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すすきの性病専門クリニックのワケあり医師とバニーちゃん  作者: 淡雪みさ
FILE1 手に入らないもの

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16/52

別れ


 :



 時計の針が十九時を指した頃、紗季は帰っていった。お土産に子供の人数分のマトリョーシカを買っていったが、細川の分は何も買っていなかったのが印象的だった。


「……完全に無駄足だったな」


 雑踏の中に飲まれていく紗季の背中を見つめながら、誠がぽつりと言った。


 兎衣も苦笑しながら返す。


「検査してるって分かっただけでよかったですよ。放置することになるかもってところが一番怖かったんですし」


 細川への報告は後でもいいだろう。彼にはまだ、もう少し怯えていてほしい。


 イルミネーションのトンネルを抜けると、光は急に減って、街の輪郭がはっきりした。

 信号の青、コンビニの白、車のテールランプの赤。

 いつもの夜が戻ってくる。


「私この後すすきので予定あるんで、ここで失礼しますね」


 今日の兎衣には、この後用事があった。

 誠は足を止め、少し訝しげな顔をする。


「お前、日曜には滅多にシフト入れないって言ってなかったか?」

「あ、バイトじゃなくて。友達と飲みに行く予定があるんです」


 兎衣は誇らしげに顔をほころばせて言った。


「バー・ピトンってところで~。夜景が満喫できる本格バーらしいんですよぉ」


 兎衣もサクラに誘われて初めて知ったので行ったことはないが、カウンター越しにすすきのの夜景が望めるショットバーとして知られ、上質なカクテルを求める客に人気の高額な店らしい。今回は、サクラが奢ってくれるという。

 少し大人っぽい雰囲気の店なので自慢したくて名前を出した。が、誠の反応は「ああ、あそこか」というあっさりしたものだった。


「えっ、行ったことあるんですか!?」

「有名だ。女を口説く時に行く」

「うわっ、不潔! 近付かないでください!」


 ズザザッと後ずさった兎衣は、冗談っぽく軽く手を振った。


「じゃあ、今まで本当にありがとうございました。誠先生連れ回すの、純粋にちょっと楽しかったです!」


 誠は少しだけ口角を上げて返してくる。


「俺も。マッスルバーなんて、お前に誘われないと一生行ってなかっただろうな」


 最後は軽く手を振り合って別れた。



 誠とはもう、会うことはないだろう。

 元々紗季を病院に連れて行くためにタッグを組んだだけの関係だ。


 でもいつか、またどこかですれ違ったら、挨拶だけはしてやろうと思った。





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