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すすきの性病専門クリニックのワケあり医師とバニーちゃん  作者: 淡雪みさ
FILE1 手に入らないもの

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14/52

フェードアウト



 ハナとはあれから、頻繁に連絡を取り合っている。

 兎衣の方からハナに積極的に話しかけ、バイト終わりも一緒に帰るようにしている。ハナは、いつも通りだ。でも、ほんの少しだけ、無理をしているようにも感じられる。

 ハナから事件の話題が出ることはない。それでも何かあった時に話しやすい関係を築きたいと思っての行動だった。おかげで、以前よりも気軽にメッセージのやり取りを繰り返せる仲になった。


 ハナからのメッセージに指を伸ばしかけたその時――「ただいま」と柔らかな声がして、サクラがトイレから戻ってきた。


「お客さん?」


 兎衣が誰かとのDM画面を開いていることに気付いたのか、気遣うように聞いてくる。


「いえ、友達です」


 遊んでいる最中に他の人とやり取りするのも忍びなく、兎衣はスマホの画面を伏せて、笑顔で立ち上がった。


「ふうん……仲良い子?」

「前からよく喋る子ではあったんですけど、最近はもっと仲良くなりました」

「素敵。何かきっかけでもあったの?」


 サクラが小首を傾げる。そんな仕草すらも綺麗だ。美人は一挙手一投足が美しい。

 兎衣はなんと説明しようか迷った後、ぼかして伝える。


「その子、落ち込むような出来事があって自暴自棄になってるみたいだったんで、私が見ていてあげたいなって思ったんです。ほら、落ち込んでる時、一人にするのが一番よくないって言いますし。そうやってしつこく話しかけてるうちに、前より結構仲良くなれて」


 へへへと笑いながら言う。

 しつこくするのは兎衣の得意技だ。今回はそれが役に立った。


「いいわね。そうやって見てくれている友達がいるなんて、その子が羨ましい」


 サクラの声が、氷のように冷たかった。

 目の前のサクラがほんの一瞬、誰にも見せない素顔を見せたように感じて、兎衣はドキリとした。


「……サクラさんにもきっといますよ。サクラさん、親切だし優しいし綺麗だし、友達いっぱいいそうじゃないですか」


 サクラは目を伏せてふっと笑う。


「そう見えるなら、わたしの努力の賜物かもね」


 その笑みには、どこか皮肉めいた自嘲が混じっているように思えた。


 サクラはたまに、何を考えているのか分からない、掴みどころのない雰囲気がある。

 こういう妖しい色気が、キャバ嬢として人気店に勤めている魅力にも繋がっているのではないだろうか、と思った。



 夜、サクラと別れてからの帰り道。

 兎衣は手元のスマホを取り出し、InstagramのDMを確認した。


『また会いましょう。今度は、このバーでどう?』


 サクラから、よさげな雰囲気のバーのURLが送られてきている。

 兎衣はそれに返信する前に、ハナとのDM画面を開いた。さっきハナに返信できなかったので、今返そうと思ったのだ。

 すると、一時間前にハナから追加でメッセージが届いていた。


『あたしのこと騙してたの?』


 画面の文字を見つめ、兎衣は一瞬だけ首を傾げた。意味をはかりかねて「んん……?」と小さく呟き、返事に悩む。すると、タイミングよく再びハナからメッセージが届いた。


『もうあたしに関わらないで』


 画面に映し出された突き放すような言葉に心臓がドキリとした。

 急にどうしたのだろう。急いで返事を打とうとするが、その後送ったどんなメッセージにも、ハナからの既読はつかなかった。


 気付かないうちに何か気に触るようなことをしてしまったのかもしれない。

 兎衣はこういう時、うじうじと一人で悩める性質ではない。悩むよりまず先に行動したくなってしまう。ハナと店で一緒になった時に誠心誠意謝って、自分は何をしてしまったのかと直接聞いてしまおうと目論んだ。


 しかし――……その翌日から、ハナは店に来なくなってしまった。


 Onlyを辞めたらしく、店用のアカウントも消えていた。

 ハナとはいくら仲がよいとはいえ店を通しての関係で、ハナは兎衣の本名を知っているが、兎衣はハナの本名を知らない。

 アカウントを消されてしまっては連絡手段がなく、兎衣とハナとの短期間の友情は、それを機にフェードアウトしてしまった。



:



 クリスマス市初日。紗季との待ち合わせ時刻より早く着いた兎衣は、ずっとモヤモヤしていた。


「はぁぁあ~~~……」


 大通り駅二十番出口付近のベンチに座ったまま、兎衣は大袈裟に溜め息を吐く。


「はぁぁあ~~~……」


 ちらりと横の誠を見つめた後、間を置いて同じ溜め息を繰り返すと、横に座っている誠が眉をひそめる。


「……お前な、何だその分かりやすい悩んでますアピールは。話を聞いてほしいオーラが強すぎて逆に聞きたくねえ」

「いや、聞いてくださいよ! 悩める乙女が隣にいるんですよ!? 誠先生、モテないでしょ!」

「悪いがモテる」

「きぃぃ~~~!」


 兎衣は悔しがりながらも、新しくしたネイルを見つめながらぶつぶつと打ち明ける。


「この前の子が音信不通になっちゃったんですよお。しかも、最後のメッセージがなんか意味深で。何で怒らせちゃったのか私には検討もつかなくて~……」

「お前、鈍そうだもんな。知らず知らずのうちにデリカシーねえこと言ったんじゃねぇの」

「こういう時はいらんこと言わずにこっちの気持ちに寄り添うのが鉄則ですよ!? 誠先生、絶対対人業務向いてない!」


 誠に愚痴を言っても無駄な気がした兎衣は、また大きな溜め息を吐いて、正面に向き直った。前方の道路を車が流れていく。


 ハナが兎衣から離れたきっかけとして考えられるのは、やはりあの画像の投稿だ。しかし何度見返してみてもそこに映っているのはただのケーキや紅茶で、それ以外では正面に映ったサクラの一部しか載っていない。

 どうしてあんなことを言ったのか、詳しく聞く前にブロックされてしまったので聞く手段がない。




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