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60.不穏な霧

 二人は洞窟を出た。

 しめ縄を潜った途端、三人が駆け寄ってきた。

「流さん、大丈夫ですか?」

 省吾の父親が、心配そうに訊いてきた。

 省吾を父親に渡しながら、流は言った。

「前山さん、すぐ省吾くんを病院へ連れて行ってください。それから、今日のことは内密に願います。省吾くんが無事なら、黙っていた方が妙な噂を立てられることもないでしょう。ここは禁足地ですしね。」

 前山というのは、省吾親子の名字だ。

「わかりました。本当に…本当にありがとうございました!」

 省吾の父親は流に深々と一礼して、村に駆けていった。

「気を失ってるだけだと良いんだが。」

 流は走り去っていく背中を見つめながら、心配そうに言ったが、その時一同は、省吾の身体から、何か薄っすらとした黒い霧のようなものが立ち上るのを見落としていた。

 洞窟から無事に生還した気の緩みから、そこまで注意を向けることができなかったのである。

「京一、お前大丈夫なのか?」

 三太が心配そうに訊いてきた。

「うん、大丈夫だよ。

 僕が行ったときには、もうお父さんが全部終わらせてたんだ。」

 京一はそう言いながら、誇らしげに父を見やった。

 しかし実際はそうではないことは、流自身がよく分かっていた。

 心の中で呟いた。

 これを終わらせたのは、お前の桁外れの力だよと。

 しかし、他の人間にそれを悟らせるわけにはいかない。

「前山さんにも言ったことだが、二人とも、今日洞窟に省吾くんが居たことは秘密にしておいてくれないか?でないと村の中での前山さんの立場がどうなるか…。」

 流はそう言って、二人に頭を下げた。

「頭を上げてくだせえよ。命がけで助け出したあんたにそう言われちゃ、俺らは何にも言えねえ。三太も分かってるな?」

 源さんは、三太に目を向けながらそう言った。

「わかってるって。ここでの事は死ぬまで秘密だ。」

 三太も三人を見回して、そう言った。

「でも京一がいきなり光り始めたときは、ちょっとビックリしたけどな。」

「え?僕光ってたの?」

 京一は三太の言葉に驚いた。

「ああ、お前物凄く光ってたぜ。気が付いてなかったのか?」

 三太は意外そうな表情を見せながら言った。

 そしてその言葉に、京一は軽い衝撃を受けた。

「それは気が付かなかったよ。」

 それ以外に何と言ったらいいか分からなかった。

 洞窟の中を明るく感じたのは、てっきりアイテムが光り輝いているからとばかり思っていたのだ。

 しかし、どうやらそうではないらしい。

 京一は、自分が何をしでかしたのか、よく分かっていなかった。

 分かっているのは、お父さんにお守りを届けに行ったことだけだ。

 走った先に父が居たのでお守りを握らせた。

 しかし父はもうすべて終わったと言った。

 終わったというからには、父が全てを上手くやって、省吾を助け出したに違いない。

 まだ幼い京一は上手く言葉に現すことは出来なかったが、気持ち的にはそういう事だったろう。

 首尾よく省吾を助け出した父を、京一は誇らしく思った。

 しかし、実態は全く違うことを京一は自覚していなかった。

「皆さん、京一の事も、皆には黙っておいて貰えませんか?この子には普通の生活をさせてやりたいんです。珍奇なものでも見るような目で見られたら可哀想なので。」

 京一の頭に手を置きながら、流はそう言って二人に頭を下げた。

「ああ、構わんよ。前山さんにはワシの方から言っておこう。アイツからしたらあんたは恩人じゃし、心配なかろうて。」

 源さんは自信あり気に言った。

「京一、お前に何が起きようと、お前への扱い変わらねえからな!」

 三太はそう言いながら鼻を擦った。

「わかってるよ!」

 京一は、そう言って同じように鼻を擦った。

 村に帰ったら、奥さんと相談しなけりゃならないな。

 流は一同と村へ戻りながら、そう考えていた。

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