圧倒的な力と思わぬ困難
ダンジョンを進んでいく。前回6日かけてたどり着いた大広間まで、今回は一気に進むつもりだ。308人の足音が洞窟に反響している。
最初のモンスターが現れた。巨大で頭が2つある犬だ。前回は107人でも苦戦しなかった相手だが、今回は次元が違う。
「瑞葉前に!」
「了解!」瑞葉が盾を構えて前に出る。巨大犬の爪が盾に当たった瞬間、俺は目を疑った。
衝撃がない。全くだ。瑞葉の体が微動だにしない。35.7倍に強化された盾受けは、まるで羽根が当たったみたいに軽い。
「えっ…」瑞葉自身が困惑している。「全然衝撃がない…」
「瑞葉大丈夫か?」
「大丈夫っていうか…何も感じないんだけど…これが35.7倍の防御力?」
「みたいだな」
「琴音やってみろ!」
「任せて!」琴音が薙刀を一閃する。一振りだ。ただの一振りで巨大犬が真っ二つになった。斬られた断面がきれいすぎる。まるで豆腐を切ったみたいだ。
「えっ…」琴音も困惑している。「一振りで?」
「やりすぎじゃない?」萌香が目を丸くする。
「35.7倍ってそんなにすごいの?」
「すごいわよ」皐月が冷静に答える。「あなたたちのステータスが敵のモンスターを遥かに超えているってことよ」
他のメンバーも戦ってみた。300人の祝福メンバーが次々とモンスターに挑む。
「私もやってみるわよ!」一人のアタッカーが剣を振るう。B級モンスターが一撃で倒れた。
「嘘でしょ…」
「私も! 」別のメンバーが魔法を放つ。ファイアボールが巨大な火球となってモンスターを焼き尽くす。
「魔法の威力が桁違いよ!」
「こんなに強くなれるなんて…」
全員が驚いている。32.7倍のステータスは想像以上だった。モンスターが可哀想なくらいだ。次々と現れる敵を撃破していく。苦戦する場面は全くない。
「前回はあんなに苦戦したのに」萌香が呆然とする。
「人数が3倍になってステータスも3倍以上上がったからな」俺が答える。
「これなら神級モンスターでもいけるんじゃない?」琴音が言う。
「油断するなよ。まだ奥には何がいるか分からない」
低レベルのメンバーたちもどんどんレベルが上がっていった。SS級ダンジョンの経験値は桁違いだ。数回の戦闘でレベルが上がり、どんどん戦力になっていく。
「レベル15になったわ!」
「私も16に上がった!」
「すごい上がりねこのダンジョン」
数時間進んで安全そうな広間を見つけた。
「ここで一度休憩だ。バスを出す」
俺がアイテムボックスからバスを2台出す。307人がバスに向かって殺到する。
「トイレトイレ!」
「私先!」
「ちょっと待って!」
「並んで!」
トイレが大渋滞した。307人中半分くらいがトイレに行きたいらしい。バスのトイレは1台に1つ。2台で2つ。到底足りない。
「これは想定外だな…」俺が頭を抱える。
「綾斗君トイレ足りないわよ!」
「知ってるよ!」
「どうするの?」
「外でしてくれ! 男性陣はいないんだから恥ずかしくないだろ!」
「そういう問題じゃないわよ!」
「じゃどうしろって言うんだよ!」
楓さんが割って入った。
「落ち着きなさい! トイレは交代で使うわ。外で済ます人は岩陰を使いなさい。男性がいないんだから大丈夫でしょ」
「はーい」女性たちがぞろぞろと岩陰に向かっていく。
俺はバスから離れて岩陰を探した。萌香がすぐ後ろについてくる。
「萌香お前もトイレか?」
「違うわよ。綾斗の護衛」
「護衛?」
「綾斗は普通のステータスでしょ。何かあったら大変よ」
「いやでもトイレくらい…」
「危ないから」萌香が頑固な顔をする。「楓さんたちに言われてるの。綾斗を絶対に死なすなって」
「わかったよ。ありがとう」
「いいから早く済ませて」
俺は岩陰に向かった。萌香は5メートルほど離れた所で待機している。岩陰に着いて用を足そうとした瞬間、俺は固まった。
そこにはもう女性が座っていた。用を足している最中だった。
白いお尻が目に飛び込んでくる。
「あっ…」
俺は慌てて目を逸らした。でももう見てしまった。
「あら綾斗くん」
その女性が顔を上げた。30代くらいの探索者だ。恥ずかしそうにするどころかニヤニヤしている。
「私のだけ見て綾斗くんのは見せてくれないの?」
「見てしまったけど見せるものじゃありません!」
俺は顔を真っ赤にして走り去った。
「萌香もう少し離れた所にしよう」
「どうしたの?」
「いや何でもない」
「?」
萌香が首を傾げる。俺は別の岩陰を見つけてやっと用を足した。萌香が5メートル先で見張りをしている。
「綾斗終わった?」
「ああ。戻ろう」
「何かあった?」
「何もないよ」
「嘘ね。顔が赤いよ」
「何でもないって」
「ふーん」萌香が疑い深い目で俺を見ている。でも追及はしなかった。助かった。
バスに戻るとトイレ渋滞はまだ続いていた。
「まだ並んでるの?」
「仕方ないでしょ。300人よ」
「次はもっとトイレを用意しないとな」
「簡易トイレも持ってきなさいよ」楓さんが呆れる。
「次回は忘れないようにします」
休憩が終わって俺たちは再び進み始めた。トイレの件は笑い話になったが、大人数の寝床を考えないといけないな。バス2台じゃ308人は寝られない。交代で寝るしかないが、それだと十分な休息が取れない。
「皐月」
「何?」
「寝床をどうにかしないといけないな」
「そうね。バス2台じゃ308人は無理よ」
「テントを張るか?」
「洞窟の中でテント? まあ安全な場所ならいけるかもしれないけど」
「次の休憩地点で試してみよう」
俺たちは洞窟の奥へと進んでいった。モンスターは次々と現れるが、32.7倍のステータスを持つ307人にかかれば雑魚同然だ。前回は苦戦したモンスターも一撃で倒せる。
「楽すぎない?」萌香が言う。
「油断するなよ。大広間まではまだかかる」
「でもこの調子なら前回より早く着くんじゃない?」
「かもしれない。でも大広間では何が待っているか分からない。前回はモンスターハウスだった。今回はもっと酷いかもしれない」
「そうね。気を引き締めないと」皐月が頷く。
1日目が終わった。安全な広間で野営する。バス2台と簡易テントを組み合わせてなんとか308人の寝床を確保した。でも寝心地は最悪だろう。
「次はもっとちゃんとした寝床を用意しないと」俺が呟く。
「简易トイレとテントね」皐月がメモを取っている。
「お風呂も欲しい」萌香が追加する。
「ダンジョンでお風呂は贅沢だろ」
百花繚乱。307の花が咲き誇る。その力で必ず道を切り開く。俺はその確信を胸に眠りについた。
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