59.お守り
アイテムの輝きはどんどん強くなっていった。
その眩しさは、周囲を明るく照らした。
3人は思わず振り返る。
「京一!お前いったいどうしたんだよ!」
三太は驚きを隠せなかった。
「眩しくて目を開けてられんわい!」
源さんは思わず目を覆った。
京一を見ようとしても、眩しくて見るのが難しい。
光は京一の身体全体を包み込むように輝いていた。
「みんな、待ってて!僕、お父さんにお守りを届けてくる!」
そう言って、京一は洞窟に向かって走り出す。
その姿には一切の迷いも無かった。
「バカ!やめろ!お前が行って何になる!」
三太はそう言って、京一を制止しようとするが、あまりにも眩しいので、京一を捉えることができなかった。
みんなを振り切って京一は走る。
しめ縄を潜り、父を目指して無我夢中だった。
「おとーさーん!」
京一は叫びながら父を探す。
洞窟の内部は薄暗いはずなのに、何故か周囲はハッキリ見えた。
黒いものの干渉も感じない。
突き当りまではずっと真っ直ぐだ。
アイテムを両手で握りしめ、京一は走った。
洞窟の奥では、地面から出てきた手に、流は身動きが取れない状態だった。
足を必死に動かすが、手は足首を掴んで離れない。
何度も祝詞を唱えるが効果はない。
省吾を抱えているので、両手は塞がったままだし、地面に置くわけにも行かない。
もしかしたら無数の手が出て、省吾を連れ去ってしまうかもしれない。それだけは絶対ダメだ。
疲労困憊して動きを止めたとき、何やら声が聞こえた。
それも一つだけではない。
複数の声が、あちらこちらから聞こえてくる。
「うわー、やめろ!」
「くるな!近寄るな!」
「入ってくるな!」
「ああっ!」
「ギャー!」
様々な悲鳴と叫びが、まるで阿鼻叫喚のように聞こえてくる。
通路が曲がったその先で、一体何が起きているのか。
流には見当も付かなかった。
ただ、薄っすらと光が見えた。
その光はどんどん強くなってくる。
移動してこちらに近付いてくるようだ。
そうして、やはりあちらこちらから、悲鳴とも嘆きともつかない、阿鼻叫喚の声が響いていた。
何が近づいているのか。
それはわからないが、確実に近づいていた。
京一は無我夢中だった。
流には聞こえていた阿鼻叫喚の渦も、京一の耳には入らない。
自分が光っている自覚さえ無かった。
その光が洞窟に蠢いている邪な存在を、片っ端から浄化しているなどと思うべくもない。
とにかくお守りをお父さんに届けよう。
思いはそれだけだった。
目指す先はあと少し。
「おとーさーーん!」
京一は、思いっきり声を出して、もう一度叫んだ。
流の足首をガッチリと掴んでいる手は、緩まる気配を見せなかった。
何度ももがいて疲れ果てたその時、また声が聞こえた。
間違いない。京一の声だ。
流は自分の窮状どころではなくなった。
息子には、外で待ってろと言ったはずだ。
普段は聞き分けのいい子なのに、こんな時に限って…。
もし京一に何かあったら…そう思うと流は気が気ではなかった。
「きょういちー!戻れー!!」
流はあらん限りの声を出して叫んだ。
しかし我が息子の耳には自分の声は聞こえないようだ。何度も自分を呼びかける声ばかりが小さく木霊する。
その時、向こう側の方から風が吹いてきた。
入るときには息が詰まるような感じだったのに、その風はなんと清々しいことか。
まるで森に吹く風のようだ。
息苦しさが一気に解消して、深呼吸をする。
開放感が溢れ出す。
足元を見ると、足首を掴んでいた手はボロボロと崩れつつあった。
強引に引き抜いて一歩を踏み出す。
その次はもう片方だ。
開放された足で走りだそうとするが、長時間もがいて強張った筋肉は、いきなり走り出すことを許してくれない。
「きょういちーー!」
来るなという意味を込めて思いっきり叫ぶ。
「おとーさーん!」
今はもうはっきりと聞こえる。
自分を呼ぶ息子の声だ。
足音はもうそこまで近付いていた。
しかし、何やら強い光が岩肌に照らされて反射していた。
そんな強い光を出す懐中電灯は持ってきてないはずだが。
流はそう思いながら足を踏み出そうとした。
ゆっくりとなら進めそうだ。
一歩また一歩と、曲がり角を目指して進んでいく。
そこに、いきなり眩しい光が差し込んできた。
薄暗い場所にいて瞳孔が開いていたので目を開けていられない。
思わず目を瞑る。
「おとーさーん!」
間近に息子の声が聞こえてきて、抱きついてきた衝撃に思わず倒れそうになる。
目を開けると、京一が抱きついていた。
「京一…お前…」
流は京一を呆然と見やる。
京一の身体全体が薄っすらと光っていたからだ。
「ここまで一人で来たのか?」
信じられないものを見たという目で流は京一に問いかける。
「うん。お父さんにこれ…渡そうと思って。いつの間にかポケットに入ってたんだ。」
京一はそう言って、流に懐中時計のようなアイテムを手に握らせた。
「いつもこれ、持ってるでしょ?無いと困ると思ったから…。」
仄かに光ってる京一をみて、流は事情を理解した。
「バカヤロウ。危ないから入ってくるなって言ったじゃないか。でも…ありがとうな。」
そう言った声は、少し湿っていた。
そして省吾を左腕だけで抱き直し、残った右腕で京一を抱きしめた。
「さあ、もう出よう。」
京一に言って、ゆっくりと歩き出した。
「もう終わったの?」
この子は何も自覚してないのか。
流はそう思いつつ言った。
「ああ、もう終わったよ。
全部終わったんだ。」
そう言った流は、我が息子の底しれなさを感じつつ、すっかり終わったことを実感した。
洞穴の空気はすっかり変わっていた。
禍々しい気配も、もう感じない。
この子がすっかり変えてしまったのだ。
それを認めざるを得なかった。
出口を目指して歩いてる途中で、流は気づいたことがあった。
洞窟の雰囲気がすっかり変わってしまっていたのだ。
禍々しい雰囲気は、もうそこには全くない。
邪なものの存在の気配はすっかり消えていた。
近いうち、村の人々と協議して、封印は解かれることになるだろう。
そして、この子のこれからの事も考えなければ、と流は思った。




