異世界の街
城壁に向かって歩き出した。俺たちはまず父さんたちの行方を知る必要がある。父さんの手紙にはこの世界を助けると書いてあった。でもそもそも助ける人が生き残っているのか。それが一番の問題だ。
海は埋め立てされている。でも建物は何もない。更地が広がっているだけだ。
城壁の外には壊れた家が並んでいた。瓦礫の山。焦げた柱。屋根の落ちた廃屋。人が暮らしていた痕跡はあるが、人は誰もいない。
「完全に崩壊してるわね」皐月が廃屋を見渡しながら呟く。
「いつからこうなったんだろう」萌香が瓦礫を拾い上げる。
「神級モンスターが溢れてきてからでしょう。数年か数十年か…」楓さんが言う。
「人が住めない状態になったってことか」
「そうね。街の外に住んでいた人たちは逃げたか死んだか…」
城壁に辿り着いた。高い壁だ。10メートルはある。でも空飛ぶドラゴン相手だと無意味だろう。あのドラゴンなら簡単に飛び越えられるはずだ。
「壁の意味ないんじゃない?」琴音が見上げる。
「ドラゴン以外のモンスターなら防げるだろ」俺が答える。
「でも結局崩壊してるわね」
「壁の意味もなくなったってことか」
壁の南西に門があった。鉄の扉が半分壊れている。俺たちは門の中に入った。中も同じだった。壊れた家。燃えた跡。瓦礫の山。人の気配は全くない。
「誰もいない…」悠花が不安そうな声を出す。
「静かすぎるわね」瀬里奈が周囲を警戒している。
俺は楓さんと相談した。
「父さんがいるなら神級ダンジョンだ。そっちに向かいましょう」
「私もそう思うわ。埼玉方面からすごい魔力の波動を感じるの」楓さんが北の方を指差す。
「魔力の波動?」
「ええ。あちらの方角から強力な魔力が溢れているわ。神級ダンジョンがあるのは間違いない」
「じゃあ北に向かおう。でも生きてる人を探しながら行きたい。誰か生き残っているかもしれない」
「そうね。探索しながら進みましょう」
俺たちは人を探しながら北に向かうことになった。
「萌香気配察知のスキルに反応は無いか?」
「うん。この付近に私たち以外動いている気配は無いね」萌香が首を振る。
「梨々香は?」
「私も感知できません。人の気配もモンスターの気配もありません」
「街の中に人がいないのか、それとも隠れているのか…」
俺たちは北に向かって歩き出した。廃墟の街を抜けていく。かつて店だった場所、学校だった場所、病院だった場所。全てが瓦礫の山になっている。かつて人々が暮らしていた場所がこんなになっている。神級モンスターの脅威とはこれほどのものなのか。
「怖いね」悠花が俺の腕を掴む。
「ああ。俺たちの世界がこうならないように父さんたちは戦っているんだ」
「そうね。だから私たちも行くの」
北の門を見つけた。門の外は荒野が広がっている。かつて道路だった場所はひび割れ、雑草が生い茂っている。遠くに山が見える。埼玉の山々だろうか。
「北の門から出て、バスにぎゅうぎゅう300人詰めて行きますか?」
俺が提案すると楓さんに即座に否定された。
「間違いなく走った方が早いわ」
「またか…」
「あたり前でしょ。バスなんて乗ったら速度が落ちるわよ」
「はいはい」
「よし誰が綾斗をおんぶするか決めなさい」
またか。俺をおんぶする勝負が始まっている。今回は梨々香と瀬里奈も参加してじゃんけんしている。
「今回は私よ!」瀬里奈が気合を入れる。
「私も負けないわよ」梨々香が真剣な顔で。
「じゃんけんぽん!」
「あっ負けた」「私も」「残念」
「じゃんけんぽん!」
「よしっ!」瑞葉が勝ち上がった。
「瑞葉、お前か」
「身長が1番高いから安定するでしょ。文句言わないで」
「文句は言ってないよ。ありがとう」
「前みたいに耳に息吹きかけたらダメだよ」
「吹きかけないって」
「約束よ」
「はいはい」
瑞葉の背中に乗って号令をかける。
「北に向かう! 神級ダンジョンが見えるまで走れ!」
「「おー!」」
307人が一斉に走り出す。荒野を308人が走る光景は圧巻だ。地響きのような足音が響き渡る。
走ること数十分。梨々香が前方に何かを感知した。
「待って! 前方に気配があります! 戦闘中です!」
「戦闘? モンスター?」
「いえ…人です。人とモンスターが戦っています」
「冒険者か?」
「かもしれない。助けに行こう!」
俺たちは戦闘地点に向かって走った。そこには一つのパーティがモンスターと戦っていた。5人の冒険者が巨大な犬型モンスターに囲まれている。
「加勢するぞ! 前方の班突撃!」
先頭集団が一斉に突っ込む。32.7倍のステータスを持つ307人が殺到する。犬型モンスターは一瞬で粉砕された。
「えっ?」
冒険者たちが呆然としている。すごいスピードで走ってくる300人の女性の集団に、最初は逃げようとした。だがモンスターが倒されたのを見て足を止めた。
「待って! 逃げないで! 話を聞かせて!」
俺が声をかけると冒険者たちが振り返った。男5人のパーティだ。リーダーらしい30代くらいの疲れた顔をした男が答える
「お前ら…何者だ? そんな大勢で…」
「日本から来たんです。父さんたちを探しています」
「日本? 」
「はい。男1人と女14人のパーティを見ませんでしたか?」
冒険者の男が目を見開いた。
「ああ。神級の攻略に行ってくれたパーティだな。優斗さんたちのことか」
「知ってるんですか!?」
「もちろん知ってるよ。この世界の希望だったんだ。俺たちのトップ冒険者たちが全員やられて、どうにもならなくなった時に現れてくれたんだ」
「父さんたちは無事ですか?」
「最後に見た時は無事だった。神級ダンジョンに向かっていったよ。このまま北に行けばすぐに分かる。巨大な穴が空いているから」
「ありがとうございます!」
「他の人は? 街に誰もいなかったけど、もう…」
俺が恐る恐る聞くと男が暗い顔をした。
「街の地下で生活しているんだよ。まあかなりの死者は出たんだけど、まだ残っているぜ」
「生き残っているんですね」
「ああ。でもまともに戦える冒険者はもういない。俺たちみたいな雑魚しか残ってないんだ」
「そんな…」
「すまない。俺たちのトップ冒険者は全員神級モンスターにやられちまったから、どうにもできなかったんだ。優斗さんたちに頼るしかなくて…」
男が悔しそうに拳を握りしめた。
「俺たちも神級ダンジョンに向かいます。まだ間に合うか…」
「間に合うかは分からない。でも優斗さんたちは強いだろ? まだ生きてるかもしれない」
「はい。信じています」
「気をつけてな。神級モンスターはあの犬とは比べ物にならないぞ」
「ありがとうございます。あなたたちも気をつけて」
俺たちは冒険者と別れた。男が背中を向けて去っていく。その背中は小さかった。強い冒険者が全員やられた世界。残された人たちの絶望を想像すると胸が痛い。
「よし行くぞ。神級ダンジョンに向かう!」
「「おー!」」
307人が再び走り出す。北へ。神級ダンジョンへ。父さんたちが待つ場所へ。
「父さん。今行くぞ。絶対に生きててくれ」
俺は心の中でそう呟いて、北の空を見上げた。遠くに巨大な何かが見える。穴だ。地面に巨大な穴が空いている。あれが神級ダンジョンだ。
「あれだ!」萌香が叫ぶ。
「でかい…」琴音が息を呑む。
「あれが神級ダンジョン…」皐月が呟く。
「行くぞ。全員止まらないで走れ!」
307人が北へ向かって走り出した。神級ダンジョンの入り口に向かって。父さんたちを迎えに行くため。
花たちはいよいよ最後の戦場に咲き誇ろうとしていた。




