愛人の息子からの情報
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後日、兎衣は、元客から得た情報を元に、魂啓会の代表の元愛人の息子という人物と接触することにした。それをラーメン屋で誠に伝えてしまったせいで、誠も付いてくることになった。何だかんだ誠も魂啓会のことが気になるのかもしれない。
すすきのの一角、ビルの奥まった階段を上がった先にある、重い木の扉のバーの中。
兎衣は背筋を伸ばしてそのカウンターに腰かけた。誠もその横に座った。いつも通りの仏頂面で、グラスの水滴を指でなぞっていた。
店の奥から姿を現したのは、兎衣より年上、三十代ほどの青年だった。
「やあ、どーもどーも! 君が魂啓会について探ってるっていう女の子? Onlyの子でしょ。今度遊びに行くね~」
男――圭人と名乗ったバーテンダーは、カウンターの向こうで陽気に歯を見せて笑った。そして、グラスにカクテルを注いだ後、すっと兎衣に手の平を差し出す。
情報が欲しければ金を差し出せ、という手だ。兎衣が渋々小さなバッグから財布を取り出そうとした時、誠が横から圭人を彼に握らせた。
圭人は満足そうに頷き、グラスを兎衣と誠に渡して語りだす。
「魂啓会っていう団体はね、信者搾取ビジネスの最前線だよ。占い、カウンセリング、霊視……入り口は何でもあり。信用を得た後で不安を煽って、これを買えば救われる~とか言って、法外な値段で商品を買わせるスタイル。霊感商法ってやつ。大量の金が入るから稼いでる側は得するけどね。かく言うおれも、親父が魂啓会と関わってたおかげで不自由しなかったよ」
誠がわずかに眉を動かす。表情にうっすらとした怒気が滲んでいた。
妹が陥れられた団体の元関係者。魂啓会のおかげでうまい思いをしていた人物だ。やはり会わせない方がよかったかもしれない、と兎衣は内心ハラハラしたが、誠がその怒りを露わにすることはないまま、圭人の話が続く。
「特にすすきののホスト業界と繋がりが強くて、ホストに斡旋させて若い女の子の信者を増やしてるって感じ。その斡旋するホストの中にもどっぷり依存してる信者が多いから面白いよね」
「天音いぶきって名前のホストが今何してるか、心当たりありませんか?」
ホストの話題が出てきたので、兎衣は天音のことを問いかけた。
すると、圭人は眉をわずかに上げ、口の端を緩める。
「ああ、女代表の息子でしょ。俺と同い年くらいの。子供の時見たことあるよ。気味悪い奴だよね」
圭人はちらりと他のバーテンダーを盗み見た後、勤務中にもかかわらずこっそりと手元のグラスに口を付けた。
「今何してるかって、そりゃまだ魂啓会の内部にいるんじゃない? ホストの仕事はやめただけで。魂啓会も当時より大きくなってるから、ホスト業界から無理に客引っ張ってくる必要ないし。むしろ一時期警察の捜査が入ったから、新規は断ってるって話じゃなかったかな。……ああ、でも、親父がまだ魂啓会と関わってた時に、あいつのよくない噂なら聞いたな」
兎衣がぐっと身を乗り出した。その瞬間、圭人はにこりと笑い、手のひらをこちらに無言で差し出す。金の請求だ。表情は笑顔でも、その奥に潜む意図は明らかだった。
兎衣はその手を見つめ、再びバッグに手を伸ばす。
「俺が払う」
隣で黙っていた誠が、低くそう言ってカウンターに札を置いた。万札が二枚。圭人は視線をちらりと向けて、「さすが、年上はスマートだね」と軽口をたたく。
「すみません……」と兎衣が小声で謝ると、誠は「いい。俺も知りたい情報だ」と言い切った。
「天音いぶき、魂啓会と関わりを絶とうとした女の子がいたら、粛清として集団レイプしてたって噂がある。あと、もう金払えないって逃げた子の取り立てとかもしてたってさ~」
語尾を濁すことなく、圭人は世間話でもするかのように続けた。その軽い口調に、兎衣は無意識に眉をしかめる。
――何が、粛清だ。圭人の言葉が耳に入るたびに、兎衣の胃の奥がきゅっと痛んだ。
「それって、この事件と関係あると思いますか?」
兎衣は一枚の切れ端を鞄から取り出した。古びた新聞の断片。そこには『札幌で複数人による連続性的暴行事件』と太字の見出しが印刷されている。サクラが巻き込まれたとされる、忌まわしい事件だ。
「ああ、それそれ。それだよ」
圭人は思い出したように指を鳴らした。
「最初はこっそり済ませるつもりだったみたいだけど、思いの外ニュースになっちゃったからさ。それからは、時期も場所もずらしてやるようになったって聞いたよ。今なんて、まったく話題にならないだろ?」
兎衣は息を飲む。まるでその粛清が、話題にならないだけで今も続いているかのような言い方だ。
「てか、ここに書いてる犯人たちが付けてた仮面ってさあ、夏祭りで買ったやつらしいんだよ」
そう言って圭人は、くつくつと笑い出した。
「ウケるよね。夏祭りで買ったお面で顔隠すなよな」
その声は、まるで冗談を言っているかのようだった。
――笑えない。
兎衣は目を伏せ、口を引き結ぶ。拳を握る手が震えていた。許せない。ふざけている。サクラも誠の妹も、おそらくその被害者だ。どれだけの人が、どれだけの少女が、その〝粛清〟とやらの被害者になったのか。想像もつかない。
向かいの圭人は笑い続けている。軽く無邪気に。
横にいた誠はグラスの氷を無言で回していた。彼の横顔にもまた、笑顔はなかった。




