八岐大蛇
休憩中は和やかだった。みんな余裕があり、攻略出来ると信じている顔だ。
「いい雰囲気だね。ここまで来た疲れもあまりないみたいだ」俺が言うと皐月が頷いた。
「そうね。祝福の絆と百花繚乱の合わせ技は、ダンジョンからしたら反則だろって感じよね」
「確かに人のステータスじゃないもんな」
「反則中の反則よ」
みんなもが輪になって話している。
「優斗さん、帰ったら高級焼肉の食べ放題奢ってくれるんですよね」
楓さんが笑いながら父さんに言う。
「えっ誰が言ったんだ? 知らないぞ」父さんがとぼける。
「綾斗君が、父さんに出させるから、と言ってましたよ」琴音が笑う。
「綾斗、お前そんなこと言ったのか」
「えへへ、言っちゃった」
「しょうがないな。そのかわり全員無事に帰るんだぞ」父さんが笑う。
「はい! 焼肉のためにも生きて帰ります!」萌香が拳を握る。
「焼肉が動力なの?」皐月が呆れる。
「もちろん! 綾斗が最高級の肉を食べさせてくれるんだもん!」
「俺が?」
「父さんに出させるって言ったじゃないか」
「そうだったな」
「楽しみだねぇ」悠花が微笑む。
「私もお肉食べたい」梨々香が小さく言う。
「私も当然参加するわよ」瀬里奈が胸を張る。
「みんな食べる気満々じゃないか」
「当然でしょ! 300人よ? 食べ放題よ?」瑞葉が目を輝かせる。
「ははっ。父さん財布大変だな」
「大丈夫だろ、肉はみんなが喜ぶからな」
「そういう問題じゃないような…」
和やかな雰囲気が広がる。ここまで来た疲れは確かに少ない。強化されたステータスはダンジョン攻略を別物にしている。
休憩も終わり10階に続く階段を下りていく。
だがみんなの顔つきが変わった。ものすごい魔力が迸っている。階段を降りるたびに空気が重くなる。
「これは…」俺が息を呑む。
「すごい魔力ね」皐月が顔をしかめる。
「今までと次元が違う」楓さんが低い声で言う。
「来たわね」綾乃母さんが刀を握りしめる。
「これは最後ね!」
「体が震えてきますね」美月母さんが笑う。
母さんたちが前に出た。
「私たちが戦ってみる。みんなは敵の攻撃パターンを確認して」綾乃母さんが言う。
「分かりました。お願いします」俺が頷く。
大広間を覗いた瞬間、俺は息を止めた。
今までよりも広い場所に、8本の首があるドラゴンのような怪物がいた。
体は巨大で丸く、8本の首がそれぞれ独立して動いている。目は赤く燃えている。体からは先ほどまでの敵とは比較にならない魔力が溢れ出していた。
「あれは…」父さんが呟く。「神話の怪物、八岐大蛇じゃないのか」
「八岐大蛇?」萌香が目を見開く。
「神話級の怪物。神と対等に戦ったって言う」俺が言う。
「神と対等? そんなのがいるの?」琴音が息を呑む。
「いるわ。それが神級ダンジョンよ」楓さんが言う。
「母さんたち大丈夫か?」
「大丈夫よ。340倍だもの」綾乃母さんが刀を構える。
「行くわよみんな!」
母さんたちが飛び出していく。14人の母さんたちが八岐大蛇に挑む。俺たちも闘技場の中に入って八岐大蛇の動きを見る。
静香母さんと千尋母さんが前に出て、その後ろから藍母さんが防御魔法を展開する。
三重の防御が重なる。八岐大蛇の最初の首の振り回し攻撃を完璧に抑え込んだ。
「止まった!」萌香が叫ぶ。
「今だ!」巴母さんがハルバードを担いで飛び上がる。一閃で一本の首を斬った。首が地面に落ちて黒い血が噴き出す。
「次!」綾乃母さんが刀で二本目の首を斬る。
「三本目!」凛母さんが三本目を斬る。
「四本目!」美月母さんが四本目を斬る。
「行ける! あと4本だ!」父さんが叫ぶ。
日向母さん、雪乃母さん、灯母さんがそれぞれ魔法を体に撃ち込んでいく。
「百炎弾!」「アイスジャベリン!」「ライトニング!」
三つの魔法が同時に八岐大蛇の体を直撃する。体が悲鳴を上げるように震える。
沙織母さんと翠母さんとカグヤ母さんが撹乱のために動き回りながらダメージを与えていく。
「速い!」皐月が叫ぶ。
「完璧な連携だ」琴音が呟く。
美鈴母さんが全体の回復をする。傷ついた母さんたちが瞬時に回復していく。
「すごい! 完璧な連携!」萌香が目を輝かせる。
「340倍のステータスでこれだもんね」瑞葉が頷く。
「このまま勝てるんじゃない?」悠花が言う。
「いけるわよ!」瀬里奈が拳を握る。
全員がこのまま勝てると思った。母さんたちの連携は完璧だった。残り4本の首を削っていけば勝てる。そう誰もが思った。
その時だった。
真ん中の首が垂直に上に伸びた。
「何する気?」俺が呟く。
首が天井まで届くほどに伸びて、そこから吠えた。
「ギャアアアアアア!」
その咆哮は今まで聞いたどのモンスターの咆哮とも違った。音ではなく魔力の波だ。俺たち全員の体が光った。
「えっ?」萌香が自分の体を見る。
「何これ?」琴音が目を見開く。
その光が八岐大蛇に入っていく。体に吸い込まれていく。
その瞬間、斬られた首が再生した。4本の首が同時に復活する。
「首が復活した!」瑞葉が叫ぶ。
「再生? そんな!」皐月が顔を青くする。
それだけではない。八岐大蛇の魔力が跳ね上がった。明らかにさっきまでより強くなっている。
巴母さんが着地して叫ぶ。
「何が起こった? 首が復活しただけじゃない。魔力が上がってる!」
俺は直感した。すぐにステータスカードを確認した。
レベルが1減っている。
「レベルドレインだ!」俺が叫ぶ。
「レベルドレイン?」父さんが振り返る。
「さっきの咆哮で全員のレベルが1下がった! その分敵に吸い取られたんだ! 俺たち全員分のレベルが敵のレベルに変わった!」
「何だって?」楓さんが顔を青くする。
「今ので敵のレベルが300以上上がったかもしれない!」
「300以上?」父さんが息を呑む。
「全員のレベルを1ずつ吸い取ったんだ。323人分だ。それが敵のステータスに変わったとしたら…」
「とんでもないことになるぞ」父さんが顔を引き締めた。
「しかも首が再生したってことは、また斬っても復活するってことだ」皐月が言う。
「斬っても復活する。吸い取られるのは永続か?」
「レベルドレインは永続よ」美鈴母さんが言う。
「永続? 戻らないの?」萌香が叫ぶ。
「戻らないわ。吸い取られたレベルは戻ってこない」
「じゃあ何度もやられたら…」
「全員のレベルが0になるわ」
「0になったら?」
「戦えなくなる」
俺は血の気が引くのを感じた。
「あと何回やられるか分からない」
「まずいな」父さんが言う。「一旦引くぞ! 全員急いで階段まで下がれ!」
父さんの号令が飛ぶ。全員が一斉に階段に向かって走り出す。
「静香母さん殿を頼む!」俺が叫ぶ。
「任せて!」静香母さんが最後尾に回って盾を展開する。八岐大蛇の追撃を防ぐ。
だが八岐大蛇は階段までは追ってこない。9階と10階の境目で追撃が止まった。
「追ってこない?」
「階段が安全地帯ってことか」皐月が息を切らしながら言う。
「とりあえず安全だ」俺が言う。
全員が階段の上でへたり込んだ。恐怖が漂っている。レベルドレイン。斬っても復活する首。絶望的な状況だ。
「作戦タイムだ」父さんが言う。「ここで対策を練らないと全滅するぞ」
俺は壁にもたれて座り込んだ。八岐大蛇。レベルドレイン。首の再生。どうすれば勝てる?
「考えろ…考えろ…」
俺は頭を抱えて考え始めた。
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