第3話:夢と泡①
10歳になったエラーは孤児で出会った少女、カーラや施設の人たちのお陰で楽しい人生を過ごせていた。
神父カロールと聖女サラスの2人に孤児院へ引き取られた、僕、元空井白斗ことエラーは、孤児院の他の子供たちと同じように7年過ごした。
(影で隠れて常に鍛え続けてきて、自分の持つ『マナ』も『スキル』の仕組みも完全に理解した。今を10歳だとすると、あと7、8年。意識を持ったのが3歳かは分からんから誤差はあるだろうが、大体間違いはないはずだ。)
僕が中庭の木陰でマナについて書かれた書物を読んでいると、眼の前が陰で暗くなった。見上げると、緑髪の少女が立って見つめている。
「エラーは今日もその指南書読んでるの?さすが、運動神経良いし、強いもんね。」
「別に勉強は常にしておいて損は無いよ。覚えたことでも何回も見直す。そうすると知識が定着して落ち着く。」
「そのくせ、普通の勉強はしないから成績悪いじゃん!カロールさんもよく言ってるじゃん!『強さだけじゃなくて、賢さも大事だよ』って。」
僕は実際、こっちの世界の学問、『望界学』をほとんど習得していない。そりゃそうだ、数学は√も+−も出てこないし、古文は読めない、理科に出てくる数字の単位も㍑とかと違う謎の単位だし、知らない歴史ばかり。やる気出ないよ。
少女は「しょうがないなー」と言いながら僕の隣に座る。
「私も鬼ごっこ疲れたから一緒に読ませてー。」
この少女は孤児院の仲間、というか家族のカーラ。僕の容姿は結局治らなくて、他の孤児とそこまで仲良くなれなかったのに、彼女は僕と仲良くしてくれている。不思議な子だ。
でもなんだかんだ、彼女のおかげで僕は人生の楽しさを実感した気がする。だからその恩返しに、仲良くしてくれるうちはしっかり関わるべきだ。
僕はいつも通り、早めにお風呂に入って夜ご飯を食べて、眠りにつく。隣のベッドで寝ている金髪のわんぱく少年、ウィスが話しかけてくる。
「なあなあエラー、明日こそはマナの使い方俺にも教えてくれよ!」
ウィスはこの王都ファルタスの治安維持のために結成された組織『王都警視隊』に入ることを目標にしていて、強さには貪欲らしい。毎日僕が読んでいる本の内容を聞いてきて、「お前が読めよ」と思っている。
「はぁ、仕方ないな。明日、夕方くらいに裏の丘で教えてやるから行くぞ。」
「キタコレ!楽しみにしてるぜ!」
毎日言われてると流石に疲れるので、遂に根負けした。
(明日は気分的にダラダラと教会で祈りでも捧げて時間つぶしたかったのに、オッケーしちまった。)
翌朝、起きて食堂に行くといつも通りカロールとサラス、その他の大人たちが前に立って、皆に朝食を配膳していた。
なんとなく決められた席に着いて、パンを口に運ぶ。異世界にもパンとか、ウインナーとか、目玉焼きとかの、日本の朝ごはんと言えばっていう食べ物があるだなんて、初めて見たときは驚いたっけ。
勿論和食は無いから米派の僕にとっては残念だが、それでも前世と大差ない食生活を送れてありがたみを感じている。
食後にカーラとウィスが後ろから飛びついてくる。その勢いで僕は前に転びかける。
「ねえエラー、一緒に中庭行こうよ!今日こそ本じゃなくて四つ葉探しするよ!」
(そうだった、昨日そんな約束したんだった。だるいなー、今日は外も天気良すぎて暑いし。)
半ば強制的に2人に連れられて中庭に出ると、僕は逃げるように木陰に入る。ウィスが僕を指さす。
「あー、相変わらず隠れてる。ずるいぞ、俺だって探すの手伝えって言われてるのに…。」
カーラがウィスと僕の頭をデコピンする。
「もー、暑いかもだけど、約束したんだからちゃんと探してよー!見つけたら幸せになれるんだよ!?探すしかないでしょ!」
(どの世界も四つ葉のクローバーは偉大なんだな。)
なんて考えながら、小学生以来の四つ葉のクローバー探しに没頭、意外と楽しかった。
結果1つ見つかって、押し花にしてカーラにあげた。
「私が貰って良かったの?見つけてくれたのエラーなのに。」
「別にこれ以上幸せにはなりたくないしな。バランスだ。」
ウィスは俺と肩を組んで言ってくる。
「つまり今がめっちゃ幸せってことか?良いこと言うなぁ!」
背中をバシバシ叩きやがって、でも実際そうだ。味わったことのない、「家族」というものをここで感じられてる気がする。僕は確かに満足していた。
「エラー、昼飯食ったら約束、覚えてるな?」
「分かってるよ、丘行くぞ。マナで遊んでるのバレたらカロールさんに怒られるからこっそりだぞ?」
「了解!」
そんなやり取りをして、俺達は勉強部屋に向かう。
ー平和な日常に生きる孤独少年は満たされていた。ー




