A級ダンジョン突入
「A級ダンジョン『瘴気の密林』踏破依頼、お願いします」
俺が協会の受付でそう言うと、受付嬢が目を丸くした。
「白夜様…まだ登録から日が浅いのでは? A級は…」
その時だ。
「おいっ、お前らまだ新人だろぉが! なに生意気にA級ダンジョンの依頼なんか持ってるんだ!」
背後からドスの効いた声が飛んできた。振り返ると、体の大きな男が仁王立ちで立っている。筋肉の塊みたいな体に、傷だらけの革鎧。2メートルはあろうかという巨躯が俺たちを見下ろしていた。
悠花が「ひっ」と小さな悲鳴を上げて瑞葉の後ろに隠れた。
瑞葉が前に出る。
「なんだよ、あんた! 人の依頼に文句あるの?」
大男がニヤリと笑った。
「優しくしてやるから、俺のクランに来いよ。祝福に女の子全部取られて有能な女の子募集中なんだ」
悠花が瑞葉の背中で震えている。琴音も薙刀に手をかけかけた。
俺は二人の間に割って入った。
「おじさん、怖がらせるのはやめてください」
大男が俺を見下ろす。
「綾斗!お前まで女の子ばっかりのパーティかよ。もしかしてお前のスキルも優斗の奴と同じか?」
男が腹を抱えて笑い出す。
「そうですね、大体同じようなスキルを貰いました」
俺が落ち着いて答えると、男の笑いが止まった。
「マジかよ…親父も規格外だったが息子までかよ」
俺は五人に向き直った。
「この人は巴母さんの兄さんで、現鋼鉄の熊のクランマスター、鬼塚剛一さんだよ」
五人の顔から力が抜けた。
「えっ…巴さんのお兄さん?」琴音が目を丸くする。
「巴母さんって…あのハルバードの人?」萌香も驚く。
瑞葉が盾を下ろした。
「…怖がらせないでくださいよ。びっくりしたじゃないですか」
悠花が瑞葉の背中から出てきて、涙目で言った。
「怖かったよー」
「ダンジョンのモンスターより怖くないよ」俺が笑うと、剛一が苦笑いした。
「わりぃわりぃ。脅かすつもりはなかったんだ。ただ若いのがA級行くって聞いて気になってな」
剛一が真剣な顔になった。
「あいつらまだ帰ってきてないようだな」
「そうですね」俺が頷く。「でも巴母さんもついているし、心配するより強くなって待っていることにしました」
剛一が頭を掻いた。
「すまないな。祝福にばかり危険な事をさせて。俺たちもバッファーとか育てているんだが、瞬間2倍にするのが精一杯のスキルとかでな。優斗たちについていけないんだ」
「父さんは規格外ですからね」俺が笑うと、剛一も笑った。
「確かにな。あいつは別格だ」
剛一が俺たち全員を見回した。
「お前たちはもうA級ダンジョンに行くのか?」
「はい。B級ダンジョンは攻略したので今日からA級です」
剛一の目が細くなった。
「無理はしても、無茶はするんじゃないぞ。マスターはみんなを生きて帰らすのが仕事だからな」
その言葉には重みがあった。長年探索者を続けてきた男の言葉だ。
「ありがとうございます、剛一おじさん」
俺が頭を下げると、剛一がポンと俺の肩を叩いた。
「頑張れよ。お前らならやれる」
俺たちは剛一おじさんと別れて協会を出た。
「怖い顔だけどいい人だったね」琴音が笑う。
「巴さんのお兄さんかぁ…似てるね体格が」萌香が頷く。
「びっくりした…」悠花がまだ胸を撫でている。
「でもあの人が言ったこと忘れないでね」皐月が静かに言う。「マスターはみんなを生きて帰らすのが仕事。それは綾斗の役目よ」
「わかってるよ」俺が答える。「よし、A級ダンジョンに行こう!」
「「おー!」」五人の声が重なった。
A級ダンジョン『瘴気の密林』の入り口に立つ。薄緑色の霧が立ち込める森。空気は重く、呼吸をするだけで肺に負担がかかる。
「毒霧があるから気をつけろ」俺が言うと全員が頷く。
「よし。《百花繚乱》」
五人に手をかざすと金色の光が包み込む。5.5倍に強化された五人の体から溢れる力は、今までとは比べ物にならない。
「行くぞ。毒霧の中では視界が悪い。距離を詰めすぎるな」
六人は慎重に森の中へと進んだ。
最初のモンスターは巨大な蜂だった。毒針を持つ厄介な敵だ。
「来るぞ! 上空から三体!」
「瑞葉が前に! 琴音、リーチをいかせて攻撃だ!」
「了解!」
瑞葉が盾を構え、萌香と琴音が左右に展開する。蜂が毒針を振り下ろしてくる。
「瑞葉!」
「任せて!」
瑞葉が毒針を盾で弾く。
「今だ!」
萌香の剣が蜂の腹部を裂き、琴音の薙刀が羽根を断ち切った。悠花のファイアボールが最後の一匹を焼き尽くす。
「A級モンスターもいける!」萌香が興奮する。
「油断するなよ。まだまだ奥がある」
森の奥へと進むにつれて毒霧は濃くなり、モンスターも強力になっていく。物理無効のスライム型モンスターも現れた。
「物理無効だ! 魔法剣を使え!」
萌香と琴音が剣と薙刀に魔力を纏わせる。まだ不慣れだが、魔力を乗せた一撃はスライムの体を切り裂いた。
「できた!」萌香が叫ぶ。
「私も!」琴音も続く。
「悠花! 魔法で削れ!」
「えいっ! ファイアボール!」
悠花の火球がスライムを直撃する。六人の連携は完璧だった。
レベルが上がっていく。12、13、14。A級ダンジョンの経験値はB級とは比べ物にならない。
「レベル14か…」皐月がカードを確認する。「すごい上がりね」
「でもまだ足りない」俺が言う。「S級に行くにはもっと必要だ」
「わかってるわよ」皐月が頷く。「まずはA級を攻略して、その次はS級よ」
六人は毒霧の中を確実に前に進んでいた。A級ダンジョン。俺たちにとっては初めての本格的な戦場だ。でもこの六人ならやれる。そう確信していた。
「気合を入れて行くぞ」
「「おー!」」
六人の声が毒霧の森に響き渡った。




