第23話 B級連続は神の導き!? 拒否不能な討伐依頼と、小さき里の祈り
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第23話は、ついにハルと雛の「開花の儀式」回です。
目立ちたくない一心でギフトを隠蔽する二人ですが、まさかの展開に……!?
「1万分の1の奇跡」が生む、勘違いの嵐をお楽しみください!
ルセラの里の広場中央。急ごしらえの壇上には、春と雛が並んで立たされていた。
周囲を埋め尽くすのは、好奇心と期待に目を輝かせた里の住人たちだ。
数百年の時を超えて現れた伝説の戦乙女――彼女たちが、今この瞬間にどのような才能を授かるのか。その神聖な儀式を一目見ようと、里中の人々が集まってきていた。
里長のリゾットが、恭しく一つの水晶玉を捧げ持つ。
「この水晶玉に触れると、儀式はすぐに終わりますぞ。その後、確認が必要となりますゆえ、状態板を見せてもらえますかな。まずは……従者様からでよろしいですかな?」
リゾットが雛に水晶玉を差し出す。
春は隣で唾を飲み込んだ。状態板を提示しなければならないということは、自己申告で嘘をつくことはできない。もしここで「S級」などという結果が出れば、ドラゴンの討伐を断るなど夢のまた夢になってしまう。
「触るね!」
雛が小さく頷き、水晶玉にそっと手を添える。
刹那、水晶が柔らかな光を放ち、雛の目の前に状態板が浮かび上がった。
「では、状態板を……」
リゾットに促され、雛はプレートを手渡す。
覗き込んだリゾットの目が、驚愕にカッと見開かれた。
「じ、従者様の才能は……B級の『使役者』じゃ!」
瞬間、広場が爆発したような歓声に包まれた。
「従者様でB級だってよ! すげぇ!」
「おい、これなら戦乙女様はA級……いや、S級確定なんじゃないか!?」
住人たちの興奮が肌に刺さる。
だが、春は一人、冷や汗を流していた。
(ちょっと雛、どうなってるの!? 精霊さんはS級だって言ってたでしょ!?)
慌てて思念通話を飛ばすと、雛から呑気な返事が返ってきた。
(S級だったよぉ。本当は『召喚士』。でもね、触った瞬間に頭の中で『B級に隠蔽しますか?』って声が聞こえたから、『はい』って念じたの)
(……隠蔽!? そんな機能があるの!?)
春は内心で歓喜した。それならば、自分もB級に偽装して「私は戦乙女ではありません、普通の冒険者です」と言い張るチャンスがある。
「さぁ、次は戦乙女様!」
リゾットに促されるまま、春は水晶玉に手を触れた。
再び水晶が光り、状態板が更新される。
【名前:白石 春】
【年齢:8】
【レベル:3】
【才能:守護神】
【ランク:S】
やはりS級。しかも『守護神』という、聞いたこともないような才能だ。
直後、脳内に無機質なガイダンスが響く。
『B級に隠蔽しますか?』
春は迷わず、力強く念じた。
(はい! B級でお願いします!)
【名前:白石 春】
【年齢:8】
【レベル:3】
【才能:守護者】
【ランク:B】
目の前で文字が書き換えられる。よし、これならいける。
「どうですかな?」
春はわざと申し訳なさそうな顔を作り、プレートをリゾットに渡した。
「さぁ、戦乙女様の才能は……。……む、B級の『守護者』……じゃ」
リゾットの声に、広場の熱気がふっと引いていく。
「なんだ、B級かよ……」
「伝説の割には、普通だな。本当に戦乙女なのか?」
落胆の声が聞こえる。これだ。この「期待外れ感」こそ、今の春が求めていたものだ。
そう確信した瞬間――。
「案ずるでない! 皆、よく聞くのじゃ!」
リゾットが顔を真っ赤にして叫んだ。
「100人に1人と言われるB級が、2人連続で出たことなど今まで一度もあるまい! これは偶然ではない、開花の女神の導きじゃ! これこそ、ハル様が戦乙女であることの、何よりの証明じゃ!」
「な、なるほど!」
「確かに、B級でも十数年に1人の逸材だからな! それが2人も同時に現れるなんて、奇跡だ!」
熱狂が、先ほどよりもさらに凄まじい勢いで再燃する。
呆然と立ち尽くす春の頭の中に、雛の冷静な声が響いた。
(100分の1が2人連続で出る確率は、100×100で1万分の1だねぇ……。狙っても出せない確率だよ、春姉ぇ)
皮肉にも、隠蔽という選択が、彼女たちをさらなる「奇跡」の渦中へと突き落としたのだった。
ーーーーーーーーーー
開花の儀式を終えた春と雛は、リゾットの家にある応接室へと案内された。
なんでも、才能を開花させた者は、速やかに冒険者協会への登録を行わなければならない決まりらしい。
リゾットは手際よく、二枚の古びた羊皮紙を持って現れた。
「では、こちらの記入をしていただけますかな」
差し出された羊皮紙には、氏名、住所、年齢、生年月日、そして先ほど判明した才能名と階級を記載する欄が並んでいる。
「住所は、わしの家を書いておけばよろしいですぞ。まさか、天界などと書くわけにはいきませんからな! かっかっか!」
リゾットは上機嫌に笑うが、春たちは愛想笑いを返すのが精一杯だった。自分たちは決して天界から来たわけではないのだが、かといって現代日本の住所など書けるはずもない。教えられた通り、この里の住所を書き込んでいく。
しかし、ここからが本当の苦労の始まりだった。
結局、すべてを書き終えるまでに一時間近い時間を費やすことになったのだ。
「……え、また書き直し?」
春が思わず筆を止めて声を上げた。
『白石 春』と漢字で書けば、「天界の文字ではなく下界の文字でお願いします」と突き返される。
ならばと『シライシ ハル』とカタカナで書けば、今度は「状態板に記載されている名前の通りに」と首を振られる。
何度も書き直した結果、驚くべき事実が判明した。
この世界には、漢字という文字概念が存在しない。さらに、名字を持つのは「貴族」のみであり、平民には名前しかないのだ。
春たちの状態板には、彼女たちの認識に合わせて「漢字の姓名」が表示されているが、アステリアの人々の目には、そこにはただ『ハル』としか刻まれていないようだった。
「……文化の違いって、意外と面倒なんだねぇ」
雛がぐったりと机に伏す中、ようやく受理された書類をリゾットが回収した。
その後は、新人冒険者としての短い講習が始まった。
「いいですかな。状態板は念じるだけで自在に操作できるようになります。また、仲間同士での魔力の共有も可能になりますが、これは非常に重要な技術ですので……」
魔力の共有――それは、パーティー内で一人の魔力が尽きそうになった際、他者がそれを補填できるという、連携の要とも言えるシステムだった。
講習は義務だけあって、非常に有用な話が多かった。春と雛は、未知の世界を生き抜くための知恵をこぼさぬよう、真剣な眼差しで最後まで耳を傾けた。
「――講習は以上ですじゃ」
「「ありがとうございました!」」
二人が素直に頭を下げると、リゾットはふっと表情を和らげた。
だが次の瞬間、その瞳に沈痛な影が宿る。
「それでですな……戦乙女様に、一つだけ頼み事がありましてな」
「は、はい……」
(……来た!)
春は背筋を伸ばし、身構えた。
リゾットの口から語られた内容は、昨夜ラックが忠告してくれたことと概ね同じだった。
ドラゴンを引き連れた謎の男が現れたのは、三ヶ月前のこと。
男は里に対し、「要求に応じなければ、ドラゴンに命じて里を滅ぼす」という理不尽な脅迫を突きつけてきているという。
「これまでに、要求は二度ありました。……その度に、里からは女を一人ずつ差し出しました。男は彼女らを連れ去り、里は泣く泣く二人の命を犠牲にして、今日まで繋いできたのです」
リゾットの拳が、膝の上で震えている。
今回の要求は金と食料であり、今の里でも出せない量ではない。だが、この搾取がいつまで続くのか、次は誰が連れ去られるのか。里の住人たちは、見えない恐怖に心を蝕まれていた。
「戦乙女様。どうか、あの男とドラゴンの討伐をお願いいたしたい」
リゾットが、深く、深く頭を下げた。
それは里長としての正式な依頼であり、この里に住むすべての人々の悲痛な祈りそのものだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
目立ちたくない一心でギフトを隠蔽した二人でしたが、
S級を隠せば解決!……とはいかないのが異世界の難しいところ。
B級が連続したことで、結局「伝説の奇跡」として祭り上げられてしまいました。
S級がバレたらもっと大変なことになっていたはずですが、
隠蔽してもなお、ドラゴン討伐というハードな展開に追い込まれる二人。
平穏な生活への道は、まだまだ遠そうです……。
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