ギフトの名前も、そうだね……『妨害魔導士』あたりにしておけば怪しまれないさ」
純也が『YES』を選択すると、プレートの禍々しい紫色の文字が書き換わり、どこにでもいる「少し優秀な少年」のような、毒気のない青い文字へと変貌した。
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【名前:阿久津 純也】
【年齢:8】
【レベル:1】
【ギフト:妨害魔導士(Bランク偽装中)】
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「……よし。これでいい。……ところでノロ、スキルや魔法はどうなってる? せっかくの力も、使い方がわからなきゃ意味がねえぞ」
「知りたいことがあるなら、プレートに向かって強く念じてごらん。キミの魂に刻まれた『業』が形になって現れるからさ」
純也が目を閉じ、自身の内側にある力の源に意識を集中させる。すると、プレートの下方に新たな項目が浮かび上がった。
【スキル:魔力感知・微】
【魔法:鈍化、睡眠】
「……これだけか? 魔王なんて言う割には、地味な術だな」
純也は露骨に不満そうな声を上げた。そんな彼を宥めるように、傍らで美佳も自分のスキルを確認する。
【スキル:忍足】
【魔法:盗取】
「私もこれだけ……。ねえ純也、やっぱり私たち、弱くない?」
「ヒヒッ! 二人とも、忘れないでよ。キミたちはまだ『レベル1』なんだ。この世界では、戦って、奪って、経験を積むことでレベルが上がる。レベルが上がれば、新しいスキルも、国一つを消し飛ばすような極大魔法も、どんどん覚えられるようになるんだよ」
ノロは純也の肩に頬を寄せ、その耳元で甘く、冷たく囁いた。
「楽しみだよね、純也? キミがレベルを上げるたびに、この世界にどれだけの『絶望』が溢れることになるのか……」
「ハッ……。レベル上げ、か。ゲーム感覚で最高じゃねえか」
純也は小屋の出口を見据え、その幼い顔に戦慄するような冷酷な笑みを浮かべた。
下着すら着けていない麻の服の心細さなど、もはや今の彼には関係なかった。その胸には、世界を蹂躙するための絶対的な力と、それを育てるための飽くなき欲望が渦巻いている。
「行くぞ、美佳。まずはここを出て、獲物を見つける。……俺たちの新しい伝説の始まりだ」
二人はノロを従え、未知なる異世界の荒野へと最初の一歩を踏み出した。
かつて、百六十センチの体で正義を説いていた佐藤圭という存在を、異世界の土へと埋めるための物語が、今ここから加速し始める。
欲望と混沌のアステリア。
そこは、善人がただ喘ぐだけの地獄か、あるいは悪人が謳歌する極楽か。
二人の背中には、これから始まる凄惨な略奪劇の予感だけが、影のように色濃く付き纏っていた。
第1章 完
第4話「漆黒の精霊と、選ばれし『悪』」をお読みいただきありがとうございました!
これにて、第1章『アステリアでの序曲』は完結となります。
SS級のデバフ能力を持つ阿久津と、C級盗賊となった美佳。
そして「漢字が暗号になる」というこの世界のルール。
役者は揃いました。次章からは、いよいよ物語が大きく動き出します!
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第2章もお楽しみに!




