噂話
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「ああ、そこ、うちにもパンフレット持ってきたことあるよ。魂啓会だろ? 何年か前、勧誘激しかったよ。でも最近は来ないな。だんだん大きくなって、今は既に会員の奴らから十分金取れてるから、新規の人は受け付けてないって噂あるよ」
馴染みのバーテンダーは苦笑して、カウンター越しにカクテルを注いだ。
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「え、そこ、まじでヤバいとこじゃん。うちの店に昔いた子がさ、そこの占いにハマっちゃって、突然辞めるって言って来なくなったの。途中で目が覚めたのか、その子が浄化のサブスク? みたいなのを解約しようとしたら、家の前に仮面被った男が大勢来てドア叩いてきたって……いや、ほんとだからこれ、話盛ってるわけじゃないから」
シャンパン片手に話してくれたのは、何年経っても見た目が変わらない、年齢不詳のキャバ嬢だった。
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「このビル、昔はスカーレットっていうメンズコンカフェが入ってたんだけど、潰れちゃってね。あそこは一時期、女の子の出入り激しかったわよ。高校生っぽい子も何人かいたって噂だったわね。あんまりいい噂聞かなかったけどねえ。何でも、お客さんに占い薦めて、その占い師から高額バックもらってたとかで」
老舗スナックの濃い化粧のママは、話しながら哀れみを湛えていた。
情報収集をしていた兎衣は手帳を閉じ、深く息を吐いた。色んな人に話を聞いてみて、断片的ながらも確かに見えてきた。
女性たちを騙し、搾取していた怪しい団体である魂啓会の影が、至る所に。
深夜二時。
冷気の染みる空気の中、兎衣はスナックのカウンターにいた。客足もまばらな時間帯で、店内には爆睡中の酔っ払いだけが残っている。
隣の席には、畠山、源氏名はるとマッスルがいる。兎衣からの連絡に応じて、マッチョバーの退勤後に待ち合わせてくれた。
「多分その事件に関わってる奴、当時はこの辺りじゃ一番稼いでたホストだよ」
畠山は灰皿にタバコを押し付けながら言う。
「俺が最後に話した時の源氏名は天音いぶきだった。今は消息不明だけど、すすきのじゃ知らない奴いないくらい有名だった。マジで売れてたけど、裏で占いの団体に女の子流してたって噂あったなあ」
「……占いの団体って、魂啓会とかって名前の?」
兎衣が、母親からもらったパンフレットの団体名を口に出すと、畠山は一瞬、目を見開いた。
「それそれ。てか兎衣、何で知ってんの?」
「色々あって今魂啓会のこと調べてるんだよね。その天音いぶきって人、どっかで会えたりしない?」
「うーん……本人の噂は最近聞かねーけど。もうすすきのにいないんじゃね?……あー、そういや、俺のダチの父親が昔、魂啓会の代表役員の愛人やってたって自慢してたな。その女代表の息子が天音いぶきって話だったような」
「ええっ!? そのお友達の父親の連絡先、知らない?」
兎衣は思わず身を乗り出す。畠山は困ったように首の裏を掻く仕草をした。
「さすがにしらね~。あ、でも、俺のダチの方ならたしか、今はエトワールってバーにいるんじゃなかったかな……」
兎衣はスマホのメモに即座に打ち込んだ。
「ありがとう、助かった!」
「お礼なら今度店来て酒入れてな」
「そんなお金ない!」
「まだ貧乏やってんのかよ」
畠山はケラケラとおかしそうに笑った。
そして、急に真顔に戻り、少し心配そうに聞いてくる。
「何でこんなこと調べてんの?」
兎衣は畠山に、これまでのことを話した。
畠山は納得がいかなかったのか、訝しげな顔をした。
「……じゃあ兎衣は、自分を襲った女のために犯人探してる、ってわけか」
「きっかけはそうだったよ」
「相変わらず意味分かんね~」
呆れたように呟いた畠山は、新しい煙草に火をつけ、兎衣に警告してきた。
「冗談抜きで気をつけろよ。店に来る女の子からちらっと噂聞いたことあんだけど、魂啓会のやってること、多分マジで洗脳に近いから。女の子、結構潰されてる。兎衣みたいな若くて馬鹿そうな女なんて格好の餌だし、近付かない方がいいんじゃね」
「馬鹿そうって何!?」
「賢くは見えないだろうよ」
少しショックを受けながら、兎衣は手元のメモに視線を落とした。
魂啓会。
天音いぶき。
愛人だった男が働いているというバー・エトワール。
核心に近付いているような気がする。
このまま少しずつ色々な人から情報を集めれば、いつかはあの団体の悪行を表に晒せる日が来るかもしれない。




