第24話 いきなりの初陣は紅龍!?
いつもお読みいただきありがとうございます!
里の人たちの悲痛な願いと、村長さんの必死すぎる土下座……。
情に脆いのが災いし、春と雛は断りきれないまま「初仕事」へと駆り出されることになりました。
「ギフトを開花させた当日に、なんでこんな……」
そんな後ろ向きな気持ちで向かった指定場所で、二人のやる気を根底からへし折るような、最悪の事態が待ち受けています。
不本意すぎる二人の初陣、その幕開けをぜひ見届けてください。
ルセラの里から南に数キロ。鬱蒼と生い茂る木々が陽光を遮る山道を、春と雛の二人は慎重に進んでいた。
「結局、断れなかったねぇ、春姉ぇ」
「仕方ないでしょ。あんな悲壮感漂う雰囲気で、村長さんに土下座までされちゃったら……。情に脆いのは私の悪い癖だって分かってるんだけどね」
春は溜息をつきながら、腰に下げた剣の柄に手を置いた。
ルセラの里の平穏を脅かす、謎の男とドラゴンの存在。リゾットたちの涙ながらの訴えを前に、春の「元・剣道部主将」としての正義感が、どうしても「NO」と言わせてくれなかったのだ。
「でもさ、いくらなんでも展開が早すぎだよ。ギフトを開花させたその日にドラゴン退治なんて、ブラック企業もびっくりだよねぇ」
「本当よ。せめて一晩くらい、新しいスキルの練習をさせて欲しかったわ」
二人がぼやくのも無理はない。男が指定した『次の要求の日』というのが、まさに今日だったのだ。
里の南にある山へ、金と食料を持ってくること。それが男の突きつけた条件だった。
二人は準備もそこそこに、リゾットに用意してもらった一振りの剣を携えて出発する羽目になった。
「まぁ、武器が木の棒よりはマシかな」
春は、ルセラの里で一番上等だという剣を軽く引き抜き、その重みを確かめた。
さすがにドラゴンを相手にするのに木の棒では不憫だと思われたのか、里の貴重な備蓄から出されたものらしい。
その切れ味はなかなかのようで、山道で襲いかかってきた三つ目の狼の魔物も、春の鋭い一撃であっさりと沈黙した。レベルが3に上がった恩恵もあるのだろうが、本物の剣を手にした春の身のこなしは、すでに大人顔負けの冴えを見せていた。
山深くへと足を踏み入れ、斜面を登りきったその時――。
開けた広場の奥から、肌を刺すような熱気と、圧倒的な威圧感が放たれた。
そこにいたのは、燃えるような紅い鱗に包まれた、巨大な紅龍。
そしてその足元で、不敵な笑みを浮かべながら二人を待ち構える一人の男だった。
「金と食料は持ってきただろうな!?」
男が、勝利を確信したような傲慢な声を張り上げた。
背後の紅龍が、低い地鳴りのような唸り声を上げながら、黄金の瞳で春と雛をじろりと睨みつける。
「あいにく、これ以上あなたの理不尽な要求に応えるつもりはないわ。大人しく里から手を引いてくれるなら、こちらも剣を収めてあげるけど?」
春は、内側から込み上げる恐怖を必死に押し殺し、毅然と言い放った。
背中の雛を気遣いながらも、視線は男から逸らさない。
本音を言えば、戦いなどしたくはない。命のやり取りをする恐怖は、道場の試合とは比べものにならないほど重い。もし男が引き下がってくれれば、それが一番の解決なのだ。
「む、むぅ……お主ら、そんな幼い体で里のために無駄死にをする気か? 命が惜しければ、今のうちに尻尾を巻いて逃げることだ。わしの慈悲も、長くは続かんぞ!」
男は鼻で笑い、ドラゴンをさらに一歩前へと進ませた。
交渉の余地はない。春は覚悟を決め、低く構えた。
「雛、下がってて! ――『シールド』!」
春は背後にいる妹に下がるよう促すと、自身の持つ才能『守護神』のスキルを発動させた。
淡い光が雛の体を包み込む。一時的に防御力を上昇させる支援魔法だ。
ドラゴンの猛攻を防ぎきれる保証はないが、何もしないよりはマシだ。春の指先が、緊張でわずかに震える。
「ちっ、生意気なガキめ! やれ!」
男が苛立ちを込めて叫ぶ。
紅龍が大きく口を開いた。その奥で、凝縮された熱エネルギーが渦巻くのが見えた。
ゴォォォォォォ――ッ!
放たれたのは、すべてを焼き尽くす極大の火炎ブレス。
凄まじい轟音と共に、熱波が春を襲う。しかし、彼女の身体能力はすでに常人の域を超えていた。春は反射的に地面を蹴り、炎の軌道から脱出した。
ドラゴンは首を振り、何度も何度もブレスを放ってくる。
その度に春は風を切るような身軽さで回避を繰り返した。
(勝機はある……!)
春は冷静に戦況を分析していた。自分一人の力でドラゴンを討つのは、今のレベルでは不可能に近い。
だが、あの背後にいる男はどうだ?
ドラゴンを操っているのがあの男なら、本体を叩けばドラゴンは戦意を失い、去っていくのではないか。
春はブレスの合間を縫って、男との距離を詰めようとチャンスを窺う。
しかし、戦いの中で春は妙な違和感を覚えていた。
これほど苛烈な攻撃を受けているというのに、なぜか自分に当たる気配が一向にないのだ。ドラゴンの狙いが、わざと外されているような……そんな奇妙な感覚。
その余裕が、春に一歩踏み出す勇気を与えた。
「今よ!」
春は一気に地面を蹴り、男へ向かって最短距離で駆け出した。
その動きに驚愕した男が、顔を引きつらせて叫ぶ。
「チッ! あっちのチビをやれ!」
卑劣な命令。
ドラゴンの頭が、春ではなく、後方で怯えていた雛へと向けられた。
「えっ、あ、あわわ……っ!」
雛は慌ててその場から逃げようと足を動かす。
だが、運命は残酷だった。
極度の緊張と、いつもの「ドジっ子」な性質が、最悪のタイミングで発動してしまう。
何もない平坦な地面で、雛の小さな足がもつれた。
「あ――」
前のめりに転倒する雛。
その無防備な背中を、ドラゴンの巨大な口が捉える。
ゴォォォォォォォッ!!
紅龍の咆哮と共に、容赦のない火炎が雛の小さな体を飲み込んだ。
「雛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!!」
山々に、春の悲痛な絶叫が木霊した。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
まさかの衝撃展開……雛があんなことに……!
物語はいきなり絶体絶命の局面を迎えました。
「雛を助けて!」「春、頑張って!」と思ってくださった方は、
ぜひ【広告の下】にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして作品を応援していただけると、春の守護の力が強まるかもしれません!
ブックマークもぜひよろしくお願いします!




