第21話 戦乙女は断固辞退します! ルセラの里と小さき忠告者
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第21話は、ルセラの里での一騒動から始まります。
春が「教育係」としての本領(?)を発揮するシーンにご注目ください!
生意気な新キャラ・ラック君と、春&雛のやり取りをお楽しみいただければ幸いです。
ルセラの里の中央広場には赤々と燃える焚き火がいくつも立てられ、春と雛を歓迎する盛大な宴が始まっていた。
「んぐ、むむ、ごくん! 美味しいよぉ。春姉ぇも食べないのぉ?」
村人たちが次々と運んでくる素朴な料理を、雛は小さな口をいっぱいに開けて凄い勢いで頬張っている。6歳の体で半日も険しい森を歩き通したのだ。相当お腹が空いていたのだろう。
無邪気に食事を楽しむ妹の姿に、春は目を細めてホッと息を吐いた。
(まぁ、美味しく食べてるみたいで何よりだね)
そんなことを思っていると、横から声が掛かった。
「さぁさぁ、戦乙女様。一杯いかがですかな」
里長のリゾットが、恭しい手つきで春の木杯に飲み物を注いでくる。
「あ、ありがとうございます」
春は慌ててお酌を受けるが、ふと微かな不安がよぎる。
(もしこれ、お酒だったらどうしよう……)
元の世界では、彼女はまだ未成年の17歳だ。しかし、この熱狂的な歓迎ムードの中で「飲めない」とは言いにくい。春は意を決して、木杯に口をつけた。
「……! お、美味しい!」
それはアルコールではなく、甘く熟したフルーツの果汁を絞ったジュースだった。これなら雛が飲んでも大丈夫だと、春は胸を撫で下ろす。
春が喉を鳴らすのを確認すると、リゾットは満足げに頷き、今度は隣で肉に噛み付いている雛の方へと向き直った。
「さぁさぁ、従者様も一杯いかがですか」
「あ、ありがとう、おじいちゃん! もぐっ!」
雛はお酌を受けるや否や、躊躇うことなく一気にジュースを飲み干した。
(お、おじいちゃんって……。それに雛、完全に春の『従者』だと思われてるみたい)
雛の大物っぷりに冷や汗を流しつつ、春はある重要な記憶を呼び起こした。精霊琥珀が別れ際に残した言葉だ。
――『才能を使うには、冒険者協会で開花の儀式をする必要がある』。
ここはどんな危険が潜んでいるか分からない異世界だ。今日の魔物との戦いで自分の強さは証明できたが、少しでも早く才能を開花させておくに越したことはない。
「あ、あのね、リゾットさん。私達、才能を開花させたいんだけど、この里に冒険者協会はあるのかな?」
春が尋ねると、リゾットは目を丸くして驚愕した。
「お、おお! 才能などなくともあれほどお強いのに、更なる昇華を求められるとは……。さすがは戦乙女様ですな! 安心なさってくだされ。このリゾット、冒険者協会より開花の儀式の執り行いを任されておりますゆえ、明日にでも儀式をやらせて頂きますぞ!」
興奮気味に身を乗り出したリゾットは、目を輝かせて力説する。
「戦乙女様でしたら、A級……いや、伝説のS級は確定だと確信しておりますな!」
「あ、あはは……ありがとう」
引きつった笑みを浮かべ、春は曖昧に頷くしかなかった。
何はともあれ、明日には開花の儀式をしてもらえることになった。だが、春の心境は複雑だった。
(あの精霊のおじさん、絶対S級の才能をくれるって言ってたんだよね……!)
もし本当にS級が出てしまったら、春は決定的に「戦乙女」として神格化されてしまうだろう。そうなれば、どんな厄介事に巻き込まれるか分かったものではない。
期待の眼差しを向ける里人たちに囲まれながら、春は一人、底知れぬ恐怖に身を震わせるのだった。
ーーーーーーーーーー
宴が終わった後、春と雛は里長であるリゾットの家へと案内された。
「ふぅ、いいお湯だったね」
湯上がりで火照った頬を叩きながら、雛が満足そうに言った。
「だね。広くて気持ちよかったね!」
春も大満足の笑顔を浮かべる。
リゾットの家で案内されたお風呂は、さすが里長の家だけあって、二人で入っても十分すぎるほど広かった。
お風呂が気持ち良かったのは何よりだが、それ以上に嬉しかったのは、体に合う服とズボンをもらえたことである。先ほどまで二人は、森で亡くなった旅人から回収したシャツ一枚だけで過ごしていた。大人の大きめなシャツだったため大事なところは隠せていたものの、やはりちゃんとしたズボンがあるのとないのとでは安心感が全然違う。
下着がないことには不満が残るが、そもそもこのアステリアという世界には下着自体が存在しないようなので、こればかりは仕方がないだろう。
「それよりも……」
春がふと声を潜めると、その瞳が鋭く光った。
彼女は部屋の隅に置いてあった木の棒をスッと手に取ると、部屋の襖へ向かって無音で歩み寄り――勢いよく開け放ちながら棒を振りかざした。
「あわわわわ……! 待った! 待った!」
押し入れの中に隠れていたのは、雛と同じ年くらいの少年だった。
「ボク、何なのかな?お風呂の時からずっとつけ回してたよね?」
春が木の棒を突きつけながら、ジロリと少年を睨み下ろす。
「えっ? お風呂覗かれてたの……!?」
それを聞いた雛は顔を真っ赤にして悲鳴を上げ、「ヒェ〜」と両手で自分の体を隠すようにうずくまった。
「雛、別にいいでしょ。小さい子供なんだし」
目の前の少年は、見たところ雛と同じ6歳くらいだ。
肉体こそ8歳だが、精神年齢17歳の春にとっては完全に恋愛の対象外。異性としてすら見られない年齢のため、お風呂を覗かれたこと自体は全く気にしていない様子だった。
しかし、その「小さい」という言葉に少年が反発する。
「小さいって失礼だな! お前らだってオイラと同じくらいだろ! このブス女が!」
「……ブ、ブスですって〜!?」
ピキッ、と春の額に青筋が浮かび上がった。
春は逃げようとした少年の首根っこを捕まえると、有無を言わさず自分の膝の上にうつ伏せにし、ズボンをグイッと下ろした。
少年のお尻は丸出しになり、そこへ春の手のひらが容赦なく振り下ろされる。渾身のお尻ぺんぺんである。
「痛てててって!」
バチィン! と快音が響く中、雛は顔を真っ赤にしながらも、手で覆った指の隙間からその様子をしっかり見つめていた。
「えっと、ラック君で6歳。雛と同い年ね」
お尻ぺんぺんの刑を終えた春は、少年に状態板を提示させて身元を確認した。この少年、ラックは里長リゾットの孫らしい。
当のラックはといえば、お尻を出したまま地べたにうつ伏せになっている。どうやらお尻が痛すぎて、自分でズボンがはけないらしい。
「で、ラック君は何か用があって、春達をつけ回してたのかな?」
春が呆れたように尋ねると、ラックは涙目で振り返った。
「え、えっと、姉ちゃんは『戦乙女』ってやつだろ? 悪い事は言わないからさ、すぐに逃げた方がいいぞ」
「え? どういう事? そもそも『戦乙女』って何なの?」
逃げろという言葉に引っかかり、春は詳しく聞き返すことにした。
ラックの話によれば、戦乙女とはルセラの里に伝わる伝説で、過去に里が3度魔物の襲撃を受けた際、その度に現れて魔物を退けた少女のことらしい。
そして現在、この里はある深刻な問題を抱えており、長老たちが三日三晩かけて救いを祈っていたところへ、偶然にも春と雛が現れたのだという。
「だ、だからさ、姉ちゃん達はこのままじゃ戦いに行かされるぜ。姉ちゃん達が戦乙女でも、今回ばかりは相手が悪いと思うからさ、オイラは忠告に来たんだ」
「えっと、そもそも里が抱えている問題とか、相手って何なのかな?」
春が深掘りすると、ラックは声を潜めて語り出した。
最近、ルセラの里に『ドラゴンを引き連れた男』が現れたのだそうだ。その男は要求に応えないとドラゴンに里を襲わせると脅してきており、最初は女を、今回からは金と食料を要求してきているらしい。
リゾットはそのドラゴンの相手を、春たちにさせるつもりなのだと。
「いくら姉ちゃん達が戦乙女でもさ、流石にドラゴン相手じゃどうしようもないと思うんだ」
(……ラック君の言う通りだね)
春は内心で強く同意した。ファンタジーの世界に疎い春でも、ドラゴンがとてつもなく強大な魔物であることくらいは想像がつく。
いくら自分が剣道で強いといっても、所詮は人間レベルの棒振りだ。レベルもまだ3でしかない。そんな役目を引き受ければ、可愛い雛にまで危険が及んでしまう。
逃げ出したいのはやまやまなのだが……。
「えっとね、ラック君。逃げるわけにはいかないんだよ」
「え? どうして?」
「お世話になってるからね。宴を開いてご飯を食べさせてもらったし、こうして泊めてもらってもいるから。それに、そもそも春達は戦乙女なんてものじゃないの。明日、リゾットさんにちゃんと説明して、その討伐の話は断ろうと思うから大丈夫だよ」
ここで黙って夜逃げすることもできる。だが、それでは春の武士道に反する。受けた恩は返し、断るべきは堂々と断るのが彼女の性分だった。
「わ、わかったよ。断るなら、オイラは何も言わないよ」
ラックはようやく立ち上がってズボンをはき直した。
「で、姉ちゃん、オイラが逃げろって言った事はじいちゃんには黙ってて欲しいんだ。怒られるからさ」
ラックが申し訳なさそうに言うと、春はニカッと笑って頷いた。
「わかったよ! 春達は今日、ラック君に会ってない! それでいいよね?」
「あ、ありがとな」
春のカラッとした優しさに、ラックは少し顔を赤らめると、慌てて部屋から出て行った。
第21話をお読みいただきありがとうございました!
ついにお尻ぺんぺんされてしまったラック君ですが、彼が語る「戦乙女」の伝説とは一体……?
里が抱える深刻な問題に、春たちがどう巻き込まれていくのか、ぜひ次回もチェックしてください!
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