パフェでの再会
しかし誠には全く効いていないようだ。
「いや、お前に言われたくねぇんだけど……。お前もこんな時間にパフェ食いに来てるだろ」
確かに、こんな時間に優雅にパフェの店に来ているのは鷹中も同じである。しかも、ガールズバーのキャストを連れて。
鷹中はテーブルの下で足を組み直し、すかさず誠に反論した。
「これは情報収集だ。この子に誠が今何をしているのか聞いていた」
明らかに敵意を隠さないその態度に、誠の表情がわずかに陰る。
「……探るようなことすんのやめろよ。俺が今何してようが、お前には関係ないだろ」
誠はそれだけ言って、店員に小さく声をかけると、奥のカウンター席へと向かう。
誠は、すれ違う際ほんの少しだけ兎衣の方に視線を向けたが、特に何も声をかけてくることなく立ち去っていく。
兎衣は少しむっとした。
(久しぶりに会ったのに、私への挨拶一個もなし!?)
あまりにも冷たい。不服だが、一応アフターの真っ最中だというのに他の男に声をかけにいくことには抵抗がある。兎衣は、誠に絡みに行きたい気持ちをぐっと堪えて、パフェにスプーンをさした。
先程の会話からして、鷹中と誠が旧知の仲であることは事実のようだ。
誠の背中をちらちら気にしながら、兎衣は目の前の鷹中に顔を近付け、小声で尋ねる。
「……あの、誠先生と喧嘩でもしてるんですか?」
鷹中は鼻で笑った。
「喧嘩? そもそも俺とあいつは友達じゃない」
「ええ? でも」
「大学で出席番号が前後だった。だからあらゆる実習で強制的に一緒だった腐れ縁。それだけだ」
鷹中はそう言って、グラスの中の氷を見つめる。どこか遠くを見るような目だった。
兎衣はスプーンを口元に運びながら、そっと鷹中の横顔を窺った。険しい眉、への字に結ばれた口。機嫌が悪いのは見てとれるが――それ以上に、誠のことを、ものすごく気にしているようにも見えた。
(友達だったけど、今は気まずいってこと?)
口には出さなかったが、胸の中でそんな疑問が浮かんでは消える。誠の背中と、鷹中の表情を交互に見ているうちに、どうにかしてこの空気を変えたい気持ちがむくむくと湧いてくる。
パフェのグラスを空にし、最後のクリームをぺろりとすくって食べた後、兎衣は明るく声を張り上げた。
「誠先生~! やっぱり雪まつり行きましょうよ! この人も一緒に!」
思わず店内の数人がこちらを振り向くほどの声量だった。
「……は?」
鷹中がぴくりと反応する。
「は……?」
一拍遅れて、今度は誠の方が驚いたように振り返る。
「年に一度のお祭りですよ。行かないなんて勿体ないです!」
兎衣は椅子から身を乗り出すようにして、両手をテーブルにつきながら二人を見つめた。
誠は手にしたスマホを一旦伏せ、カウンター席から兎衣を見つめて呆れた声を出した。まだ諦めてなかったのか、と言いたげに。
「寒いって言っただろ」
「寒い寒いって何ですか! 寒いのなんて祭りの雰囲気で忘れちゃいますよ!……それとも、歳ですか?」
「……あ?」
「分かったぁ~誠先生、もう歳だから寒い中歩く気力もないんですね? まあそれなら仕方ないですね。二十歳の私と誠先生じゃ若さが違うのかもしれないです~いやあ、私はまだまだ体力あるからな~」
分かりやすい挑発だ。しかし十分に効果はあったようで、誠の眉がぴくりと動く。どうやらおじさん扱いが効くらしい。
兎衣はすかさず、隣にいる鷹中にも目を向けた。
「鷹中さんも行きたいですよね? 年に一度しかないですよ?」
「……は? 俺は別に――」
「鷹中さんも行きたいそうです! 誠先生、行きましょう!」
鷹中が愕然としている。これほど強引な人間を初めて見た、という顔だ。
兎衣は話を合わせてもらうため、こそっと鷹中に耳打ちする。
「今の誠先生のこと知りたいんですよね? 直接知れるように、今捕まえた方がいいですよ。連絡取れないんでしょう?」
さっきの会話からして、鷹中は誠と連絡を取れるような状態ではないのだろう。それでも誠のことを知りたがっていて、わざわざ兎衣をアフターに誘ってまで情報を得ようとしている。多分何か――ワケありだ。
鷹中は一瞬考えるように沈黙した後、誠の方を向いて言った。
「誠。行くぞ」
誠の視線がじわりと鷹中に向く。何か企んでるだろと言いたげに、あからさまに眉をひそめている。
「……何だお前、急に意見変えて。そういうイベントは嫁さんと行った方がいいんじゃねぇの」
「嫁は妊娠中だ。浮かれたイベントになんて連れていけない」
その会話に、兎衣は思わず声を上げた。
「鷹中さんって、本当にご結婚されてるんですか!? そんなに無愛想なのに!?」
鷹中の鋭い視線が兎衣に突き刺さる。
「……失礼だな」
低い声と共にぐっと睨みつけられ、はっとして口を閉ざす。
つい正直な意見が口から漏れてしまった。だって、初対面の女に笑顔一つ作れない男が妻帯者のようには思えなかったから。
その時、ふっと誠が笑った。
「お前、相変わらずバカ正直だな。こいつが妻帯者に見えないのは、分かるけど」
呆れたような、でもどこか優しげな表情だった。
馬鹿にされているとはいえ、今日、初めてちゃんと話しかけてもらえた気がする。それが嬉しい。
「何だと?」と誠を睨む鷹中の横で、兎衣は食いついた。
「誠先生、来てくれますよね!? 最近全然、会えてないじゃないですか! 私、寂しかったです! 千香子も寂しがってます!」
脳内で、あたしを勝手に巻き込まないでよ、と言う千香子が浮かぶ。
誠は軽く頭をかいた後、
「分かったよ。そこまで言うなら、行く」
と、渋々といった感じで言った。
「ほんとですか!? やったぁ!」
椅子から立ち上がりそうな勢いで身を乗り出して喜ぶと、誠はやれやれと苦笑していた。




