闇の中の野営
スカウトを先頭に慎重に進んでいく。梨々香と4人のスカウトが横に広がり、罠を一つ一つ解除しながら進む。
「罠発見。解除します」梨々香が小声で告げる。
「頼む」俺が頷くと彼女が素早く魔法陣を無効化した。
敵が少ない。俺はそれが気になっていた。
「敵が少ないな」萌香が小声で言う。
「父さんたちが倒して行ったからだと思う」俺が答える。「まだ生きてる。そうだと信じたい」
「そうね。お母さんたちが負けるわけないわ」琴音が頷く。
何回かの戦闘があった。巨大な蜘蛛型モンスター、毒を持つ植物型モンスター、物理無効の巨大なスライム。どれもSS級に相応しい強さだが俺たちにかかれば問題なかった。
「物理無効だ! 魔法剣を使え!」
「はい!」アタッカーたちが魔法剣を発動する。12.6倍に強化された魔法剣はスライムを一撃で両断した。
「3班右から! 9班魔法準備!」
俺の指示が飛ぶたびに各班が即座に反応する。107人の連携は想像以上にスムーズだった。楓さんの班分けが見事に機能している。
「罠排除完了」スカウト隊が報告する。
「よし、進むぞ」
慎重に、でも確実に奥へと進んでいく。何時間か進んだところで安全そうな広間を見つけた。
「ここで一度休憩だ。バスを出す」
俺がアイテムボックスから大型バスを2台取り出す。洞窟の中に突如として現れたバスに初めて見るメンバーが目を丸くした。
「すごい…アイテムボックスってこんなのが入るのね」
「さすが優斗様の息子だわ」
「食事は交代で取ってくれ。見張りも2班交代で」
107人がバスに分かれて乗り込み、萌香が作った料理を温めて食べ始めた。半分が食事をし半分が見張りにつく。
俺は見張りの番だった。洞窟の入り口付近に立って闇を見つめていると皐月が隣に来た。
皐月が隣に座る。「この程度の敵でお母さんたちが負けるはずないわ」
「そうだな」
「絶対に何か帰ってこれない事情があるのよ。罠かもしれないし行き止まりかもしれないし」
「そうだといいな」
「信じなさいよ」皐月が俺の肩を叩く。「お母さんたちは強い人たちよ。簡単に負けたりしない」
「ああ。信じてる」
沈黙が流れた。遠くで水滴が落ちる音だけが響いている。
「綾斗」
「ん?」
「私たちここまで来たわね。アパートで3人だったのが」
「そうだな。あっという間だった」
「あの頃はC級ダンジョンで必死だったのに。今はSS級で107人を指揮してる」
「父さんすごいよな。150人を指揮してたんだ」
「あなたも負けてないわよ」
皐月がふっと笑った。
寝る前の時間になった。みんなで身体を拭くことになった。お湯で濡らしたタオルで体を拭いているのだが、女性が一斉に服を脱ぎ始めた。
「目のやり場に困る…」俺が呟くと近くにいた支部長の一人が笑った。
「別に見たかったら見てもいいぞ」
「そうよ見てもいいのよ」
「あはは遠慮します」
女性たちがタオルで体を拭いている。20代から30代の歴戦の探索者たち。引き締まった体に傷跡。でも女性らしい曲線もちゃんとある。俺は必死に天井を見つめていた。
「綾斗君、見ないの?」幹部の一人がからかう。
「見ません」
「昔はそんなことなかったわよ」支部長の一人が笑い出す。「綾斗が生まれた時は私たちも綾斗に乳首を吸わせていたんだ」
「懐かしいな」別の幹部が続く。「乳も出ないのに綾斗は嬉しそうに乳首を吸っていたのよ」
「ああ綾斗は乳首が大好きだったな」と別の幹部。
「覚えてませんよそんな事!」俺が顔を赤くするとみんなが大笑いした。
悠花がいつの間にかメモを取り出していた。
「綾斗は乳首が好きと」
「そんな事覚えなくていい!」俺が叫ぶと悠花が笑う。
「覚えておくね」
「覚えるな!」
萌香と琴音が笑い転げている。梨々香も顔を真っ赤にして笑っていた。瑞葉だけは淡々と体を拭いている。
「まあまあ」楓が笑って俺の肩を叩く。「あなたが赤ちゃんの時の話よ。今の話じゃないから安心しなさい」
「しても安心できないんですけど」
「あははは」楓が腹を抱えて笑う。
一通り笑いが収まると各自が布団に潛り込んだ。交代の見張りを残してバスで眠りにつく。
俺は目を閉じて明日の事を考えた。107人の命が俺の指揮にかかっている。間違った指示を出せば人が死ぬ。父さんは15年間この重圧を背負ってきたんだ。
「父さん。どこまで行ったんだ」
俺は闇に向かって小さく呟いた。返事はない。ただ水滴の音だけが響いていた。
明日も進む。父さんたちを必ず見つける。そのためには休まないといけない。
俺は深呼吸をして目を閉じた。眠りにつく前に皐月の言葉を思い出す。
お母さんたちは強い人たちよ。簡単に負けたりしない。
そうだ。信じよう。父さんたちを必ず見つけて一緒に帰る。
俺は意識を手放して闇の中に沈んでいった。




