モンスターハウス攻略戦
朝食を済ませて、俺は307人を大広間の前に整列させた。
「3つのチームに分ける。正面、左、右の穴をそれぞれのチームで対処してもらう。あと後方警戒班と俺の護衛班だ」
楓さんが頷いて班分けを進める。前回の教訓が活きている。各班のバランスも前回より洗練された。
「細かい指示はいらないだろう。各班のリーダーが判断してくれ。俺は全体の指揮を執る」
俺は307人に向かって声を張り上げた。
「さあ、レベル上げの時間だ! さっさと片付けて父さんたちを迎えに行こう!」
「「おおぉぉ!」」
307人の返事が重なる。頼もしい声だ。前回の107人とは迫力が違う。
「よし突入するぞ!」
大広間に入った瞬間、三方の穴からモンスターが溢れ出してきた。前回と同じだ。ゴブリン、コボルト、オーク、巨大な蛇、人間より大きな蠍。今まで見たモンスターが勢揃いする。
「来たわよ!」
「各班対応して!」
「正面班前に!」「左右班展開!」
だが今回は違った。32.7倍のステータスを持つ307人だ。最初にワラワラと出てきたモンスターはすぐに一掃された。その後は穴から出てきた瞬間に待ち構えていたアタッカーに瞬殺されている。
「弱すぎない?」
「SS級ダンジョンがこんなのでいいの?」
「雑魚すぎてレベル上がらないんじゃない?」
各班から声が上がる。俺も同じことを思っていた。SS級ダンジョンがこんなのでいいのかと思うほどだ。
「油断するな! 最初は雑魚でもだんだん強いのが出てくる!」
俺の言葉通り、少しずつモンスターの質が変わっていった。B級、A級と上がっていくにつれて、さすがに一撃では倒せなくなる。だが32.7倍のステータスを持つ307人にかかれば、A級モンスターでも大した壁にならない。
「けど神級ダンジョンに行くことを考えたら、ここのダンジョンなんか余裕で攻略しなければいけない」俺が呟くと皐月が頷いた。
「そうね。ここは準備運動よ」
「準備運動か…」
「本番は向こうの世界だから」
戦闘が続く中、正面のチームに入っていた萌香が戻ってきた。手には折れた剣が握られている。
「綾斗ー! 剣が折れちゃったよ! 何か予備持ってない?」
俺は一瞬呆然とした。そうだ。俺たちはまだ初心者装備だ。萌香の剣も量産品だった。32.7倍のステータスで全力で振れば、量産品の剣などすぐに限界が来る。魔力を通して強化していても、SS級モンスターの硬い体を何度も斬れば折れる。
「待ってろ」
俺はアイテムボックスから白鞘の刀を取り出した。綾乃母さんから貰った日本刀だ。母さんが愛用していた業物。俺が探索者になった時に母さんが譲ってくれた大切な刀だ。
萌香に手渡すと、彼女は目を見開いた。
「綾斗…これってお母さんの…」
「ああ。俺はここでは戦えない。萌香がそれを使って母さんたちへの道を作ってくれ」
萌香が刀を両手で握りしめた。その目が潤んでいる。
「うん! 大事に使うから。私に任せてっ!」
萌香がニコニコしながらモンスターの群れに走っていった。白鞘の刀が閃く。一振りでA級モンスターが両断された。さすがは綾乃母さんの刀だ。萌香の32.7倍のステータスと相まって、圧倒的な破壊力を生み出している。
「すごい…」俺が呟く。
萌香になら渡してもいいだろう。萌香は真剣に戦ってくれている。俺の……俺の? 何だろう。パーティメンバー? 彼女? 体の関係はあるけど、そういうことを話したことがなかったな。
「何考えてるの?」皐月が俺の横に立つ。
「いや…萌香との関係というか…」
「ああ、そういうこと」皐月が笑う。「まだ決めてないの?」
「決めるって…」
「彼女なのか、ただのパーティメンバーなのか。他のみんなも同じでしょ」
「うん…」
「全部終わったらみんなと話すといいわ」
「そうだな」
「先延ばしにしすぎると、みんな不安になるわよ」
「わかってるよ」
「ならいいけど」皐月が笑っていた。
俺は考えていた。7人と関係を持った。でも正式に何なのかを話したことはない。梨々香も瀬里奈も同じだ。父さんは母さんたちと結婚した。俺もそうするのか? それとも別の形があるのか?
「終わってから考えよう」俺は頭を振って思考を切り替えた。
その時、大広間の空気が変わった。三方の穴から同時に巨大な魔力が溢れ出してきた。
「来るぞ! SS級モンスターだ!」誰かが叫ぶ。
正面の穴から現れたのは、前回も遭遇した恐竜型モンスターだった。だが今回は一体ではない。三体同時だ。さらに左右の穴からもSS級クラスのモンスターが現れた。巨大な蛇。体長10メートルはある大蛇だ。そして空中を飛ぶワイバーン。
「SS級モンスター3種同時!」「各班対応して!」「タンク前に!」
俺の指示が飛ぶ前に各班が動いていた。さすがは祝福の絆の精鋭たちだ。迷わず動ける。
「正面はタンク4人で3体の恐竜を止めろ! アタッカーは1体ずつ集中攻撃!」
「左の大蛇は魔法で削れ! 物理が通りにくいからだ!」
「右のワイバーンは弓と魔法で落とせ!」
萌香が白鞘の刀を振るう。綾乃母さんの刀が恐竜の脚を斬り裂く。35.7倍の一撃は、SS級モンスターの硬い鱗をも容易く切り裂いた。
「やった! 通る!」萌香が叫ぶ。
「いいぞ萌香! そのまま仕留めろ!」
「任せて!」
琴音が薙刀で大蛇の頭を狙う。魔力を纏った薙刀が大蛇の鱗を砕く。
「落ちなさいよ!」
悠花と瀬里奈が同時に魔法を放つ。
「ファイアボール!」「ライトニング!」
二つの魔法が融合して大蛇を直撃する。35.7倍に強化された魔法は、S級モンスターを一撃で焼き尽くすほどの威力だ。
「すごい…」俺が呟く。
「綾斗のスキルのおかげよ」皐月が回復魔法を飛ばしながら言う。「私たちの力じゃない。あなたの力よ」
「俺はただバフをかけただけだろ」
「バフをかけなきゃどうにもならないのよ。あなたがいなき始まらないの」
瑞葉がワイバーンの突進を盾で受け止める。衝撃で後退するが35.7倍のステータスなら耐えられる。
「落ちなさいよ!」瑞葉が盾で弾く。
「梨々香後方の状況は?」
「異常ありません! 後方からの敵の襲撃もありません!」梨々香が報告する。
「よし」俺は全体を見渡した。各班が順調に敵を削っている。もうすぐ終わりそうだ。
「あと少しだ! 頑張れ!」
307人の女性たちが一斉に攻撃を加速させる。SS級モンスターたちが次々と倒れていく。萌香の白鞘の刀が最後の恐竜を貫いた。
「終わった…」
大広間に静寂が戻る。床にはモンスターの死骸と灰が散らばっている。
「全員無事か?」俺が声を上げる。
「はい!」「怪我はないわ!」「全員無事です!」
「よし」
俺は大広間の奥に入っていった。そこに扉があった。父さんの手紙に書いてあった扉。異世界に繋がる扉だ。
「あれが…」
「扉ね」楓さんが俺の隣に立つ。
「開けるか?」
「待って」楓さんが俺を止める。「まずは休憩よ。全員の状態を確認してから」
「そうだな」
俺は振り返った。307人が疲れた顔をしながらも、その目には力が宿っている。
「みんなお疲れ様。少し休憩してから扉を開ける」
「了解」
萌香が戻ってきて白鞘の刀を俺に返そうとした。
「綾斗お母さんの刀。やっぱり返すね」
「いや萌香に預けるよ」
「えっでも…」
「萌香の方が強いだろ。俺はここでは戦えない。萌香が使ってくれた方が役に立つ」
「綾斗…」萌香が目を潤ませる。
「それに母さんも萌香なら安心して貸してくれると思うよ」
「うん…大事に使う。約束する」萌香が刀を抱きしめた。
「よし休憩だ。食事をして傷の手当てをしてくれ。準備ができたら扉を開ける」
俺は父さんの手紙を取り出して読み返した。神級ダンジョンが誰も攻略できずに神級モンスターが溢れてきた世界。父さんたちはそこで戦っている。
「もうすぐ行くからな父さん」
俺は手紙を握りしめて扉を見つめた。あの扉の向こうに父さんたちがいる。もうすぐ会える。そう信じて俺は休憩に入った。
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