混乱と覚醒
流石にSS級ダンジョンだ。広すぎる。階段を下りたり分かれ道があったり、まるで迷路みたいだ。父さんたちがこれを攻略していたのかと思うと改めてその偉大さを実感する。
「右に進んだ跡があります。帰ってきた形跡はありません」スカウトの一人が報告する。
「よし、最短で行こう。右に向かう」
3日目、4日目、5日目。足跡を追って延々と歩き続ける。敵は時折現れるが、107人の戦力なら問題なく撃破できる。でも俺はずっと気になっていた。なぜ父さんたちは帰ってこられないのか。
6日目の朝、俺たちは大広間のような場所に出た。天井が高く、丸い空間の三方に穴が開いている。まるで何かを待ち構えているような空間だ。
「ここで大きな戦闘跡があります」スカウトが報告する。
床には斬撃の跡、魔法の焦げ跡、そして黒い血痕が点々と残っていた。激しい戦闘があったのは間違いない。
「全員警戒!」俺が叫ぶ。
大広間の奥に目をやると、何かがあった。一台のバスだ。祝福の絆のマークが横に書かれている。
「あれは…」
俺の足が勝手に動いた。バスに駆け寄る。中を覗く。誰もいない。
「なんであれが此処にあるのに父さんたちが居ないんだ!」
俺は気が動転した。頭の中が真っ白になる。
「綾斗!」楓さんが叫ぶ。
その時だった。前方、右、左の三方向の穴からモンスターの大群がワラワラと現れた。ゴブリン、コボルト、オーク、巨大な蛇、人間より大きな蠍。今まで見たモンスターが勢揃いして大広間を埋め尽くしていく。
「綾斗指示を!」楓さんが叫ぶ。
でも俺は動けなかった。バスが気になって。父さんたちはここで何があったのか。死んだのか。そんな考えが頭を埋め尽くす。
「間に合わない! みんな各個撃破! 目の前の敵を殲滅!」楓さんが代わりに指示を出した。
各班が勝手に動き出す。タンクが前に出て盾を構え、アタッカーが左右から削り、魔法職が後方から魔法を放つ。でも統制が取れていない。俺が指揮を出していないからだ。
「父さん…母さん…ここで死んだのか…」俺は頭を抱えていた。
大規模な戦闘が始まった。幸い敵はまだ弱い個体が多い。12.6倍に強化されたメンバーたちなら個々の戦闘力では圧倒している。だが数が多すぎる。統制の取れていない戦闘ではいつか崩れる。
「しっかりしなさい!」
皐月が俺の頬を両手で左右から叩いた。パンという乾いた音が響く。
「まだ死んだと決まったわけじゃないでしょ! ここを乗り越えてあのバスを調べるんでしょ!」
俺はハッとした。皐月の目が涙で潤んでいた。でも彼女は笑っている。信じているのだ。
「そうだ…こんな所で終わるわけにはいかない!」
俺は顔を上げて大広間全体を見渡した。敵の配置、味方の位置、地形。全てが一瞬で頭に入ってくる。父さんが教えてくれた指揮官の目だ。
「9班、氷の壁を左右に展開!」
「了解!」9班の魔法職10人が一斉に詠唱を始める。巨大な氷の壁が左右の穴の前に立ち上がり、モンスターの流入を遮断した。
「5班6班7班8班、壁の内側にいる敵をすぐに殲滅!」
「「了解!」」40人が一斉に動く。氷の壁に閉じ込められたモンスターたちが次々と倒されていく。
「1班、正面の敵を止めろ!」
「了解!」1班のタンク4人が正面の穴の前に盾を並べる。モンスターの波が押し寄せるが4人の壁は崩れない。
「3班、タンクが止めた敵を1体ずつ倒せ!」
「了解!」3班のアタッカー10人が的確に敵を仕留めていく。
「長期戦になるぞ。2班4班は待機して休んでくれ!」
「了解!」2班4班が後方に下がる。
「10班、後ろからの挟撃に注意してくれ!」
「了解!」スカウト5人が後方に展開する。梨々香が気配遮断を解いて周囲を警戒し始めた。
俺はアイテムボックスからバスを1台出した。
「2班4班、先に休んでくれ。軽食と紅茶を出す」
「ありがとう綾斗君」
「助かるわ」
2班4班のメンバーがバスの中で休憩し始める。軽食と紅茶を配っている間も戦闘は続いている。交代制を敷いて長期戦に備える。
楓さんが俺の横に来た。
「持ち直したな」
「すみませんでした。もう大丈夫です」
「いいのよ。親のことが心配なのは当たり前だ。でも指揮官が動揺すれば全員が死ぬ。それだけは忘れないで」
「はい。忘れません」
「よし」楓さんが俺の背中を叩く。「戻ってきなさい」
俺は深呼吸をして前線に向かった。
「よし百花繚乱も参加するぞ!」
「「おう!」」6人の声が重なる。
萌香が剣を抜いて前に出る。
「綾斗の指示に従うわよみんな!」
琴音が薙刀を構える。
「右側を任せて!」
瑞葉が盾を前に出す。
「1班のタンクに加勢するわ」
悠花が杖を掲げる。
「氷の壁の補強をするね」
皐月が回復魔法を準備する。
「瑞葉の回復は任せて」
梨々香が後方に位置取る。
「後方の警戒は私がやります」
俺は全体を見渡して指示を出した。
「萌香は3班と一緒に正面の敵を削れ。琴音は5班と一緒に右側の殲滅を。瑞葉は1班に加勢して正面を固めろ。悠花は後ろの敵に魔法攻撃だ、密集してる所を焼いてやれ。皐月は1班の回復サポート。梨々香は後方警戒を続けてくれ」
「「了解!」」
六人がそれぞれの位置に散る。これで指揮系統が安定した。みんなの動きが一つにまとまっていく。
「氷の壁はまだ持つか?」
「持ちます!」悠花が答える。「でも長くは保てないかも」
「定期的に掛け直してくれ。9班、交代で壁の維持を」
「了解!」9班がローテーションを組む。
正面から押し寄せるモンスターの波。1班のタンクが必死に耐えている。皐月と1班の回復隊が絶え間なくヒールを飛ばす。
「3班、萌香、一斉攻撃!」
「おらぁっ!」萌香の剣がゴブリンを三体同時に薙ぎ払う。15.6倍に強化された一撃は圧倒的だ。
「5班、琴音、右側殲滅!」
「任せて!」琴音の薙刀がオークの群れを切り裂く。
少しずつ、確実にモンスターの数が減っていく。俺は全体を俯瞰しながら次の指示を考えた。
「2班4班、そろそろ交代だ。前線に出てくれ」
「了解!」休憩を終えた2班4班が前線に加わる。1班3班が下がって休憩に入る。
このローテーションが機能している限り、俺たちは負けない。
「父さん。今行くぞ。絶対に見つけるからな」
俺は心の中で呟いて、前線を見据えた。
戦闘はまだ続く。でももう迷わない。全員生きて帰す。それが俺の役目だ。
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