瀬里奈と再アタックの決断
「6人相手はキツイって…」
翌朝、俺は起き上がる気力もなく布団の中で弱音を吐いた。全身が鉛みたいに重い。16歳の体力にも限界がある。
萌香がキッチンで卵を焼きながら笑った。
「嫌なの?」
「嫌なことあるか! 嬉しいよ!」
俺が即答すると萌香がフライパンを片手にウィンクした。
「ならいいじゃない」
「そういう問題じゃなくて体力的に…」
「若いんだから大丈夫でしょ」
皐月がコーヒーを啜りながら冷静に言った。
「今日はあなた大変よ」
「大変って何がだ?」
「百花繚乱に入りたいって子が押し寄せるわよ。祝福の関係者からね」
「えっ?」
「昨日の救援であなたの指揮を見たでしょ。それに梨々香を入れた噂も広まってるわ」
「何人まで入れるのか、綾斗のタイプの子だけ入れるのか、あなたがリーダーなんだから決めておきなさい」
「タイプって…」
「梨々香を入れた手前、断ることは無理でしょうけど」皐月が笑う。
梨々香がテーブルの隅で小さくなっていた。
「すみません…私のせいで…」
「梨々香は何も悪くないよ。スカウトは探していたしね」俺が言うと梨々香がほっとした顔をした。
「ありがとう綾斗くん…」
琴音が朝ごはんを頬張りながら言った。
「でもすごいよね。もう支部長たちから娘を売り込みに来るんじゃない?」
「売り込みって…」
「綾斗のパーティに入れば強くなれる上に生活も安定するんだもん。人気爆発よ」
瑞葉が頷く。
「私たちも綾斗のおかげで強くなれたからね」
悠花が俺の隣に座って朝食を取り始めた。
「綾斗大変だね。でも応援してるよ」
「応援してるって…お前が一番求めて来てただろ」
「えへへ」
俺はため息をついて残りの朝食を食べた。今日は長い一日になりそうだ。
俺たちは祝福の絆のクランハウスに向かった。玄関を開けるとすでに数人の幹部が待っていた。
「綾斗君おはよう!」
「おはようございます」
俺が挨拶すると一人の支部長が駆け寄ってきた。赤い髪の長い女性だ。名前は羽野小夜子さん。東北支部の支部長だ。
「綾斗君、前に言ってた魔法を使える娘を紹介するわ」
小夜子さんが後ろから一人の少女を前に出した。赤い髪をポニーテールにまとめた整った顔立ちの女の子だ。気の強そうな瞳が印象的だ。
「羽野瀬里奈。16歳よ。日向様の一番弟子なの。役に立つわよ」
「日向母さんの弟子?」
俺が驚くと瀬里奈が胸を張った。
「ええ。日向様に魔法を習ってもう3年になるわ。そこそこ使えるわよ」
「日向母さん弟子なんて取ってたのか。知らなかった」
「日向様はあまり公言してないけど、私以外にも何人か弟子がいるわよ」
瀬里奈が自信満々に言う。
「それで、俺のクランに入りたいってことでいいのか?」
瀬里奈が鼻を鳴らした。
「ええ。魔法の天才の私を欲しいって言うなら入ってあげてもいいわ」
その態度に俺は少し困った。悠花が既にいる。魔法使いは補充したいけど、この性格は…。
「魔法を使えるのは悠花がいるからなー」
俺がわざと悩むように言うと瀬里奈の表情が一変した。
「嘘嘘!ごめんなさい!百花繚乱に入れてください!」
「えっ?」
「私入りたかったの!さっきのは強がり!本心じゃないから!」
瀬里奈が頭を下げて必死に謝っている。さっきまでの強気な態度が嘘のように崩れている。
「さっきの天才ってのは?」
「嘘です!天才じゃないです!でも頑張りますからお願いします!」
綺麗な子だけど少し残念な子のようだ。日向母さんに似ているかもしれない。
「はいはい分かった。入っていいよ」
瀬里奈がパッと顔を上げた。
「本当っ?!」
「本当だよ。歓迎する」
「ありがとうございます!」
瀬里奈が深々と頭を下げた。その顔には安堵の色が浮かんでいる。さっきまでの強気な態度は完全に消えていた。
「日向母さんに似てるな」俺が小さく呟くと皐月が耳ざとく聞きつけた。
「確かに。あのツンデレ具合は日向さん譲りね」
「聞こえてるわよ!」瀬里奈が顔を赤くする。
「ほらやっぱり日向母さんだ」
「もう!からかわないで!」
瀬里奈が頬を膨らませる。可愛いけど面倒くさそうだ。まあ仲間は増えた。
楓さんが大広間に入ってきた。
「全員集まったわね。会議を始めるわよ」
大広間には各支部の支部長と幹部たちが勢揃いしていた。俺と百花繚乱の7人も席に着く。
「まず協会との話し合いの結果を報告するわ」楓が口を開いた。
「若洲ダンジョンは優斗さんたちが帰ってこれなくなったら困るから消滅はさせないと決まったわ」
「なるほど。父さんたちが帰ってくる道を確保しておくんですね」
「そういうこと。世間にはダンジョンの奥に神級ダンジョンが繋がっていて、その攻略に英雄たちが向かったということにするわ」
「嘘をつくんですか?」萌香が眉を寄せる。
「嘘じゃないわ。事実をそのまま伝えるだけよ。ただし神級の詳細は伏せてね。パニックになるから」
楓さんが俺に向き直った。
「綾斗今回のアタックでレベルはどれだけになった?」
「レベル40です」
大広間が一瞬静まり返った。
「登録して1ヶ月でレベル40!?」「嘘でしょ?」「あのSS級ダンジョンそんなに美味しいの?」
幹部たちがざわめき始める。
「それだけあのダンジョンの経験値が美味しいんでしょう」俺が答える。
「1回のアタックで40か…」楓が感心したように頷く。
「それだけ上がるならレベル制限付けずに行きたい女性は誰でも連れて行こう」
「人数制限なしで?」
「そう。ダンジョンが数で来るならこっちも人数を増やして対抗するわ」
楓が俺を真っ直ぐに見た。
「綾斗、百花繚乱のかけられる人数に上限はあるのかしら?」
「ないです。何百人いても大丈夫です」
「何百人でも?」
「はい。やったことは無いけど、魔力の減り具合からみても問題ないはずです」
楓がニヤリと笑った。
「よし。若洲ダンジョンを攻略して優斗さんたちを迎えに行く。1週間後に出発だ」
「1週間後か…」
「その間にメンバーを募集して準備をするわ。綾斗あなたは百花繚乱のメンバーを固めておいて」
「はい。わかりました」
「それと瀬里奈ちゃん」楓が瀬里奈を見た。「あなたも百花繚乱に入るのよね?」
「はい!」瀬里奈が元気よく答える。
「じゃあ綾斗に5倍にしてもらいなさい」
瀬里奈が顔を真っ赤にした。
「5倍ってあの…その…」
「分かってるわね?」楓が笑う。
「はい…分かってます…」瀬里奈が俯く。
会議が終わって大広間を出る。萌香が俺の腕を叩いた。
「綾斗また増えるのね」
「まあな。でも戦力は多い方がいいだろ」
「そうね。神級ダンジョンに行くんだもん」琴音が頷く。
「瀬里奈ちゃんよろしくね」悠花が微笑む。
「よろしくお願いします!」瀬里奈が頭を下げる。
「魔法使いが2人になったわね」皐月が言う。
「火力が上がるのはいいことだ」俺が頷く。
梨々香が瀬里奈に手を差し出した。
「同じ新入り仲間ね。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」瀬里奈が梨々香の手を握る。
「さあ1週間後に出発だ。それまでに準備を万端にするぞ」
「「おー!」」7人の声が重なった。
俺は空を見上げた。父さん母さん。1週間したら迎えに行くからな。待っててくれ。
「父さん。必ず迎えに行くぞ」
俺は拳を握りしめてそう呟いた。1週間後。俺たちは再びSS級ダンジョンに突入する。今度はもっと大人数で。父さんたちを必ず連れ帰るために。
百花繚乱。花はまだ増える。そして美しく咲き誇る。
その日が来るのを信じて俺たちは歩き出した。




