山原の手記
――以下、連続性的暴行事件主犯、山原麻陽の獄中手記より引用
僕は六人の女性を殺害し、十年にわたって計六十八人の女性に対し性的暴行を加え勾留されている、一人の死刑囚である。
僕の母は、売春婦だった。
客との間に望まぬ子である僕を作った。
僕が物心つく前から、家には男の出入りが絶えなかった。母は僕に彼らを父と呼べと命じたことがあったが、そのうちの誰とも長続きしなかった。僕が父と呼んだ男は何人もいる。その男たちは僕に目もくれず、母の体を欲しがった。母の目を盗んで僕のことを蹴り飛ばした男もいたし、男にしては可愛い顔だなと言って、僕を無理やり犯した男もいた。
母はそのうち、夢中になった男に勧誘されてとある宗教に入信した。子供の僕は知らなかったが、後から調べると、それは有名なカルト宗教だった。
幸か不幸か、母には悪質な商売の才能があった。
魂啓会は、母がカルト宗教に金を積むために始めたビジネスだった。母は金を積めば因果が清算されるという教祖の言葉を信じ、お布施のためにタロットや霊視、先祖の声を騙り、信者を洗脳した。それが母の生き方になった。そして、徐々に魂啓会は、そのカルト宗教の傘下のような団体へと成り下がっていった。
気付けば僕も、その輪の中に取り込まれていた。僕は宗教二世として生きていくことになった。
子どもである僕に、母は最初から最後まで興味がなかった。母が興味を示すのは男だけだった。母は何度も整形と再婚を繰り返し、愛人を作り、女としての自分にしがみついていた。
母はいくつになっても、みっともなく子宮に支配された獣だった。
男の目を引くために着飾り、恋愛で不安定になっては宗教に金を貢ぎ救いを求め、自分の作った団体で信者を騙し、欲望と信仰の中で腐っていった。熟しすぎた果実のように、鼻がねじれるほどの臭い匂いがした。
僕は幼い頃から、母の信仰心に尽くし続けた。
犯罪に手を染めてでも、母の作った魂啓会に尽くした。
女を選別して、操作して、依存させ、搾り取るやり方を覚えた。幸いにも僕は顔が良かったし、それなりに頭も良かった。ある種の嗅覚も鋭かった。女が望む言葉を先回りして与えることができた。その女の特性、大事にしているもの、嗜好、思考の癖、トラウマ、無意識に避けている話題も、少し関わればすぐに分かるようになった。
成人する前からホストクラブで働き、母の元に金蔓となりそうな女を送り続けた。
裏切り者への制裁にレイプという手法を選んだのは、それが最も女にとってダメージを与えられると判断したからだった。もっと言えば、惨めな女という生き物が壊れていくのを見るのは心地が良かったからだった。
僕はホストを辞めた後、一人の女性に本気で惚れた。結婚の話も出ていた。
けれどその人は、僕がカルト宗教に関わっているという理由で僕を捨てた。当然だ。結婚すれば自分の子も自動的に僕の宗教に入ることになってしまう。自由が奪われる。僕の惚れた女は、僕が惚れただけあって賢明だった。
どれだけ説得しても無駄だった。彼女は僕の元から離れて、普通の男と結婚した。
僕は自暴自棄になった。何もかもを母のせいにした。
あの人がいなければ、こんな人生にはならなかった。あの人さえいなければ、僕の人生はもっと真っ当だった。そう気付いてしまった。
母を殺した。
母への怒りと嫌悪を表現するのに言葉では足りなくて、手が出た。
包丁で何度も刺した。喉を絞めた。母の目が見開かれ、やがて動かなくなった。
僕は母の体をバラバラに切断してゴミ袋に詰め、その日の朝に食べた卵の殻が入った生ゴミと一緒に処理場のコンテナに捨てた。
罪悪感はなかった。むしろ、やっと自由になれた気がした。
僕は母の死後も、母に代わって魂啓会を管理し続けた。
母の残した教義は、僕の中に根を張っていた。それが母の遺産であり、呪いだった。あらゆる人間を依存させ、救ってやるふりをして飼いならす。僕は人を騙してその人生を潰す以外の生き方を知らない。何故なら教わらなかったからだ。
母の死の事実は隠した。母の代行人として振る舞った。数年経っても、すでに母がいないことに誰も気付かなかった。僕は上手くやれていた。
ある日一人の女が僕に依存した。アプリで勧誘した、おそらく知的に遅れがある女だった。珍しくもない。そういう女は夜職に誘導しやすく都合が良かった。
一度は逃げられてしまったが、その女はまた僕に会いに来た。愚かな彼女は、僕から離れられないようだった。久しぶりに彼女と会った僕は、彼女の肌に明らかに性病の症状が出ているのに気付いた。
梅毒は、江戸時代の遊女の間で流行した病気らしい。晩期患者の人骨も、遊郭跡から出土している。当時は抗生物質がなく、遊女たちはこの病気のおかげで悲惨な末路を辿ったそうだ。
そんな売春婦の成れの果てを見てみたかった。
だから彼女を部屋に閉じ込め、医療は敵だと洗脳して放置した。
日に日に彼女の状態は悪くなった。健康的だったはずの身体が腐っていく。それを見て僕は、どうしようもなく安堵した。
やはり売春婦は醜悪だ。女なんて生き物は死んで当然の下劣な生き物である。
彼女が惨めに死んでいくのを確信した僕は、彼女を捨てた。この時も、僕に罪悪感はなかった。今もそのようなものは感じていない。
ただ、獄中にいる今も、痩せ細った母の声が聞こえる気がする。
僕のことを笑っている。許していない。僕のことを蔑んでいる。
僕は己の手で殺してもなお、母を愛しているのだろう。




