第22話 構えただけで完全勝利!? 逃げ場を失った戦乙女
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第22話は、ルセラの里での慌ただしい朝から始まります。
自分たちが「戦乙女」ではないと伝えようとする春と雛でしたが、里を襲う不測の事態がそれを許してくれません。
二日前の因縁、そして思わぬ形での「実力」の証明……。
二人の望まぬ方向へ加速していく事態を、ぜひお楽しみください!
「ふわぁ〜! よく寝た〜!」
窓から差し込む朝の光を浴びながら、春は大きく伸びをした。
決して現代日本にあるようなふかふかの布団とは言えないが、それでも森の中で野宿するよりは遥かにマシだ。屋根があるというだけで、これほど安心できるものだとは思いもしなかった。
「ん、むぐぅ……。お、おはよう、春姉ぇ」
春がそんな事を考えていると、隣で丸まっていた雛も目を覚ました。
眠そうに目をこすりながら、ゆっくりと起き上がってくる。
「おはよう、雛。……ねぇ、昨日のラック君の話なんだけどね」
春は声を潜め、昨晩の出来事について切り出した。
ルセラの里は、ドラゴンの脅威に晒されている。里長のリゾットは、自分たちを伝説の戦乙女だと思い込み、そのドラゴンの討伐を頼むつもりでいる。
リゾットが部屋に来る前に、どう対応するのかを二人で決めておく必要があった。
「リゾットさんに、なんて言ったらいいと思う?」
「普通に、戦乙女じゃないって言ったらいいんじゃないのぉ?」
「でも、すんなり信じてもらえるかな? あんなに歓迎されちゃってるし……」
春が顔をしかめると、雛は少し考える素振りを見せた後、ポンッと手を打った。
「じゃあ、こうすればいいよ! 雛たちも、この里に『戦乙女』を探しに来たことにするの! だって、自分が戦乙女だったら、わざわざ戦乙女を探しになんて来ないでしょ?」
雛の提案に、春は目を丸くした。
「なるほど、それはいい言い訳だね! さすが雛だよ」
「えへへ。……ただし、開花の儀式をこの里で受けるのは諦めた方がいいかな」
雛は冷静に現状を分析する。
自分たちは戦乙女ではないからドラゴンの討伐はできません、でも開花の儀式だけはお願いします――などという、都合のいい頼み事が通用するとは思えなかった。
「まぁ、昨日歩いてきた森をまっすぐ突き抜けたら、大きな街があると思うから、そこで儀式を受ければいいんじゃないかな。昨日の感じだと、あの森には三つ目の狼しかいなかったから、春姉ぇならなんとかなるでしょ!」
雛の推測は理にかなっていた。
二人は昨日、森から北に向かえば大きな街に出ると思って歩いてきた。だが、辿り着いたのは地図上では南に位置するこのルセラの里だった。つまり、昨日来た道をまっすぐ引き返して突き抜ければ、本来の目的地である北の街へ辿り着けるということになる。
戦わずしてこの里を去るには、それが一番安全な選択だ。
(よし、それでいこう!)
春が心の中で決意を固めた、まさにその時だった。
「戦乙女様、お目覚めですかな?」
扉の向こうから、リゾットの声がした。
「あ、あの。ちょっとお話がありまして……」
春が作戦通り、自分たちは戦乙女ではないと告げようと口を開いた瞬間――。
「大変だ! 盗賊が広場に出たぞ!」
家の外から、悲痛な叫び声が響き渡った。
「な、なんじゃと!」
その知らせを聞いたリゾットは血相を変え、慌てて外へと飛び出していく。
「もう、仕方ないな……!」
春は部屋の隅に置いていた木の棒を手に取ると、迷うことなくリゾットの後を追いかけた。雛もまた、不安そうな顔をしながら姉の背中に続くのだった。
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里の広場中央は、静まり返った恐怖に支配されていた。
中心で声を張り上げているのは、薄汚れた革鎧を纏った3人の男たちだ。そのうちの1人が、里の幼い男の子の首元にナイフを突きつけ、周囲を威嚇している。
「お前ら! 金と食料をあるだけ持ってこい! この子供がどうなってもいいのか!?」
盗賊たちの要求は、明白だった。人質を取り、里のなけなしの蓄えを奪おうというのだ。
そこへ、里長のリゾットと共に、春と雛が駆けつけた。
「あ……」
盗賊たちの顔を見た瞬間、春と雛は同時に息を呑んだ。
見覚えがある。忘れもしない、2日前――この異世界に転移してきた直後、森の中で旅人を襲っていたあの男たちだ。
旅人を殺害した後、自分たちまで手にかけようとした卑劣な輩。
(また、あの人たちか……)
春は一人、群衆を割って盗賊たちの前へと歩み出た。
手には、持ってきた一本の木の棒。それを正眼に構え、冷徹なまでの眼光を男たちに向ける。
「あなた達、次は手加減できないって言ったよね?」
「あぁん? なんだこのガキ……って、てめぇは!」
リーダー格の男が鼻で嗤いかけ――次の瞬間、全身の血の気が引くのを感じた。
無駄な力みの全くない、洗練され尽くした美しい構え。そして、子供らしからぬ氷のように冷たい瞳。
男の脳裏に、数日前の森での悪夢が鮮明にフラッシュバックする。
仲間の一人はなす術もなく倒された。絶対的な力の差。対峙しようとする気すら起きない。
目の前に立つ八歳の幼女は、人間の皮を被った理不尽な『怪物』だ。
ナイフを握る男の手が、ガタガタと無様に震え始める。今すぐこの場から逃げ出さなければと。貧しい里から搾り取ろうとしていた金や食料への執着など、生存本能が鳴らす警鐘の前に一瞬で吹き飛んだ。
「ひ、ひぃぃっ! ば、化け物だ! あの時のヤベェ奴だ!」
「に、逃げるぞ! 殺されるぞ!」
戦う意志など微塵も残っていなかった。
男たちは悲鳴を上げ、人質の子供を突き飛ばすように手放した。そして武器を構えることすらできず、蜘蛛の子を散らすように脱兎のごとく里の外へと逃げ出していった。
完全なる不戦勝である。
――パチ、パチパチパチ!
一瞬の静寂の後、広場を埋め尽くす里の住人たちから、割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。
「さすが戦乙女様だ!」
「武器も交えず、ただその威光だけで賊を追い払うとは、なんという神々しさか!」
リゾットもまた、満面の笑みを浮かべて拍手をしながら春に近づいてきた。
「あ、あのね、リゾットさん。これは、実は前に一度……」
「わかっております、わかっておりますとも! さぁさぁ! もう開花の儀式の準備は整っておりますぞ。これほどの奇跡を見せつけられては、一刻の猶予もありませぬ。さぁ、どうぞこちらへ!」
「えっ、ちょ、ちょっと待って……!」
言い訳をしようとする春の言葉は完全に黙殺され、彼女は半ば強引にリゾットに手を引かれて歩き出す。
皮肉にも、盗賊を震え上がらせたその「異常なまでの強者の威圧感」が、彼女を「拒否不能」な儀式の壇上へと押し上げてしまったのである。
最後までお読みいただきありがとうございました!
かつての敵を戦わずして退けてしまったことで、里の人々の期待はさらに高まってしまいました。
「戦乙女ではない」と言い出せないまま、物語はいよいよギフト開花の儀式へと進みます。
果たして、二人のステータスには何が記されるのか……。
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