救援準備
翌朝、祝福の絆のクランハウスに向かった。大広間には各支部から集まったメンバーたちがずらりと並んでいた。俺が入ると一斉に視線が集まる。
「綾斗君、救援メンバーの選出を始めるわ」
最年長の支部長が俺の隣に立った。彼女は短い黒髪に鋭い目つきをした30代の女性だ。名前は楓。中部支部の支部長だ。
「支部含めて、行きたいと表明したメンバーから選抜するわ。バランスよくね」
「お願いします」
選抜が始まった。アタッカー、タンク、魔法職、バッファー、スカウト。各役割ごとに経験と適性を確認して選んでいく。
「前衛アタッカーはこの30人」楓が指名する。
「タンクは10人。魔法職は10人。バッファーは5人。スカウトは5人。ヒーラーは20人。残りはバランス型で20人」
「合計100人ですね」
「そう。これでSS級ダンジョンに突入する」
選ばれたメンバーたちが大広間に集まる。20代から30代の女性たちばかりだ。全員が歴戦の探索者という雰囲気を持っている。
「全員を5倍にする時間はないけど、せめて2倍にはしておきたい」楓が言う。
「そうね。2倍でも十分強化されるわ。裸を見せればいいのよね?」
「はい」
「じゃあ順番に」
一人目が前に出た。30代くらいの女性で、傷だらけの革鎧を着ている。歴戦の戦士だ。
「こんなおばさんの裸見ても面白くないだろうけどな」
彼女が苦笑いしながら鎧を脱ぎ始めた。
「とても綺麗です」
俺はお世辞じゃなくてそう思った。傷跡は勲章だ。引き締まった体に刻まれた戦いの証。綺麗だと思った。
彼女が顔を赤くした。
「お世辞でも嬉しいわ。ありがとう」
一人ずつ順番に裸を見せていく。20代の若いメンバーは恥ずかしそうにしながらも覚悟を決めて服を脱ぐ。30代以上のメンバーは笑いながら脱ぐ人もいれば、真剣な顔で脱ぐ人もいた。
「次」
楓が呼ぶ。次々と前に出ては服を脱ぎ、俺がその体を見る。百人全員の裸を見るのは時間がかかった。でも俺は一人一人を真っ直ぐに見つめた。彼女たちの覚悟に応えるために。
「全員終わったわ」楓が言う。
「ありがとうございます。これで全員2倍以上にはなっているはずです」
「助かるわ。じゃあ装備の準備に移りましょう」
寝る所のテントの代わりに大型バスを二台借りてきた。アイテムボックスにしまっておけばいつでも出せる。
「綾斗君、これお願い」
クランのメンバーたちが作った料理が次々と運ばれてくる。百人の1ヶ月分。出来たそばから俺のアイテムボックスに詰め込んでいく。
「まだあるわよ」
「はいはい」
「次はこれ」
「入りました」
「飲み物もお願いね」
「わかってます」
料理の搬入は丸一日かかった。百人分の食料をアイテムボックスに詰め込むのは大仕事だ。
その日の夕方、若洲のダンジョン入り口で待機しているメンバーから報告が入った。
「帰還の報告はありません」
俺は携帯を切ってため息をついた。萌香が俺の肩を叩く。
「大丈夫。明日も準備があるよ」
「ああ」
翌日も救援準備に明け暮れた。支部からの突入メンバーも全員揃い、残りのメンバーも全員俺に裸を見せた。
「全員の強化が完了しました」
「ありがとう綾斗君」楓が頷く。「じゃあ実際にステータスを確認しましょう。12.5倍の感覚を養うために近くのB級ダンジョンに行くわよ」
「B級ダンジョンに百人で?」
「そう。実戦で体を動かさないと感覚が掴めないから」
祝福の絆から100人と百花繚乱の6人。総勢106人がB級ダンジョン『鉄骨の回廊』の入り口に立った。
「全員準備はいいか?」俺が声を上げる。
「「おー!」」
105人の声が地鳴りのように響いた。
「よし。《百花繚乱》」
全員に手をかざすと、金色の光が105人を包み込んだ。12.5倍。105人全員のステータスが跳ね上がる。
「すごい…力が溢れてくる…」
「体が軽い! これが12.5倍か…」
「魔法の威力が桁違いよ」
全員が自分の体を確かめて驚いている。萌香も拳を握りしめて目を輝かせた。
「綾斗これすごい! B級なんて楽勝じゃない?」
「油禁するなよ。あくまでテストだ」
ダンジョンに入った瞬間、モンスターがかわいそうになるくらいの蹂躙が始まった。
機械犬が飛び出してくると同時に、十人のアタッカーが一斉に斬りかかる。機械犬は一瞬で粉砕された。
「次来るぞ!」
数体の機械兵が現れるが、タンク三人が盾で受け止める前に魔法職四人がファイアボールを放ち、機械兵は灰になった。
「速い…」皐月が呆然とする。「B級モンスターが雑魚すぎる」
「12.5倍だからな。B級じゃ相手にならない」
あっと言う間にボス部屋に到着した。アイアンタイタンが立っているが、106人の前ではただ的に見えた。
「全員一斉攻撃!」
106人の攻撃が同時に炸裂する。剣も魔法も矢も全てがアイアンタイタンに殺到した。ボスは一撃で粉砕され、金属片が雨のように降り注いだ。
「…終わった」琴音が呆然とする。
「速すぎない?」瑞葉も目を丸くする。
「あっと言う間にボスまで倒してしまったわ」皐月がため息をつく。「管理している協会に後で怒られるぞこれ」
「ははっ、まあテストだからな」
B級ダンジョンを踏破して外に出ると、楓が頷いた。
「いい感じね。12.5倍ならSS級でも戦えるはずよ」
「はい。でも油断は禁物です。SS級は未知の領域ですから」
「分かってるわ。でもこの戦力ならいける。そう信じましょう」
クランハウスに帰ってまた料理を詰め込んだ。100人の1ヶ月分の食料に加えて、飲み物や薬も追加で詰め込んでいく。
「これで準備は万端ですね」
「そうね。あとは明日を待つだけよ」
夜になった。今日も若洲のダンジョンからは良い報告はなかった。
「明日は救援に出発だ」俺が言うと5人が頷いた。
明日、俺たちは父さんたちを助けに行く。
俺は窓から夜空を見上げた。父さん、母さん。もう少しだけ待っていてくれ。明日絶対に迎えに行くから。
「綾斗」皐月が隣に立つ。
「ん?」
「明日は覚悟を決めて行こう。SS級ダンジョンは今までとは違う。死ぬかもしれない」
「わかってる」
「でも行くのね」
「ああ。父さんたちが待ってるからな」
皐月がふっと笑った。
「そうね。じゃあ早く寝ましょう。明日は長い一日になるわよ」
「そうだな。おやすみ皐月」
「おやすみ綾斗」
明日は運命の日だ。父さんたちを必ず連れて帰る。そのために俺たちは106人でSS級ダンジョンに突入する。
百花繚乱。105個の美しい花が咲き乱れる。その力で必ず父さんたちを救い出す。




