救援への決断
「あの、父さんたちは帰ってきましたか?」
協会の受付で俺は恐る恐る聞いた。受付嬢の顔が曇る。それだけで答えは分かった。
「いえ、まだその報告はありません」
「そうですか」
「白夜様…心配なさらないでください。優斗様たちは…」
「はい。わかってます」
俺はそれ以上聞かずに協会を後にした。背後で五人が心配そうについてくる。
「綾斗…」萌香が俺の背中に声をかける。
「大丈夫だ。父さんたちは絶対に帰ってくる」
そう言いながらも胸の奥が冷たかった。SS級ダンジョンに入ってもう二週間近くになる。父さんたちが予定していた帰還日まであと数日だ。
「祝福の絆のクランハウスに行ってみよう。何か情報があるかもしれない」
六人はクランハウスに向かった。いつもの大きな家の前には見慣れない車が何台も停まっていた。
「何かあるな」俺が呟くと皐月が頷いた。
「支部の車だ、各支部の人たちが集まっているみたい」
玄関を開けると、家中がざわめきに包まれていた。大広間の方から複数の声が聞こえる。俺たちが中に入ると、お姉さんたちが慌ただしく動き回っているのが見えた。
「綾斗君! 来てくれたの!」
クランの古株のお姉さんが駆け寄ってきた。その顔は疲れている。
「何があったんですか?」
「各支部の支部長と幹部たちが集まって会議をしているの。二週間で帰還予定だったのがもうすぐ二週間になるのに音沙汰もないのよ」
「やっぱり…」
「会議室の方で救援の話し合いをしてるんだけど…まとまらないの」
俺たちは会議室のドアの前で立ち止まった。中から激しい議論が漏れ聞こえてくる。
「救援の準備を進めるべきだ!」
一人の支部長が声を荒げている。
「マスターがいないのに私たちが行って救援出来るのか!」
別の支部長が反論する。
「そうだな。ミイラ取りがミイラになるのは避けなければいけない」
「じゃ、救援は行かずに放っておく気か!」
「そんな事は言っていない! ただ他の方法を探しているんだ!」
「レベルは私たちが一番高いんだぞ! 他の方法なんてないだろう!」
「優斗さんのスキル無しでは私たちはS級でギリギリだろう。それ以上のSS級なんて…」
会議は難航しているようだった。俺はドアの前に立ったまま五人の方を向いた。
「皐月…俺行ってもいいか?」
皐月が俺の背中をポンと押した。
「私たちも付き合うわよ」
萌香も頷く。
「当たり前でしょ! 綾斗一人で行かせるわけないじゃない」
「うん。私たちも一緒に行く」悠花も小さく言う。
「守るのは私の役目だよ」瑞葉が盾を背負い直す。
「薙刀の腕を見せるチャンスね」琴音が薙刀を握りしめる。
俺は深呼吸をして会議室のドアを開けた。
中には十人以上の女性たちが座っていた。全員父さんと同年代か少し下くらいの歳だ。綺麗な人ばかりだ。各支部の支部長と幹部たち。
「綾斗じゃないか! 探索者になったんだってな」
一人の支部長が俺に気づいて声をかける。
「はい。クラン百花繚乱のマスターをやっています」
「百花繚乱…いい名前ね。綾斗が独立してクランを作ったと聞いてるわ」
「はい。今日はお願いがあって来ました」
俺は会議室の中央に進み出て十人以上の女性たちを見回した。
「みなさん、俺を連れて行ってください」
部屋が静まり返った。
「連れて行くって…SS級ダンジョンに?」
「はい。父さんたちは絶対に帰ってくると信じています。けど何かあって帰ってこれないのなら助けに行きたい」
「綾斗君…気持ちは分かるけど君はまだ…」
「俺のスキルは百花繚乱です」俺が遮って言う。「スキルをかける女性が一人増えるごとに0.1上昇率が上がります。百人で行けば父さんと同じ10倍になるはずです」
部屋がざわざわとし始めた。
「それなら行けるんじゃないか?」
「けど綾斗を連れて行って優斗さん怒らないか?」
「それしか助けに行く手段がないだろ」
「私たちが綾斗を守ればいいんだ」
「10倍ならSS級でも戦えるかもしれない」
議論が飛び交う中、皐月が前に出た。
「綾斗のパーティメンバーの月城皐月と言います。クラン外ですが発言失礼します」
支部長たちの視線が皐月に集中する。
「綾斗の百花繚乱は人数が増えることに加えて裸を見せれば2倍、契りを交わせば5倍になります」
部屋が再び静まり返った。
「5倍?」
「私たち5人は5倍の上昇率になっています。100人の女性を出してくれれば私たちは15倍の上昇率になる計算です」
「15倍!?」
「それならSS級どころか…」
「いやでも15倍って…優斗さんの10倍を超えるわよ」
「私たちも連れて行ってください」皐月が深く頭を下げた。「お願いします」
萌香、琴音、悠花、瑞葉も続いて頭を下げる。
「お願いします!」
「私たちも戦います!」
「綾斗を守るのは私の役目です」
「魔法で援護します」
支部長たちが顔を見合わせた。長い沈黙の後、一番年長の支部長が口を開いた。
「分かった」
「ありがとうございます!」
支部長が俺を真っ直ぐに見た。「あと3日待って帰ってこなかったら救援に出発する。それまで準備していて」
「3日…」
「優斗さんたちは約束を守る人だ。3日以内に帰ってくるかもしれない。でもそれでも帰ってこなかったら…その時は覚悟を決めて出発するわ」
「はい。準備しておきます」
「それともう一つ」支部長が俺の目をじっと見た。「私たちがあなたを守るわ。100人の女性があなたを守る。だから絶対に死なないで。あなたが死んだらこの作戦は終わりだから」
「わかっています。俺が死んじゃうと皆のバフも切れてしまう、生きて帰ると約束します」
「いい返事だ」支部長が微笑んだ。「3日よ。準備しなさい」
会議室を出て六人は外の空気を吸った。夕暮れの空が赤く染まっている。
「3日か…」萌香が呟く。
「3日待って帰ってこなかったら私たちはSS級ダンジョンに行くのね」琴音が覚悟を決めた顔をする。
「15倍…」悠花が自分の手を見つめる。「私たちがそんなに強くなれるなんて」
「強くなるだけじゃないわ」皐月が静かに言う。「百人の命を預かるのよ。覚悟はいい?」
「「おう!」」五人の声が重なる。
俺は夕暮れの空を見上げた。父さん。あと3日だ。3日待って、もし帰ってこなかったら俺が迎えに行く。
「よし。3日間で準備を完璧にするぞ。装備、食料、薬、全部だ」
「了解!」五人の声が響いた。
百花繚乱の六人は夕暮れの中を歩き出した。3日後。俺たちは父さんたちを救いに行く。そのために今できることを全てやる。
「父さん。待っててくれ。絶対に助けに行くからな」
俺は心の中でそう呟いて拳を握りしめた。




