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生活魔法って便利ですね!  作者: K
第3章 ルセラの里編

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第20話 春と雛、北を目指した迷走の果てに

第20話です。

ここから第3章、春と雛のサイドストーリーが始まります。

物語の時系列としては、第1章の第3話からの続きとなります。


北を目指していたはずの二人ですが、何やら雲行きが怪しく……。

幼い二人の珍道中、ぜひお楽しみください。



 高くそびえる樹々が陽光を遮り、湿り気を帯びた風が下草を揺らす。

 二人の幼い少女の足音が、静かな森の空気を刻んでいた。

「……(はる)姉ぇ、疲れたよぉ〜。休憩しよ〜?」

 情けない声を上げて足を止めたのは、三姉妹の末っ子である(ひな)だ。

 先を歩く次女の(はる)としては、一刻も早く人里へ辿り着くために少しでも先に進みたいのが本音だったが……。

「もう、仕方ないわね。少しだけだよ」

 妹に甘い(はる)は、苦笑混じりに渋々了承した。

 (はる)は剣道の全国大会で優勝するほどのスポーツマンだ。八歳の肉体になっても、その体力とバイタリティーは同年代の女の子の中で群を抜いている。

 対する(ひな)は壊滅的な運動音痴。美術部員らしい繊細な感受性の代わりに、体力は同年代の中でも下から数えた方が早いほどだった。

 基礎体力からして大人と子供……いや、アスリートとインドア派ほどの差がある。二人はちょうど近くにあった古びた切り株に腰を下ろした。

 (はる)は手にした木の棒を握り直し、周囲に鋭い眼光を走らせる。

 昨日は盗賊に遭遇したし、この森には魔物も出る。ここは日本のように安全な世界ではないと、(はる)はすでに肌で察知していた。

 一方で、休憩に入った(ひな)はといえば、周囲の警戒は姉に任せきりで、目の前に浮かぶ半透明の板――状態板(ステータスプレート)に夢中になっていた。

 スマートフォンに見えなくもないこの不思議な板は、知的好奇心の強い彼女にとって格好の興味対象だったのだ。

(はる)姉ぇ、この状態板(ステータスプレート)案内(ヘルプ)機能、すごいよぉ〜」

「ん? どんなふうに?」

 気になった(はる)(ひな)の隣に座り、プレートを覗き込む。

 一応、(はる)も現代日本では女子高生だった。こうした未知のガジェットに興味がないわけではない。

 (ひな)が調べて分かったのは、こうだった。

 まず一つ目は『冒険者集団(パーティー)』機能。

 これはアステリアの人間なら誰でも使える基本機能で、冒険者集団(パーティー)を組むと魔物を倒した時の経験値をメンバーで平等に得られるのだという。さらに、メンバー同士で『思念通話(パーティーチャット)』という機能も使えるようになる。これは念じるだけで会話ができるそうで、かなり役立ちそうだ。

「平等に経験値がもらえるのはありがたいね。(ひな)は運動が苦手だけど、これなら(はる)が戦えば、(ひな)は戦わなくてもレベルを上げられるね」

「本当だね!試してみよ!」

 二人が手を繋いで念じてみると、驚くほど簡単に冒険者集団(パーティー)を組むことができた。

 さらに詳しく調べると、二人のステータスには『琥珀(コハク)加護(かご)』という項目がついていることが判明した。これは取得経験値が通常の3倍になるという、あの精霊からのお詫びらしい、非常にありがたい恩恵だった。

 次に確認したのは、アステリアでの貨幣価値だ。

 この世界の通貨単位は『アデナ(あでな)』。1アデナが元の世界の約1円に相当するらしく、日本人である二人には非常に分かりやすくて助かる設定だった。

 昨日、あの旅人の遺留品から入手したお金は、金貨2枚、銀貨3枚、銅貨8枚。

 アステリアの通貨制度に当てはめて計算すると……合計で23800アデナになる。

「23800アデナ……。これだけあれば、街に出れば数日は暮らせるだろうし、安心かな」

 (はる)は安堵の溜息ためいきを吐いた。

 真っ裸で森に放り出された絶望的な状況から、ようやく「生活」の目処が立ち始めていた。

(ひな)、そろそろ行くよ」

「は〜い。がんばって歩くよぉ〜」

 幼き達人と、知恵に満ちた末っ子。

 二人は再び歩き出し、地図に記された大きな街を目指して、深い森の奥へと歩みを進めていった。

ーーーーーーーーーー

 半日ほど歩き続けると、鬱蒼とした緑のカーテンが途切れた。

 視界が開け、少女たちの目に飛び込んできたのは、高く澄み渡った空と、緩やかに続く草原の光景だった。

「ふ〜ぅ、やっと森から出られたよ!」

 (はる)が大きく背伸びをしながら、声を上げる。

 ここに来るまでの間、二人は2回ほど魔物の襲撃を受けていた。相手はいずれも、額に不気味な第三の眼を持つ三つ目(みっつめ)の狼だった。

 最初は心臓が飛び出るほど驚いた(はる)だったが、手に馴染んだ木の棒を振るえば、呆気ないほど簡単に倒すことができた。その戦いのおかげで、(はる)(ひな)のレベルは2に上がっている。

(はる)姉ぇ、あそこに見えるのが街かなぁ?」

 (ひな)が短い指で遠くを指差した。

 その先には、確かに人の営みを感じさせる建築物の影が見える。

 しかし、(はる)は微かな不安を覚えた。遠目から見ても、そこが巨大な都市には見えなかったからだ。

(……なんだか、あんまり大きくないんだよ。もしかして、反対側に来ちゃったのかな?)

 一瞬、引き返すべきかという考えが脳裏をよぎる。だが、六歳の肉体で限界まで歩いた(ひな)の疲労を考えれば、立ち寄らずに通り過ぎるという選択肢はなかった。

「大きな街には見えないけど、行ってみようか!」

「うん!」

 二人は足取りを早め、その集落へと向かって歩き出した。

 しばらく進むと、街の手前まで来た。

 規模はあまり大きくないようだ。街というよりは、村だろう。

 おそらく、大きな街とは反対側の集落に来てしまったのだと(はる)は察した。

 だが、二人が落胆する間もなく、事態は急変する。

 村の入り口付近に、魔物の群れがいたのだ。

 数は3匹。先ほど倒したのと同じ、三つ目(みっつめ)の狼だ。

 そしてその先には、一人の老人が地面にへたり込んでいた。

「危ない!」

 (はる)の体が、思考よりも先に動いた。

 魔物と老人の間に割り込み、木の棒(ぼう)を正眼に構える。

 先ほどの戦闘で、この魔物相手なら負けないという確固たる自信が彼女にはあった。

 魔物は低く唸り、(はる)に襲いかかる。

「突き! 突き! 突き!」

 目にも止まらぬ突きの三連撃。

 魔物は(はる)の鋭い一撃の前に、あっけなく砕け散った。

『経験値を取得しました。レベルが上がりました』

 頭の中にガイダンスが流れる。レベル3への到達。

 (はる)はすぐに老人に駆け寄った。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃ、ありがとなお嬢さん」

 老人はお礼を言いながら立ち上がった。

「わしはこういうもんじゃ」

 そう言いながら、老人は状態板(ステータスプレート)を差し出してきた。

 老人の名前はリゾット。85歳だ。

 この世界では自己紹介の時にプレートを見せるのがマナーなのかと思い、(はる)(ひな)もプレートを差し出す。

「ふむ、レベル3で才能(ギフト)もなしで、この年齢であの強さ、なるほど!」

 リゾットは何か納得したような顔をすると、二人に向き直った。

「ようこそルセラの里へ! 案内しますぞい!」

 二人はリゾットの後に続き、村……もとい、ルセラの里へと向かった。

「里長、おはようございます」

 すれ違う人々がリゾットに挨拶をする。どうやら彼はこの里の里長であるようだ。

 リゾットはある体格のいい男の前で立ち止まると、静かに告げた。

「皆を広場に集めてもらえるかの」

 男はすぐに走り去り、やがて街の中央にある広場には大勢の人が集まった。

 リゾットは皆の前に立ち、朗々と声を張り上げる。

「皆の者!(いにしえ)の伝承にある通り、ついに戦乙女(いくさおとめ)が降臨されたぞ。この方じゃ!」

 瞬間、村人たちから地響きのような歓声が上がる。

 人々は次々と膝をつき、(はる)(ひな)に向かって深々と頭を下げた。

(は、(はる)姉ぇ、戦乙女(いくさおとめ)って何?)

 (ひな)が困惑気味に思念通話(パーティーチャット)(はる)に送る。

(さ、さぁ……?)

 熱狂する人々を前に、二人はただ顔を見合わせることしかできなかった。


第20話をお読みいただきありがとうございます!


苔の生え方で方角を間違えてしまうなんて、なんとも春と雛らしい展開になってしまいました(笑)。

しかし、いざという時の春の三連撃はさすが全中優勝者ですね。

まさかの「戦乙女」としての里への招待。リリアガルドにいる圭たちとは、どんどん状況が変わっていきそうです。


もし「春ちゃんカッコいい!」「雛ちゃん可愛い!」と思ってくださったら、ぜひブックマークや広告下の【☆☆☆☆☆】で評価をいただけると、執筆の大きな励みになります!


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