新たな時代の幕開け
次の日、楓さんに呼ばれて祝福の絆のクランハウスに行った。楓さんに会うなり梨々香が何か話しているのが見えた。梨々香が俺に気づいて振り返る。顔が少し赤い。
俺の所に来て楓さんが笑った。
「綾斗、話は聞いたわ。これからは息子のように扱うからね」
「お手柔らかにお願いします」
「まずはS級探索者ね。それからクランも大きくして、そうしたら支部も作って…」
楓さんの妄想が膨らんでいく。
「お母さん、まだ彼女になっただけだから」梨々香が顔を赤くして言う。
「彼女になったら次は婚約でしょ。その次は結婚よ」
「早すぎるわよ!」
「早くないわよ。綾斗なら安心して任せられるわ」
「もうお母さん…」
楓さんが俺に向き直った。
「今回の報酬は祝福の絆と百花繚乱で半分ずつ分けるわ」
「えっ俺たちは8人ですよ。半分は多くないですか?」
「あなたのスキルあっての攻略だったんだからいいのよ」
「でも300人出てくれてるんですから」
「それにクランを大きくするんでしょ。お金はあって困るものじゃないわ」
皐月が頷く。
「タワーマンションを建てるんだから貰っておきましょう」
「まだ計算は終わってないけど、タワーマンションの一つや二つ建てられるくらいにはなるわ」楓さんが笑った。
「さすがね。綾斗のクランは大きくなるわよ」
「そうなるといいな」
「なるわよ。私が保証する」
皐月が自信満々に言う。頼もしい。
母さんたちが来た。綾乃母さんを筆頭に14人がぞろぞろと入ってくる。
「みんな揃ってるわね」綾乃母さんが微笑む。
巴母さんが萌香の肩を叩いた。
「後で鍛えてやるよ」
「えっ鍛える?」
「あの刀の使い方をな。綾斗に預けられた以上、相応しい使い手にならないといけないだろ」
「はい! お願いします巴お母さん!」
萌香が元気よく答える。巴母さんが満足げに頷く。気に入られたみたいだな。
綾乃母さんが手を叩いた。
「最高級の肉を頼んだから昼からバーベキューよ」
「やったー!」萌香が叫ぶ。
「焼肉だ!」琴音も目を輝かせる。
「楽しみだね」悠花が微笑む。
俺は父さんに近づいた。
「俺がした約束なのにありがとう」
父さんが笑う。
「ああ。みんなが肉を食って喜んでいる顔を見るのが好きだからな。大丈夫だ」
「そういや何かあるたびにバーベキューしてたな」
「そういうことだ」
みんなが嬉しそうに肉を焼いている所を父さんと眺めていた。香ばしい匂いが漂ってくる。
「いい匂いだな」俺が呟く。
「うまいぞ。これ最高級の牛肉だ」父さんが言う。
「楽しみだな」
「お前も食えよ」
「はい」
その時玄関の方から騒がしい声が聞こえた。20人以上いる弟や妹たちが来たのだ。
「お兄ちゃん!」
「パパー!」
「肉だ!」
子供たちがわらわらと入ってくる。年齢はバラバラだが全員元気がいい。
「お前らも来たか」父さんが笑う。
「当然だよ。肉って聞いたから」一番上の弟が言う。
「肉じゃないだろ。お兄ちゃんに会いに来たんだろ」妹が突っ込む。
「肉だよ」
「お前な…」
子供たちのやり取りを見て俺は笑った。うちの家族は本当に賑やかだ。
その中で俺の1つ下の妹が俺に駆け寄ってきた。ヒカリだ。父さんと灯母さんの娘で、ショートカットの茶髪が似合う元気な女の子だ。
「ママ、私もスキルが発現したよ!」
ヒカリが灯母さんに報告している。
「そう、どんなスキル?」
「万夫奮起。男性のステータスを上げることができるバフスキルだって」
「万夫奮起?」俺が聞き返す。
「うん。お兄ちゃんの百花繚乱の逆バージョンみたいなの。男性のステータスを上げるの」
「へえ。すごいなヒカリ」
「でしょ? だから私も探索者になる!」
「ヒカリが探索者に?」
「うん! 」
灯母さんがヒカリに言った。
「パパ以上の男性を仲間にするならいいわよ」
「じゃあパパと仲間になる!」
ヒカリが父さんに抱きついた。父さんが苦笑いしている。
「パパはもう引退するんだぞ」
「えーまだ戦えるでしょ」
「まあな。でももう若くないからな」
「十分強いよ」
「ヒカリ…」
父さんがヒカリの頭を撫でながら俺を見た。その目は真剣だった。
「綾斗。これからはお前とヒカリたちの時代だ」
「父さん…」
「神級ダンジョンはこっちの世界にもいつか必ず現れる。その時に俺や母さんたちはもう戦えないかもしれない」
「そんなことは…」
「いや。いつかは来る。お前たちがこの世界を救うんだ」
父さんの言葉には重みがあった。15年間探索者として戦い続けてきた男の言葉だ。俺は頷いた。
「任せてよ。もっと仲間を増やして絶対に俺たちで攻略してみせる」
「いい顔だ」父さんが笑う。「じゃあこれを」
父さんがアイテムボックスから1本の刀を取り出した。
俺は息を呑んだ。それは草薙の剣だった。八岐大蛇を倒した後に手に入れた神刀だ。
「これはお前にやる。頼んだぞ」
「父さん…これを?」
「ああ。お前が使え。お前なら使いこなせる」
「でもこれは父さんが…」
「俺はもう引退する。これからはお前の時代だ」
「ありがとうございます父さん」
俺は草薙の剣を両手で受け取った。ずしりと重い。でも温かい。父さんの15年間の想いが詰まっているような気がした。
「大事に使います」
「ああ。頼んだぞ」
いつの間にか百花繚乱のメンバーも集まってきていた。皐月、萌香、琴音、悠花、瑞葉、梨々香、瀬里奈。7人全員が俺の後ろに立っている。
「綾斗が草薙の剣を受け取ったってことは本格的に次の時代に行くってことね」皐月が言う。
「そうだな」俺が頷く。
「私たちもついていくわよ」琴音が拳を握る。
「当然でしょ」萌香が刀を握りしめる。
「魔法をもっと強くするね」悠花が微笑む。
「タンクとしてもっと硬くなる」瑞葉が盾を叩く。
「スカウトとして頑張ります」梨々香が頭を下げる。
「私も負けないわよ」瀬里奈が胸を張る。
父さんが笑った。
「いい仲間に恵まれたな綾斗」
「はい。最高の仲間です」
「よし。じゃあ全員でやるぞー!」
父さんが声を上げた。
俺たち全員で叫ぶ。
「「やるぞー!」」
声が重なった。クランハウスに響き渡る声。百花繚乱の花たちはこれからも咲き続ける。父さんたちが守ってきた世界を今度は俺たちが守る。
草薙の剣を握りしめて俺は思った。父さん。ありがとう。俺たちの時代が始まる。
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