調査開始
そこで兎衣は、いいことを思い付いて手を叩いた。
「あの、どうせ皆で行くなら、もう一人私の同級生を連れてきてもいいですか?」
それを聞いた誠がちらりと鷹中に視線を送り、からかうような笑みを浮かべた。
「お前、年下と相性悪いだろ。学生時代も後輩に苦手意識持たれてたもんな。いいのか?」
その一言に、鷹中の眉がぴくりと動く。
「別に……コミュニケーションが取れないわけじゃない」
むきになったような言い方だった。
兎衣は少し笑いを堪えながら、「じゃあ決まりですね!」と上機嫌でスマホを取り出す。
画面をタップしながら、千香子のリアクションを想像して頬が緩んだ。
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誠たちと雪まつりに行く約束をしてから一週間。
冬休みが明けたばかりの寒空の下、郵便受けに一通の手紙が届いていた。
差出人の名前を見た瞬間、兎衣の指がぴたりと止まる。
田山桜子――刑務所からの返信だった。年末に兎衣が送った手紙への返事が来たのである。
封筒をそっと開き、室内に戻って暖房の前に座り込むと、兎衣は一枚の便箋に綴られたサクラの文字を静かに読み始めた。
内容は、重かった。
サクラは、兎衣が手紙で聞いた事件当時のことを淡々と綴っていた。
同じ高校で、彼女だけでなく、他にも複数の女子生徒が被害にあっていたこと。
警察に言っても犯人を突き止められなかったこと。
結局ろくに調べられないまま、全てが風化していったこと。
犯人は当時頻発していた連続性的暴行事件の犯人のように仮面をつけていたかどうかという兎衣の問いには、『男の顔はお面で隠されていた』とあった。
そして便箋の最後には、こう綴られていた。
『本当に調べてくれるんだね。ありがとう、兎衣ちゃん』
手紙を送るにあたって差出人を書かなければならないので、兎衣は自分の本名を書いた。兎衣の源氏名しか知らなかったサクラも、今では兎衣のことを本物の名前で呼んでいる。
兎衣は便箋をそっと畳み、立ち上がって机の引き出しを開けた。
そこにあるのは、事件当時の記事のコピー、関係者のメモ、そして、まだ白紙の取材ノート。
これらを集めて、警察に提出する。
正直、こんなことをして捜査を打ち切ったという警察がどこまで取り合ってくれるか分からないが、これ以上被害の連鎖が続かないように、できる限りのことはしようと思っている。
その時、兎衣のスマホが鳴った。誠からのメッセージだった。
『来週、集合場所は大通駅で。あいつにも伝えてくれ』
誠はどうやら鷹中をブロックしているらしく、最近は兎衣が二人の間を繋ぐ伝書鳩のような役割を担っている。
自分で連絡すればいいのにと思いながらも、『分かりました』と返し、ついでにもう一件、駄目元でメッセージを送った。
『あと、明日北星高校に行くんですけど、誠先生も行きませんか?』
しばらく既読がつかなかったので、一旦スマホを置く。
返信が来たのは数分後だった。
『何で高校?』
『サクラさんを襲った犯人の手がかりを探しに行くんです』
また間があく。
『お前、まだそのこと調べてたのか。変なことに首突っ込むな』
『でも、頼まれちゃったんで』
『犯罪者の言うことに耳貸すなよ』
『サクラさんは理由があって犯罪者になったんですよ』
返事はなかった。
さすがに呆れられているかもしれないと兎衣が不安になり始めた、その時。
スマホが震え、着信が表示される。
誠の名前だった。
「……はい、もしもし?」
『明日、何時だ? 俺も行く』
電話越しに聞こえる低い声。おそらくだが、また変なことに巻き込まれるかもしれないと心配してくれているのだろう。
兎衣は少し嬉しくなり、声を弾ませる。
「はいっ、じゃあ、夕方五時に札駅の謎の白いオブジェの前でお願いします!」
元気よく返事をすると、電話の向こうの誠は一言だけ、『了解』とだけ言って、通話を切った。
兎衣はスマホを胸元でぎゅっと抱きしめる。明日が楽しみになった。




